「ショートショート」
ユーモア
わかりあえた時
その二つの一族は、文明形成前から、長い長い戦いを、この人間社会の陰で続けてきたのだった。
すでにどちらも疲弊していた。両陣営とも、残るはわずか数名の者のみ。
白い服の戦士は、刀を逆手に握り、黒い服の戦士と睨み合っていた。
「問う……」
白の戦士が低い声でいった。
「お前は、なんのために戦っているのだ?」
黒の戦士も、刀を構えてそれに応じた。
「そういうお前こそ、なんのために戦っている」
二人の間に、沈黙が落ちた。
「……わからん」
その口からまったく同じ言葉が出てきたのは、まったく同時だった。
「お前たち、政治権力とはつながっているのか?」
「つながっていたら……もっと楽をしている。そっちこそ、権力とつながっているんだろう」
「つながっているわけがないだろう。だいたい、つながってメリットを与えられるほど一族は生き残っていないぞ。お前のところも同じじゃないのか?」
互いの間に、より長い沈黙が落ちた。
「ファンの野球チームは」
「日本ハム。お前は」
「日本ハムだ。どの選手のファンだ?」
「ダルビッシュだ。あれはいいピッチャーだった。大リーグなんかにくれてやるのが惜しい」
「うむ……おれもダルビッシュのファンだった」
沈黙。
「支持している政党は?」
「自民」
「自民……新聞は何をとっている?」
「東京新聞」
「おれも東京だ。安いからな」
沈黙。
「けっこう話が合うな」
「まったくだ」
沈黙。
「お前らのところでは、なぜおれたちが殺し合うのかについての口伝とかはないのか?」
「それを知っていた三十代前の先祖は応仁の乱に巻き込まれて死んでいる」
「お前の所でもか。うちも応仁の乱で伝承が絶えてしまった」
沈黙。
「じゃあおれたちは、なんだかわからない理由のために、この世界に何の影響も与えない殺し合いを続けてきたということになるのか?」
「いや待て。よく考えろ。必ず、どこかで相違点が出てくるはずだ」
沈黙。
「お前……キュアメロディとキュアリズムではどちらが好きだ?」
「……キュアリズム」
「おれはキュアメロディだ」
「ちょっと待て」
黒い服の男は叫んだ。
「なんだ、今の話を聞いていると、おれたちは支持するプリキュアの違いゆえに殺し合うのか?」
「じゃあ、なんかほかにいいアイデアがあるのかよ」
沈黙。
「……なあ」
「なんだ?」
「おれたち、わかりあえたみたいだな」
「ああ」
「そうだよ」
二人は異口同音に叫んだ。
「おれたちは無意味だから戦うんだ!」
宙に跳んだ二人の身体が交錯し、そして両者ともどさりと大地に斃れ、動かなくなった。
白と黒の一族の戦いは、その後も延々と続いたという。
人間、たかだかわかりあえたくらいのことで殺しあいをやめることなどできはしないのだ。
すでにどちらも疲弊していた。両陣営とも、残るはわずか数名の者のみ。
白い服の戦士は、刀を逆手に握り、黒い服の戦士と睨み合っていた。
「問う……」
白の戦士が低い声でいった。
「お前は、なんのために戦っているのだ?」
黒の戦士も、刀を構えてそれに応じた。
「そういうお前こそ、なんのために戦っている」
二人の間に、沈黙が落ちた。
「……わからん」
その口からまったく同じ言葉が出てきたのは、まったく同時だった。
「お前たち、政治権力とはつながっているのか?」
「つながっていたら……もっと楽をしている。そっちこそ、権力とつながっているんだろう」
「つながっているわけがないだろう。だいたい、つながってメリットを与えられるほど一族は生き残っていないぞ。お前のところも同じじゃないのか?」
互いの間に、より長い沈黙が落ちた。
「ファンの野球チームは」
「日本ハム。お前は」
「日本ハムだ。どの選手のファンだ?」
「ダルビッシュだ。あれはいいピッチャーだった。大リーグなんかにくれてやるのが惜しい」
「うむ……おれもダルビッシュのファンだった」
沈黙。
「支持している政党は?」
「自民」
「自民……新聞は何をとっている?」
「東京新聞」
「おれも東京だ。安いからな」
沈黙。
「けっこう話が合うな」
「まったくだ」
沈黙。
「お前らのところでは、なぜおれたちが殺し合うのかについての口伝とかはないのか?」
「それを知っていた三十代前の先祖は応仁の乱に巻き込まれて死んでいる」
「お前の所でもか。うちも応仁の乱で伝承が絶えてしまった」
沈黙。
「じゃあおれたちは、なんだかわからない理由のために、この世界に何の影響も与えない殺し合いを続けてきたということになるのか?」
「いや待て。よく考えろ。必ず、どこかで相違点が出てくるはずだ」
沈黙。
「お前……キュアメロディとキュアリズムではどちらが好きだ?」
「……キュアリズム」
「おれはキュアメロディだ」
「ちょっと待て」
黒い服の男は叫んだ。
「なんだ、今の話を聞いていると、おれたちは支持するプリキュアの違いゆえに殺し合うのか?」
「じゃあ、なんかほかにいいアイデアがあるのかよ」
沈黙。
「……なあ」
「なんだ?」
「おれたち、わかりあえたみたいだな」
「ああ」
「そうだよ」
二人は異口同音に叫んだ。
「おれたちは無意味だから戦うんだ!」
宙に跳んだ二人の身体が交錯し、そして両者ともどさりと大地に斃れ、動かなくなった。
白と黒の一族の戦いは、その後も延々と続いたという。
人間、たかだかわかりあえたくらいのことで殺しあいをやめることなどできはしないのだ。
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~ Comment ~
