「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・1月15日

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    「原因はわかったかの、便利屋さん」

     夕闇が降りつつある中、村で唯一の本屋を営むニコルさんの声に、エドさんはよいしょ、と車の下から這い出しました。

    「ラジエーターがやられてますね。不凍液が水になって凍りついています。応急的な処置はしておいたから、なんとか走れるとは思いますが、わたしだったら、明日にでも町の本職の自動車屋に持って行って、徹底したオーバーホールをするところですね」

    「やっぱりそうか。しかたない、明日、陽が昇ったら町まで下りて行こう。しかし、誰がこんなことを」

     エドさんはかぶりを振りました。

    「いたずらにしても、ひどすぎますね」

     頭を抱えていたニコルさんは、ふいに顔を上げてエドさんを見ました。

    「そういえば、君、探偵だったそうじゃな? 腕利きの」

     エドさんは肩をすくめました。

    「たしかに、元は探偵でしたが、腕利きどころか、ちっともはやらない探偵でしたよ」

    「探偵には違いない。このひどいいたずらをしたやつが来ないように、どうかうちのガレージを見張っていてほしいのだが」

    「でも、探偵は廃業しましたし、村のほかの人の仕事もありますし……」

    「なにも毎日毎日二十四時間ぶっ通しで見張っていろ、とはいわん。明日の朝、町へ運転していくまでの間だけのことだ」

     たしかに、応急処置をした車を夜に運転していくのは危険です。とはいえ、レッカー車を呼んだらけっこうなお金を取られる、というニコルさんの気持ちもわからないではありません。結局、エドさんは依頼を引き受け、家で待つ奥さんのクロエさんに、これこれこういうわけで今日は帰れない、と電話をかけました。クロエさんは、ひどくがっかりしたようでした。

    「危険な真似はしないでね。今晩はあなたの大好きなキノコのシチューなのに」

    「ごめん、ほんとうにごめん。まあ、大きな声を出せば、いたずら者も逃げていくさ」

     エドさんは、防寒用に毛布を借り、夕食用にコーヒーの魔法瓶とサラミソーセージをもらって、ガレージの隅に座り込みました。

     しかし、思い浮かぶのは妻の顔と食べ物のことばかりです。寒さに震えながら、エドさんはコーヒーを飲んで耐えました。とはいえ、夜の更けるにつれ、エドさんはだんだんと眠くなってきました。

    「ええい、しっかりしろ」

     自分にそういってエドさんがサラミソーセージをひとかじりしたとき……。

     なにか得体の知れないものがふわりふわりと車めがけて飛んできたではありませんか。

    「な、なんだお前は!」

     エドさんは叫んで、懐中電灯の光を向けました。それと同時に、母屋のほうからも、ニコルさんが走ってきました。

    「なんじゃなんじゃ、どうした便利屋!」

     そこでは翼を生やした醜い妖精が、ラジエーターに牙を突き立てようとしていました。

    「グレムリンじゃ! わしの親父がいっていた、エンジンを故障させる妖精じゃ!」

    「とにかくつかまえましょう!」

     ふたりがわっと飛びかかると、グレムリンはふわりと身をかわして扉の方へ進み……。

    「あなた、差し入れよ!」

     という声とともにいきなり開いた扉に押し潰され、叩き落とされてしまいました。

    「よくやった!」

     戸惑い顔で立っていたのは、保温ジャーを持っていたクロエさんでした。

    「さて、こいつはなんでこんなことを?」

     グレムリンに籠を被せて逃げられないようにした三人は、ううん、と悩みました。

    「不凍液を飲みに来たんじゃないですかね。エチレングリコールって、甘いですから」

    「あれ、甘いそうだけど、毒があるのよ」

     クロエさんは、ジャーからキノコのシチューを少し盛って、籠の中に差し入れました。

     グレムリンはおそるおそるシチューを舐めると、次にがつがつと食べ始めました。

    「もう不凍液も飲まないと思いますよ」

     ニコルさんは悩んでいましたが、籠を開けて、食べ終えたグレムリンが飛んでいくに任せました。それ以来、ニコルさんの車がいたずらされることはありませんでした。



     しばらくしたある日。

    「なあ、クロエ。わたしのキノコのシチュー、量が少なくないか?」

    「そんなことはないはずだけど……あっ!」

     エドさんは家の窓から、翼のある妖精がふわりふわりと逃げていくのに気づきました。

    「グレムリンめえ! 恩知らず!」

     エドさんは地団太を踏んで叫びました。

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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    トワイライトゾーンのあの有名な話みたいにならなくてよかったですね。化け物が飛行機のエンジンを壊そうとする話(^^)

