カミラ&ヒース緊急治療院

    急患その1:肝臓破裂

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     10000ヒット記念にミズマ。さんに出したお題と、その回答が面白かったので、自分でもやってみることにした。わたしはどこまでヒマなんだ。

     できればミズマ。さんの回答もこちらへ持ってきたいのだが……許してくれるかなあ。



    ※ ※ ※ ※ ※




    「そこを右。傾いているな。水準器当てて様子を……。そうそう。トンカチ。あっこの馬鹿、釘ひとつまともに打てないのか。十数年も教育うけて、何を勉強してきたんだ」

    「そんなこといったってカミラ先生、ぼくは魔術師になるために学校へ行ったんです。大工になるためじゃないですよ」

    「文句いわない。そんなことをいう口は、麻酔なしで縫ってやるよ。呪文も唱えられないから痛いぞ」

    「妙なこといわないでください先生」

     ぶきっちょな手で、屋根に看板を取り付けてきたヒースは、へっぴり腰で梯子から降りてきた。その一番下には、化粧ひとつしていない、黒い髪の毒舌魔の三十過ぎの女が待ち構えていたのだった。ヒースの雇い主、自称外科医のカミラである。

    「しかし、こんな大仰な看板かけて、大丈夫なんですか? 普通の人は、魔法大学病院へ行きますよ。たいていの治療は、魔法でできるんですから」

     ヒースはその看板、「カミラ&ヒース緊急治療院」という文字をうさんくさげに読んだ。

    「それに、ぼくはあまり高度な医学魔法は……」

    「誰もお前に高度な医学魔法など求めてはいない。麻酔と金縛りをはじめとする初歩的な魔法の基礎さえできていれば、それで充分」

     カミラは長い黒髪を背でまとめると、すたすたと建物の中に入っていった。

    「そうですかねえ……」

    「後は、どんなおそろしいものを見ても耐えられるだけの精神力だ」

    「はあ」

     ヒースは、この、肉を裂き骨を砕くことなどなんとも思わぬ女医のやり方を思い出して、ぞくりとした。

    「ああ、それから、お前には連絡係も頼む。承知の通り、わたしは魔法を一切使えない。だから、遠話ができるお前が必要なのだ。わかるな?」

    「はあ」

     なにもこんな怪しげなところに患者なんて誰もくるわけが……。

     ヒースはそっとため息をついた。

     その途端だった。

    『遠話番! カミラ先生はいるか!』

     強烈なショックを伴う思考がヒースの頭の中で爆発するように響いた。

    「は、はい! 先生はおられ……」

    「ヒース! 向こうのいっていることをそのまま伝えて!」

    「はい! えーと、女の子がひとり、暴れ牛に踏みつけられた……内出血。肝臓が破裂した模様。現在急行中……肝臓?」

    「ヒース! 大至急手を酒で洗い、服を着替え、すぐに器具を用意して! そこの酒の甕に入っているから! とにかくメスとハサミと鉗子! さっさとやる!」

    「ま……魔法は」

    「バカ! 肝臓再生の術を使うには、かなりの時間がかかる、複雑な術式が必要なんだ! しかも相手は子供! もたもたしていると、そのまま天国行きだよ! その前に応急処置をするのがあたしらの仕事さ!」

     ヒースが慌てて指示通りにしていると、治療室にまばゆい光が輝いた。テレポートの術者だ! ヒースは思った。その術者の手には、ぐったりした女の子の身体が抱かれていた。

    「カミラ先生、この子だ。頼む!」

    「なんとかするわ、ガルス。それじゃ!」

     テレポーターは出てきたと同様、瞬時に消えた。

    「ヒース! 金縛りをこの子に!」

    「痛み止めじゃないんですか?」

    「いいから復唱!」

    「はいっ!」ヒースはなぜだか背筋がしゃんと伸びるのを感じた。「金縛りかけます!」

     カミラはてきぱきと少女の身体を枷で固定していった。

    「痛み止め!」

    「痛み止め行きます!」

    「肝臓が破れたってことは、ほかの臓器も……ってことよね。でもまずは肝臓ね。メス!」

     ヒースは精神集中を途切れさせないようにしながら、カミラから教えられた「メス」なるものを酒の甕から取り出した。それは研ぎ澄まされたナイフだったが……。

     カミラは女の子の腹部をためらいもせずに断ち割った。その中には、当然、内臓があるのだった。

    「ハサミ!」

     ヒースはくらくらしながらカミラにハサミを渡した。

     カミラは情け容赦もなく、割れ裂けた女の子の肝臓の、傷んだ部分を切り取った。

     それからの二時間は、ヒースにとって生まれてこのかた味わったこともないような恐怖の時間だった。血が、リンゲルとかいう溶液が、注射器とかいうつい最近までは見たこともないような器具が、少女の身体を蹂躙していた。

