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    一生の宝物

     ←カップの中の平和 →ぴゆうさん復帰おめでとうプレゼント掌編!
     初めて腕時計を買ってもらった時、ぼくは、自分がひとつ大人になったような気がした。

     安物のデジタル時計だったが、それは小学生のぼくにとっては宝物だった。どこへ遊びに行くにも、ぼくはそれをつけていった。

     もとからうちの家系は物持ちがいい。その安物のデジタル時計は、時に電池の入れ替えはあったものの、中学を卒業して高校に入ってからも、ぼくの腕にあった。

     それはまるで、ぼくの一部分であるかのようだった。

     ある日。

     陸上部の部活中、ぼくはマネージャーをしていた後輩の女の子に腕時計を渡した。安物といっても、昔のデジタル時計にごてごてついた無駄な機能の数々といったら笑ってしまうもので、その時計にも、アラーム機能とストップウォッチ機能が取り付けられていた。

    「いいかい? これがスタート。で、これを押すとストップで、これがラップタイム。わかるだろ?」

    「……はい。……はい。先輩」

    「じゃ、これからは、ストップウォッチを忘れるようなことはしないでくれよ。ただでさえ、うちの陸上部は、弱いことで有名で、予算がなくて、ストップウォッチすら買うことが」

     女の子は、くすりと笑った。

    「先生が聞いていますよ、先輩」

     ぼくもにやりと笑った。

    「聞こえるようにいってるのさ」

     ぼくはトラックに戻り、走る準備を整えた。

     その瞬間。

    「気をつけろっ!」

     という大声がした。

     後輩の女の子は、「きゃっ」といって、手で顔をかばった。

     野球部の誰が打ったのか、ファウルボールが強烈な当たりとなって、ネットの穴を突き抜けてこっちまで飛んできたのだ。うちの学校は伝統的にスポーツは弱い。その結果部費や設備の維持費が削られて……って、もう説明したか。

     ボールは、ちょうど後輩の女の子の顔のあたりへまっすぐに飛んできて、ぶち当たったのだ。

    「大丈夫か!」

     ぼくは倒れた後輩のそばに駆け寄った。

     後輩の顔が無事だったのはよかった。

     しかし、その代わりに……。

     後輩がとっさに顔をかばった手に握られていたぼくの時計が、ボールの直撃を受けていた。

     液晶に、びしっと一本、大きな亀裂が走っていた。

    「すみません……すみません、先輩……」

     女の子は涙ぐんでいた。

    「先輩の大事な時計を……」

    「君が無事だったほうが千倍もいいよ」

     ぼくは後輩を抱え起こした。

    「さて、保健室で先生に診てもらおう。打撲っていうのはけっこうやっかいなものなんだ」

     そうはいったものの、この十年近くを苦楽を共にしてきた時計だ、喪失感がないか、といわれたらそんなわけがなかった。

     保健室で先生は、女の子に手当てをしてくれた。

    「とっさに頭をかばったのがよかったのね。この手の具合から見ると、もしも顔に当たっていたら、鼻血じゃすまなかったわよ」

    「変なこといわないでください先生」

     ぼくは女の子の後ろで先生をにらんだ。

    「いや、冗談じゃなくって……とりあえず、あなたはもう家に帰りなさい。痛みがひどいようだったら、病院へ行くのよ。そうでなくとも、明日の朝、もう一度ここに来るように」

    「はい」

    「それと、そこのぼく」

    「ぼくですか?」

    「そうよ。あなた、この子をエスコートしてあげなさい。どのみち、こんなことが起こった後では、練習どころの心理状態じゃないでしょ?」

     まあそういわれればそうだった。

     かくして、制服に着替えたぼくと女の子は、妙に無口なままで一緒に下校することになったのだ。

     途中、いきなり後輩の女の子は立ち止まった。

    「先輩」

    「な、なんだい」

    「ちょっと待っていていただけませんか」

     女の子が入っていったのは、百円ショップだった。こんなところで何を買うんだ、ぼくはちょっと困った顔つきで、店の出口で立っていた。

     後輩はすぐに店から出てきた。出てくるやいなや、なにかをぼくの手に押し付けた。

    「なんだい、これ……」

     ぼくはしげしげと見た。百円ショップによくある、税込み百五円の黒い安物デジタル時計だった。

    「きみ……」

     ぼくはまあ、感謝しておくかな、くらいの気持ちで相手を見た。

     そのとき、ビニール袋の中にある、もう一つのものに気づいた。

     同じく税込み百五円の、赤い安物デジタル時計だった。

     ぼくが気づいたことを悟ったのか、女の子は時計よりもさらに真っ赤になった。

     さっきも説明したけれど、うちの家系は物持ちがいい。だからこういうわけなんだ、家の棚に、もう動かない、色違いの百五円の時計がふたつ、大切な宝物のようにとっておいてあるわけは……。
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    なんといったらいいのかなんかこうとにかく幸せになってください。

    時計を壊しても何も起こらず時間だけが無情にすぎていく
    私はどうしたらいいでしょうか?
    心が痛いんですがどこの病院に行ったら…

    Re: YUKAさん

    いい気分になってくれて嬉しいです!

