「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・1月29日

     ←わかりあえた時 →師匠と馬鹿弟子・その2
     便利屋とは知性にも秀でていなければならない、ということをエドさんはまさに今痛感しているところでした。

    「えーと、この三次方程式がね、つまりだね、えーとね、そのね……」

    「先生」

     この秋、高校生になったばかりのシャーロットは、風邪をひいて来られなくなった家庭教師の代役として雇われたエドさんに、皮肉めいた視線を投げかけました。

    「要するに、できないんですか?」

    「昔、確かに習ったんだが……ここまで出てきているのに、どうしても思い出せない」

     エドさんは頭をごつごつと叩きました。

    「大人って、そうよね。偉そうなことばかりいって、頭の中身と来たら、あたしたちとおんなじくらいなんだもん」

    「シャーロットさん。君がわたしをどう思おうとかまわないが、大人を馬鹿にするのはやめたほうがいい。大人は大人で、子供が知らないことも、いや、知らなくてはいけないことを知っているもんだ」

    「例えば?」

     エドさんは教科書をめくりました。

    「それは、高校の数学の問題くらい、最初の一ページから順を追ってやっていけば、運転免許の試験よりも簡単に乗り越えられるということだ」

     シャーロットは、あきれた、という顔をしました。

    「先生、あたしのこの宿題は、明日までにやらなくちゃいけないんですよ」

    「それもまた良し。明日まであれば、この秋からの四か月分をさかのぼって見直すことができるはずだ。さあ、がんばって、数学の歴史の探検開始といこう」

    「えー、お父さん、とんでもない人を家庭教師にしちゃったなあ」

     シャーロットはぼやきましたが、それでも、エドさんの開いた数学の教科書のページをのぞき込みました。

    「えーと、この数学の教科書の最初のページに書かれていることくらいはわかるよね」

     そういいかけたエドさんは、背中に冷や汗が流れてくるのを覚えました。

    『うっ、高校のころにやったはずなのに、まったく覚えていないぞ……えーとたしか、あれをこうしてこうやれば、解けるはずだったんだが……あれ? あれれ?』

    「先生」

     シャーロットは困ったようにいいました。

    「すみません。もうこのあたりから、ちょっとよくわからなくなっていて……」

     どっちもどっちです。エドさんには、だんだん、この教科書に書いてある文字や数式が、妖精の国の言葉を記した古代文字のように思えてきたのでした。

     そのとき、どこかから、ふわああ、というあくびが聞こえてきました。生徒が寝るなんて、不謹慎にもほどがあります。

     エドさんは「起きなさい」といおうとして、目をまじまじと見開きました。隣のシャーロットもそうでした。

     開いた教科書の上に、ひとりの、真っ白な口ひげを生やし、赤いローブを着た、小指ほどの背丈しかない老人が座っていたのです。

     これまでの体験で、いくらか耐性ができているエドさんは、丁寧に話しかけました。

    「ご老人、あなたはどなたでしょうか? 今、数学の勉強中ですので……」

    「なんじゃ、わしを呼んだのはおぬしらか。そろいもそろって間抜けな顔をしおって。わしは、数学の妖精じゃよ。早く帰って寝たいから、さっさと、どこがわからんのか教えてくれんかのう」

     シャーロットが、おっかなびっくり、つっかえている部分を話すと、老妖精はひげを一本引き抜きました。

    「ふん。なにを悩んでいるかと思えば。こんな簡単なことで。お前さんよりも、ニコロ・フォンタナのほうがよほど頭のできがよかったわい」

    「ニコロ・フォンタナって誰?」

    「別名をタルタリアという、三次方程式の一般解を初めて解き明かした人ですよ」

    「聞くのか聞かんのか!」

     妖精はいらだったようにいいました。

    「聞きます聞きます」

     シャーロットは、妖精の理路整然とした説明を聞いて、ノートをとりました。



    「あら、あなた? 難しい顔で高校の数学の本なんか読んで、どうしたの?」

    「シャーロットのやつが毎日毎日、数学の猛勉強をしているそうなんだ。妖精にもう一度会うんだ、とかいって。もし、また数学の家庭教師に呼ばれたら……おい、笑うことはないだろ。こっちは必死なんだから、もう!」


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    ~ Comment ~

    Re: けいさん

    こんな数学の妖精が近くにいたら、わたしも数学で赤点を取らなくてすんだのかなあ、と思います。それが無理でも、「講談社ブルーバックス」のシリーズがいったいなにをいっているのかくらいは教えて欲しかった(笑)

    エドさんと村の人々は、これからとんでもない大騒動に巻き込まれていきます。12月までどうか楽しんでいってくださいね!(^_^)

    探偵からなんでも屋になったエドさん。
    ホントに何でも有りなことに。
    数学とかは専門の方の方が強いですかね、やはり(-_-;)

    まだまだ1月。なんでもを追っていきます^^

    Re: 西幻響子さん

    まだお読みになっていなければ、「探偵エドさん」のほうもどうぞ。

    「緑の森の家」から読んでも支障はありませんが、共通する登場人物がけっこう出てくるので、通して読んだほうが面白いと思います。(^^)

    以上PRでした(^^)

    ブログの件ですが、こちらもリンクを「張り替え」させていただきました(^^) 空けといてよかった「ロックンロール・ヘイズ」の席(^^)