Re: 土屋マルさん
うーむ、ここで書きたかったことは、もうちょっと恐ろしいことでありまして。
白の陣営と黒の陣営の殺し合いに、「意味はない」のです。まったくなにも。
「意味はない」にもかかわらず殺しあわねばならないのです。殺し合ったところで向上するわけでもなければ堕落するわけでもありません。もとから「意味はない」んだから。
だってそんなもんじゃないですか? 人間が文明を発展させるのも、蟻が巣を作るのも、ウイルスが機械的に繁殖するのも……ってウイルスの繁殖好きだなわたし(^^;)
白の陣営と黒の陣営の殺し合いに、「意味はない」のです。まったくなにも。
「意味はない」にもかかわらず殺しあわねばならないのです。殺し合ったところで向上するわけでもなければ堕落するわけでもありません。もとから「意味はない」んだから。
だってそんなもんじゃないですか? 人間が文明を発展させるのも、蟻が巣を作るのも、ウイルスが機械的に繁殖するのも……ってウイルスの繁殖好きだなわたし(^^;)
支持するプリキュアの違いゆえに殺し合う(笑)
大爆笑したのですが、読後は何ともほろ苦い味わいでした。
どんな小さなことでさえ、お互いに違いを見つけて優劣や善悪の理由にし、争いは続く‥‥
闘争の本能って罪ですね(´-ω-`)
みんなで「よーい、ドン」して、みんなでゴールするのはそりゃ楽しくないけど。
勝利に飢えるから戦うのが生物の性なのだとしたら、まさしく争いごとは永久に終わらないですね。
むむむ。
大爆笑したのですが、読後は何ともほろ苦い味わいでした。
どんな小さなことでさえ、お互いに違いを見つけて優劣や善悪の理由にし、争いは続く‥‥
闘争の本能って罪ですね(´-ω-`)
みんなで「よーい、ドン」して、みんなでゴールするのはそりゃ楽しくないけど。
勝利に飢えるから戦うのが生物の性なのだとしたら、まさしく争いごとは永久に終わらないですね。
むむむ。
- #6912 土屋マル
- URL
- 2012.01/28 18:07
- ▲EntryTop
Re: limeさん
若いというより……マスコットキャラクターの猫ですな(^^)
三石琴乃氏には、「I am セーラームーン」などの名曲が多々あります。当時CDを聴いたわたしたちは悶絶して笑ったものです。まさに破壊力抜群の歌声でありました。
有名人の一族と結婚するのは気を付けたほうがいいですね。
「信長殿はいずれ高転びに転ばれ候」
巻き込まれないようにご用心……。
三石琴乃氏には、「I am セーラームーン」などの名曲が多々あります。当時CDを聴いたわたしたちは悶絶して笑ったものです。まさに破壊力抜群の歌声でありました。
有名人の一族と結婚するのは気を付けたほうがいいですね。
「信長殿はいずれ高転びに転ばれ候」
巻き込まれないようにご用心……。
なんか、真髄をついてるな~。
戦いなんてものは、そうなのかも。
ビターで、物悲しい余韻です。
三石琴乃は、そんな若いキャラも演じてるんですか。
(プリキュアは、初代しか見てなかったけど、絵も変わったんでしょうねぇ。)
彼女も幅広い。
ミサトが一番ハマってたかなぁ。
歌は・・・なのですね。
悪ガキだった、町内のダルビッシュが、世界のダルビッシュに・・・。不思議です。
最近、うちの娘の同級生のお姉ちゃんが、ダルビッシュの弟と結婚しました。
義理のお兄さんがダルビッシュって、ちょっといいなあ^^
戦いなんてものは、そうなのかも。
ビターで、物悲しい余韻です。
三石琴乃は、そんな若いキャラも演じてるんですか。
(プリキュアは、初代しか見てなかったけど、絵も変わったんでしょうねぇ。)
彼女も幅広い。
ミサトが一番ハマってたかなぁ。
歌は・・・なのですね。
悪ガキだった、町内のダルビッシュが、世界のダルビッシュに・・・。不思議です。
最近、うちの娘の同級生のお姉ちゃんが、ダルビッシュの弟と結婚しました。
義理のお兄さんがダルビッシュって、ちょっといいなあ^^
Re: ミズマ。さん
イデオロギーの違い、なんてものは、傍から見ているとプリキュアで誰を推すか、くらいの些細なことではないかと思うので……。
ユーモア小説のつもりで書いたけれど、ちょっとビターだったかな。
それにしてもハミィ役の三石琴乃氏はあの難しい役をよく演じきられましたなあ。あれだけ歌が××なのに(笑)
ユーモア小説のつもりで書いたけれど、ちょっとビターだったかな。
それにしてもハミィ役の三石琴乃氏はあの難しい役をよく演じきられましたなあ。あれだけ歌が××なのに(笑)
まあ、それだけ長い間続いてたら、難しいでしょうね。双方に「殺しあいなんて嫌だよ!」というムードが漂ったとしても、なかなかやめられるものでもありませんし。
悲しいけれど、難しいですね。
しかし、支持するプリキュアの違いゆえ、ってwww
今期はハミィ一択でしょうに!!←
悲しいけれど、難しいですね。
しかし、支持するプリキュアの違いゆえ、ってwww
今期はハミィ一択でしょうに!!←
- #6902 ミズマ。
- URL
- 2012.01/28 07:50
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Re: ぴゆうさん
そのうち地球は人間で埋め尽くされて窒息しますな。
例の2012年の予言というのは、2012年のその日を境に、人類が「増加」の限度のある閾値を超えてしまう、ということだったりして……って、このネタで一篇書けばよかったむむむう!