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    「ショートショート」
    ユーモア

    お菓子の工房拝見します

     ←おれは今日は早く寝るのだ →新聞
    「はい! みなさん、こんにちは。知る人ぞ知るパティシエの匠の技を生放送でご紹介する新番組、『お菓子の工房拝見します』です。初放送となる今回は、『楳図ケーキ』にお邪魔してみることにしました」

     女性レポーターはそういって笑うと、背後の分厚い眼鏡をかけた初老の職人にマイクを向けた。その眼鏡は、かなり度が強いものであるらしい。職人はマイクとはちょっとずれた方向に目を向け、しゃべり始めた。レポーターはマイクでその口元を追いかけた。

    「楳図、真津夫です。つは濁ります」

    「それで、今日作っていただけるのは、なんですか?」

    「今日作るのは……苺のデコレーションケーキです」

     楳図パティシエはぼそぼそとそういった。

    「それでは、お手並みを拝見することにしましょう!」

    「まず……スポンジの台を取ります……」

     楳図は、黒に近いこげ茶のかたまりを取り出した。

    「あ……あの、それって?」

     レポーターは、ちょっと動揺したようだった。

    「スポンジケーキですよ」

    「そ、それはそうですが……お作りになられるのは、苺のデコレーションケーキですよね?」

    「そうですよ」

     楳図はその、レポーターの目にはどう見てもチョコレートケーキに使うものとしか思えないスポンジを、台に置いた。

    「この上に、軽く生クリームを塗り、苺を置きます」

     楳図は、ボールを取り出した。そこには、どろりとしたとんかつソースかウスターソースのような色をした、ねばつく液体が入っていた。それをナイフに取った楳図は、ケーキの上にそれを伸ばした。

    「それでは、苺を……」

     楳図が並べだしたのは、キーウィフルーツだった。

    「ぱ、パティシエ?」

     レポーターの腰が、だんだん引けつつあった。

    「その上から、またクリームを塗ります」

     楳図はさっきのウスターソースを塗った。

    「さて、ここでもう一段、台を載せます。混じりけなしのスポンジです」

     取り出したスポンジは、真っ赤に染まっていた。ただの赤ではない、レポーターは思った。あの色は暗すぎる。あれは血の色だ。レポーターの額には、汗が流れ始めていた。

    「ぱ……パティシエ?」

    「なにか?」

     パティシエはナイフをにぎり、眼鏡に隠れてわからない目をレポーターに向けた。

    「それは?」

    「ああ、うちの若いのが作ったスポンジですよ。そういえば、あいつどこへ行ったんだろう……腕がいいやつでしたがね。昨日白っぽい車が来て……すみません、なにぶん目が悪いので」