     嘔吐したくなるのをこらえながら、ヒースはカミラがすいすいと処置を施した女の子の腹部を縫い付けるのを見ていた。

    「さっきのテレポーターを呼んで。ガルスよ。この街にはひとりしかいないからすぐにわかるわ」

     心苦しかったが痛み止めの魔法を解いたヒースは、遠話の術でガルスを呼んだ。

     ガルスは、ヒースにはひとこともかけずに、またふいに室内に現れた。

    「この子を魔法大学病院に。術式は?」

    「大丈夫だ。全部整った。君がいなかったらこの子は……」

    「そんな話は後にして。さっさと行く!」

     ガルスが去ると、カミラは汗をぬぐった。

    「カミラ先生、あの……その……あれは」

    「見てなかったの? 深刻な内臓破裂と肋骨の骨折、それに伴う内出血……術式が整う前に手術が終わったのはある意味奇跡ね」

     そりゃそうだろうな、とヒースは思った。

    「それを全部治したんですか?」

     カミラは首を振った。

    「いいえ。今のわたしの知識と技術と道具じゃ、魔法大学病院の受け入れ態勢が整うまでの間、生かしておくのが精いっぱい……わたしの能力を評価してくれるのは、やめてっちゃったあの子を除けば、ガルスとヒース、あなたくらいのものよ」

     カミラはふと、さびしそうな眼をした。その眼に、ヒースは思わず、心のなにかがときめくのを感じた。

    「先生……ぼくがもう少しまともにお手伝いできるようになるためには、なにを覚えればいいですか?」

     カミラはかすかに笑った。

    「覚えることはたくさんあるわよ。まず……」

     その瞬間、ヒースの頭にガン、というショックがあった。

    『遠話番! 石工がひとり、足に石を落して、完全な粉砕骨折だ! すぐに手術を!』

     もしかしたら、こういう急患が、今後毎日のようにやってくるのか?

     ヒースは気が遠くなりそうだった。

    「先生、石工が足の粉砕骨折だとかで……」

     カミラは戦う女の目になった。

    「ヒース! 準備! さっさとやる!」

     まだここは地獄の一丁目なのであった。



    ※ ※ ※ ※ ※



     恋愛の「れ」の字も出てこない、「ブラック・ジャック」か「仁」のような話になってしまったぞ! なぜだ!(笑)

     書いていてさらに面白くなってしまったからシリーズにしてしまった(笑)。

     さーて図書館でネタを探そう。いっぱいあるもんな医学の入門書……。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    お預けした以上はぴゆうさんの子供も同然です。

    どうぞ思うがままにあの桃源郷で遊ばせてあげてください。

    魂の一部はたまにこちらに里帰りさせていただきますが。いやー、登場人物たちの宴会の、表側を仕切る人と裏側を仕切る人がいないと、宴会場が極端なカオスになっちまうもんで(^^;)

    とりあえず三月あたりに派手にやりたいであります(^^)

    わたしも預っているお波とお襟。
    中編に出そうと思っている。
    まだ先だけどね。
    ちょんの間でも許してくれるのかな?

    Re: ミズマ。さん

    学習したこと。

    夜八時から布団に入ると、いろんないやなことが頭の中をかけめぐってプチ「寝られないよー」状態になる。

    かといって夜八時を回ってパソコンをいじっていると、結局眠るのが十二時過ぎになる。

    とほほほ(^^;)

    小説は謹んでいただいていくであります。

    夜八時ッ!?
    健康ですね! うらやましすぎる!
    こちとら八時に帰宅ですよぅ。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。 ウワァーン!!

    ブログの方、復旧致しました! たぶん大丈夫なはずですたぶんッ!

    どうぞよろしくお願いいたします<(_ _)>

    Re: ミズマ。さん

    ゆっくりとやっていただいてかまいませんよ~。

    このところ夜の8時に寝るように生活を無理やり改善しているので、作業は早くても明日以降になると思っておりましたので……(^^)

    我ながらずぼらというかのんびり屋というか……(^^;)

    えーと、
    「シリーズ化していただいたんだから、自分で書いた話も読み返すかぁ」

    「あ、ここ間違えてる」

    「直そ」

    「……あれ? オチ部分が消えた……?」
    現在、このような状況にあります……orz
    せっかくリンクも貼っていただいたし、「どうぞお持ち下さい」と言った矢先、どうも申し訳にいです……自分の間の悪さに泣きたい……。

    本日中に復旧できるよう善処しますので、しばしのお待ちを!!(データ消える以前のものをお持ちならそれはそれでOKなんですけど、一部「カミラ」が「スカーレット」になってます。そうです、最初彼女はスカーレットという名前でした)

    うう、復旧頑張ります……orz

    Re: ミズマ。さん

    それでは、後でありがたくいただいておくであります(^^)

    やってることは、ほとんど、「仁」だな……。

    あれ、恋愛は?(笑)

    シリーズ化、ありがとうございますm(__)m
    必要とあらば、当方のカミラ女医とヒースくんのお話、どうぞ持っていって下さって構いませんよ!

    カミラ女医、なんか苦労してそうですねぇ。そこをヒースくんが支えられれば良いんですけど……まだまだ、修行が足りませんかね。

    しかし、肝臓の手術ってことは、その多もろもろの臓器も見ちゃったんだよなぁ、ヒースくん。
    彼、当分菜食主義になるんでしょうね(笑)
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