    すごーい! と、びっくりしている西幻です。
    エドさんシリーズがこんなに面白い物語だったとはっ。
    こんなことなら、もっと早くに読み始めればよかった。
    と、後悔しているところです。
    私はすっかりエドさんのファンになってしまいました。
    ほんとはもう少し読み進めてからコメしようと思ってたんですけど、思わず興奮してここで書き込んでいます。

    それから、性懲りもなくブログをまた始めました。
    遊びに来てくださると嬉しいです ^^
    あ、リンクはらせていただきます♪

    Re: ぴゆうさん

    十六次偏微分方程式、なんてのを普通に使うやつらを見ると、われわれ一般人には見えない妖精かなにかとお友達になっているとしか思えません(笑)

    前にファインマン博士の真似をして失敗した経験者は語る(爆)

    数学者で秀でる人たちは
    自然の中で育った人達らしいけど、
    本当にそんな中で妖精と出会っているのかもしれん。

    Re: るるさん

    握りつぶしたければ勉強することですね。

    といって反感を買ってみるテスト(爆)

    吉報待ってます。

    数学の妖精いるんですか……。
    握りつぶしたい。

    数学なんて大っ嫌いだ。
    消えてしまえー!
    うわぁぁん!!

    大っ嫌い!

    Re: limeさん

    うわ~、思い出したくもないぞ因数分解(^^;)

    虚数、とか、ベクトル、とか、面白そうな用語はいっぱいあるにもかかわらず、どこをどうすればどうなるのかの初歩すらわからんという。

    大学が私学文系になるのもむべなるかな。嗚呼。

    数学者個人個人の伝記は、奇人変人を集めたみたいであれほど面白いのになあ~。ガロアとかラマヌジャンとかアーベルとか……。

    (はっと気づく)そうか同じようなことを哲学者で思っている理系のかたとかもいるのか……。

    そうかそうか、妖精と比べられて悔しいから・・・とは、少しばかりちがうのかあ。
    そこまでエドさんは数学に入れこんでるわけじゃないですもんね。

    でも、ほら、プライドは意外と高いという点では、当たらずとも遠からず・・・。とか。(負けを認めろ~)

    ちなみに私は因数分解からすでに躓きましたから(涙

    Re: 有村司さん

    算数とはなんとか友好関係を保てたんですがねえ。

    でもわたしも、算数の教科書より、学研のまんがの算数本のほうが好きだったなあ(^^)

    矢野健太郎先生の書いた数学者の逸話集とかのほうが好きだったからかなあ、SF小説なんか書き出したの……(^^)

    Re: limeさん

    いや、あれは、やきもちではありません(^^;)

    シャーロットが、本気で数学の勉強をしている、ということは、もし、エドさんが再び家庭教師に招かれて、シャーロットから、「先生、数学のこの問題がわかりません」といわれたら、エドさん、なんと答えればいいんですか?(笑) しかもそういう時に限って、数学の妖精、出てこないでしょうし(笑)

    ちなみに、わたしは、家庭教師をやったとして、「先生、行列の計算がわからないんですが」と聞かれたとき、土下座をすることしかできないのですが(笑)

    Re: 土屋マルさん

    石原藤夫先生の傑作宇宙SFに、「宇宙船オロモルフ号の冒険」という短編シリーズがあります。

    中学生のころそれを読み、「そうか高校や大学で数学を勉強すれば、こんな面白い世界が手に取るようにわかるのか」と胸をときめかせましたが、

    高校に入って、そのSFで使われている数学どころじゃない初歩の初歩の段階で理解不能である自分に泣きたくなったものです(^^;)

    「宇宙船オロモルフ号の冒険」自体はその後読み直してやっぱり面白かったのですが。数学がわからなくても、面白いものは面白いんじゃ(開き直り)

    Re: YUKAさん

    わたしも数学とはお友達になれませんでした(^^)

    数学者たちの話や伝記を読むとあれだけ面白いのに、

    どうしてわたしは三角関数や微分積分がさっぱりわからないのか悲しい気分になったものです。

    哲学なんかやったのはその反動かもしれん(笑)

    日曜日のお楽しみv

    エドさんに逢えるので、日曜日が楽しみな今日この頃です。

    数学の妖精かあ…私は算数で既に躓いているので、算数の妖精に逢いたいものです^^;

    この世に電卓がなければ生きていけない!

    何でも屋って、そんな過酷な仕事も・・・。

    でも、思ったよりもエドさん、知能指数高そう。
    たぶん2日もあれば、高校数学を思い出すんじゃないかな。

    数学の妖精にやきもちを焼くところが、エドさんらしい。

    私も数学の妖精と、物理学の妖精、ほしいなあ。
    出会ったらら、部屋に閉じ込めて飼育します。

    数学の妖精か~(*´ω`*人)
    普通の、ものに宿る妖精じゃないところがいいですね♪
    エドさんの手慣れたあしらいが素敵でした。

    それにしても、エドさんは大変そうだ(笑)
    数学、私も大の苦手でしたorz

    日曜日はエドさん♪

    エドさんも大変だなぁ~~

    数学の妖精にあっていたら、私も数学が得意になっていたかな?^^;;

    数学とは友達になれなかった、哀しい過去を思い出しました(笑)
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