    ちなみにわたしはこんな青春とは無縁のオタクとして(以下略。泣)

    おはようございます^^

    いいですね~~^^

    最後の並んだ時計でふふっと笑ってしまいました^^
    さわやかだわ~~~

    朝からいい気分です♪

    Re: ぴゆうさん

    LOVEものでカテですか……。

    考えておきます。

    考えただけで恥ずかしさのあまりに悶絶ですが(^^;)

    鍵のほうですが、

    差し入れです v-365

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    おおーー
    いいにゃーー
    こういうの大好き。
    LOVEものだけでカテを作って欲しいものだ。
    幸せな気分になるもの。

    Re: ONLY++NOTEさん

    ありがとうございます。これからも精進して楽しめる話を書いてみせます!

    Re: 矢端想さん

    えっ今のデジタル時計にはストップウォッチついてないの。がーん(^^;)

    それにしてもあのダ○ソーの105円時計、どうやって採算を取っているんだかまったく見当がつかん! ちなみにわたしは105円万歩計と105円キッチンタイマーを愛用しています。キッチンタイマーは範子文子を書くときの必需品(笑)。

    iいいねーー.・・・オンリーノート。

    いいねーー。うまい。絶品。以上。

    ところで、ストップウォッチなどいろんな機能つきのデジタル時計を小学生が買ってもらったなんて、世代がバレますなあ(笑)

    ぎゃー!ペアウォッチ・・・!

    敢えてノーコメント。

    愛用していた時計が壊れて直せないまま、今僕の腕にあるのは、まさに税込105円の黒いデジタル時計です。マジです。よく進みます。

    ・・・しかしあの時計どこへ(略)

    Re: 土屋マルさん

    こっちも部屋は片づけても片づけてもすぐにぐちゃぐちゃに(^^;)

    うむむむ(^^;)


    こういう話を書いていると、わたしの人生これでよかったのかという煩悶が。いやよくないことはわかりきっているけど煩悶が(笑)

    あんちゃんくやしいのうくやしいのうギギギ(笑)

    うわ~、顔がニヤけてしまうっ。
    いいですねえ、青春ですねえ(*´ω`*)テレ

    私は基本的に(文房具以外は)なくしたり、どこにしまったか思い出せなくなってしまうタイプです^^;
    部屋がごちゃごちゃしてるからかしら‥‥。

    私もこんな思い出欲しいです(笑)

    Re: 綾瀬さん

    お互い、現実とはむなしいものですなあ(T_T)

    まあ小説ですし。一種のファンタジーですし(T_T)

    ああ、似たような経験があります。



    ファウルボールでなくて、サッカーボールが顔面直撃したんですけど。。
    その後、我が家に時計がふたつ並んで…なーんてことはないです(T T)

    Re: limeさん

    これを常日頃のリアルなわたしを知っている人間が読んだらのた打ち回って笑うと思います。

    こんな経験とは縁もゆかりもない人生なもんで(^^;)

    さーて、また百円ショップ行ってゲームに使う名刺プリント用紙買ってくるか!(いいのかわたし(^^;))

    いや~ん、朝から爽やかなの、読んじゃった。
    (朝だから、いいのか)
    ますます、冴えてきましたねぇ、爽やか路線。
    幸せになったんですねえ~。
    いいなあ。恋。

    いまどきの100円ショップはすごいですね。
    行くと、ぜったい余計なものまで買っちゃうので、なるべく近づかないようにしています。
    でも、300円ショップは良く行きます。(笑
    すっごいですよ、300円ショップ!(←こういう人が、騙されやすい)

    Re: ルルさん

    青春にはセンター試験というものが(笑)

    それもまた醍醐味というもの。がんばれ~♪

    Re: 飛翔掘削さん

    そのくせ変なものだけはたまる一方だったりするのがこういう趣味の宿命ですね(^^)

    わたしもこういう青春を送りたかったぜ……(←性格上無理(笑))

    いいはなしだ……。

    青春か…。

    物には思い出が刻まれるから、だから大切にしなければならないんですね。
    私はすぐにモノを失くしたり壊したりしてしまいがちでいかんです。大切にしているつもりなんですが……。

    それにしても、青春って良いものですねぇ……(遠い目)。
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