    グレムリンは、第二次大戦中、英軍のパイロットが、突如不調になるエンジンを、「妖精が悪さしているに違いない」といいだしたのが始まりだと聞きました。

    いちおうエドさんの世界は「性善説」にのっとっていますので、グレムリンもおとなしくなった……と思いたいです(^^)

    そう言えばグレムリンの話を「世界の不思議」だったけかな?幼い頃に読んだのよね。
    それを覚えていて飛行機に乗った時、必死に外を眺めた。
    グレムリンが羽を齧っていたら大変だって・・・
    思い出した。

    Re: 有村司さん

    疲れたせいか昨日は巡回を終えたとたんにぶっ倒れて今朝までぐーすか……。コメ遅れすみません。

    いろいろとごたごたがあったようですが、復帰されてよかったです。

    読んでいた小説が途中で読めなくなってしまうのか、と思った時のあの絶望感ときたらもう。

    うちのブログは年中開けてありますからいつでもどうぞ~(^^)

    こんにちは…!

    エドさんのお話は、やっぱり癒されますねえ…久しぶりに読みに来て良かったです。

    さて、年頭からお騒がせ致しましたが、この度友人の叱咤激励を受けて復帰いたしました。
    また、拝読に通いますので、よろしくお願いいたします。

    Re: るるさん

    なんであれ、「毎日」はつらすぎるということがわかった(笑)

    とりあえず週一で我慢していただきたく(^^)

    一年続けられるかどうかすらわからんのだから。

    それを考えると新聞に毎日4コマ連載している先生方はすげえ……。

    まあ今日はキノコのシチューとはいわんまでもあったかいもの食べて疲れを癒してくださいね~。

    読んだらおなかが減ってきました。
    ぐーぎゅるぎゅる。

    エドさんシリーズ好きです、おいら。
    毎日してください(

    Re: 土屋マルさん

    そこで甘い顔をすると、例の「土産物を奪う凶暴なサル」みたいな問題を引き起こしかねないので、砂糖水でいいんだ砂糖水で(笑)

    マクファースン家のペットにしてしまうというのも考えたけど、それをやると話に収拾が(^^;)

    Re: limeさん

    ふっふっふっ。

    今の段階で明日UPする原稿が真っ白じゃあ~っ!(笑)

    そのうえ例のやつの推敲すらうまくいっとら~ん!

    果たして濃厚なのが書けるのかわたし(^^;)

    ほのぼのとした、素敵なお話でした♪
    エドさんってやっぱりいいですね(*´ω`*)テレ

    ふと、「あらいぐまラスカル」を思い出しました。
    お隣の農場のトウモロコシが気に入って、畑のトウモロコシを根こそぎ食べてしまうというエピソード。
    トウキビだったかな?
    好きには勝てない、というやつでしょうか(笑)

    エドさんのシチューが荒らされないように、クロエさん、グレムリンの分も作ってあげてね(笑)

    これもまた、可愛らしくて素敵なお話でした^^
    これからは、グレムリン用にシチューを用意しなきゃいけないかな。
    いや、砂糖水でいいかw
    でも、今回もやっぱり、お手柄はクロエさんだったような・・・。

    ところで、あちらの方は、書けましたか?^^
    楽しみにしていますね~~。

    今、濃厚なのを読みたい気分なので、紹介してください!

    Re: YUKAさん

    グレムリン退治用にハエ叩きを準備して食事につくとか……しないよエドさんだもん(^^)

    こんばんは^^

    あはは~~
    美味しいものを他に知ってしまいましたね^^

    これから好物のシチュウを食べる時は、
    毎回戦々恐々とするのでしょうか?^^


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