     パティシエはなんでもないようにスポンジを載せると、ウスターソースそっくりのクリームを、表面と側面にゆっくりと塗りつけた。

    「さて、飾りつけと行きますか。まずは飾りのクリームを」

     パティシエは、鮮やかな緑色をしたクリームを絞り器に入れると、丁寧な手つきで絞り出し始めようとして……ふと手を止めた。

    「おっといかん」

     楳図パティシエはボールの中に残っていた、どう見ても青虫としか思えないひょろ長い緑色の物体を摘み上げ、絞り器の緑のクリームの中に入れた。

    「う、楳図……さん?」

     レポーターは泣きそうになっていた。

    「隠し味でしてな。これがないと話にならんのです」

     楳図はなにごともなかったかのように絞り出す作業を続けていた。

    「あ、あの、苺……は?」

    「これからですよ」

     楳図は冷蔵庫の棚をうろうろと探し回っていたが、やがて赤いものがいっぱい詰まったボールを取り出した。

     ほっとしたようにボールの中身を見た女性レポーターの声が、引きつった。

    「こ、これ、梅干し……」

    「なにをおっしゃってるんです。どこからどう見ても、苺ではないですか」

     楳図パティシエはその、誰がどう見ても梅干しに見えるその代物を、ひょいひょいとケーキの上に並べ始めた。

    「さて、これが仕上げですな。えーと、どこへやったかな……?」

     楳図パティシエは冷蔵庫からバットを取った。

    「これこれ!」

     バットの上のものを映したカメラが大きく揺らぎ、女性レポーターが悲鳴を上げた。

     その黒光りするものは……。

    「ご、ゴキブリ!」

    「そんなものがどこに?」

     楳図パティシエは、その死んでいるようには見えるが未だつやつやとした光沢を放つ生き物を手に取り、ケーキの中央に乗せた。

     もはやレポーターとカメラマンの神経も限界だった。

     二人は機材を放り出し、店からこけつまろびつ逃げ出した……。

     楳図パティシエはにやりと笑った。

    「最近の大人は根性がすわっとらん」

    「先生のテレビ嫌いも、そうとうのものですねえ」

     店の前では、どこに隠れていたのか、数人の小学生を引き連れた、小太りの若者が苦笑いしていた。楳図パティシエの弟子だった。

    「あんなものに見込まれたら、店が潰れてしまうからな。うちは近所の小学生が食べに来ればそれでいい」

     パティシエは眼鏡を外し、コンタクトレンズをつけた。

    「さあ、みんなおいで。苺とブラックチョコレートクリームのケーキだよ。下の台座はチョコレートスポンジケーキ、上の台座は苺のスポンジケーキ。中のフルーツと、飾りのクリームはキウイフルーツのクリームで、クラッシュした寒天のゼリーが入っているよ。苺のソースを赤く塗ったホワイトチョコレートで包んだものは、ケンカしないようにひとり一個ずつ分けようね。真ん中の、ごきぶりそっくりの飴細工は、じゃんけんで勝った子にプレゼントしちゃうよ。だけども、いたずらに使っちゃだめだからね。はい、それじゃ、ケーキを切るよ。おいしいよ。甘くてとってもおいしいよ……」
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    民放の番組がつまらなくなるにつれてNHKの番組もつまらなくなっていき、それにしたがって民放の番組もさらにつまらなくなる、というイヤなスパイラルができている気がします。

    単にわれわれが齢を食っただけかもしれませんが。

    考えてみたら、ザッハトルテなんて泥みたいだわ。

    しかし、此の頃の番組って宣伝と芸人ばかり。
    だからスカパーしか見ない。
    NHKだけは悔しいからニュースだけは見る。

    Re: レバニラさん

    笑ってはいかんと思いつつ、こらえるそばから笑いが……(^^;)

    わたしは、大学生のころ学園祭でカクテルバーをやることとなり、「100%のグレープジュースを買ってこい」といわれて、「100%のグレープフルーツジュース」を買ってしまったことがあります。持って行く前に気づいて買いなおしましたが(^^;)

    以前、近所の子供と一緒にケーキ作っていた所、
    レバニラはその時、何を思ったのか砂糖と粉石けんを間違え、石けんをメレンゲの上にドサドサと投入、
    泡立て始めたら泡立ちが良すぎて、ようやくミスに気づいて、その場にいた子供達に「なんで“それ石けんだよ”って言ってくれなかったの!?」と言ったら
    「だって、普通そんな間違いすると思わないでしょ!!」
    ・・・はい、その通りです。

    Re: 土屋マルさん

    名人はほんとうに飴細工で本物そっくりのものを作りますからねえ。

    プロはすごいであります。

    Gはさすがに遠慮しますが(^^;)

    Re: 矢端想さん

    狙いましたからねえブラックユーモア。

    頭にあったのは藤子A先生の絵でした。

    レポーターが逃げ出すまでは「笑ウせえるすまん」みたいな調子でやっておいて(当然パティシエも悪魔みたいに見える)、逃げ出したところで眼鏡を外し、コンタクトを入れると柔和で立派な顔のおじさん、なんてのを想像していたんですがねえ。

    売り込みに行きたいくらいであります(^^)

    ブラックに落とすのかと思って、変な方向に期待してしまいました(笑)
    だって、名前がウメズカヅオだし‥‥。
    恐怖のケーキを作るのが達人級の匠なのかと(笑)
    私の想像力は底が浅いなあorz

    素敵なラストが痛快でした(*´ω`*)テレ
    きっとこの匠のケーキ、美味しいと思います♪
    私もひとついただきたいです。
    真ん中のゴ‥‥さえなければ(笑)

    あまりにもブラックな途中まで、「これホラーだろ・・・」と思ってました。
    みなさん、よく最後まで読めましたねw(長年のポールファンなら当然か)

    ハッピーエンド(?)でよかったよかった。

    Re: limeさん

    最後のGさえいなければ、このショートショートも拍手で終わったのでしょうが、不覚にもわたしには、厚顔無恥なあのレポーターを追い返すのに、Gの飴細工を使う以外の方法を思いつかなかったのであります。

    それに、小学生男子喜びそうだし(笑)

    Re: kyoroさん

    味にこだわったりはしてません。基本を守ってうまいものをうまいように作るだけです、とこのパティシエなら答えそうです。

    誠意をもって頼めば、飴細工の妙技を見せてくれるかもしれません。花とかリボンとか……(^^)

    Re: 綾瀬さん

    こんな心臓に悪いイタズラをするのは、妙に賢しらぶったTVレポーターに対してくらいです。

    山岡士郎や海原雄山にもやるかもしれませんが、あいつら見抜いてばりばり食いかねないからなあ(^^;)

    Re: ミズマ。さん

    妙に通ぶったりしなければ、おいしいケーキを作ってくれると思いますよこの店。

    ガトーショコラいかがです?(^^)

    ははは!なんか、爽やかな仕上がりでした(と思うのは私だけ?)

    きっと、素敵なケーキ屋さんなんでしょう。
    あの、飴細工さえなければ、私も食べてみたい^^

    こんにちは

    むむっ、こういう店こそ味にこだわった名店・・・
    でも黒光した生き物は・・・本物じゃなくてヨカッタ・・・

    無理、絶対むりっ!
    黒光りする例のヤツだけは…

    私も根性がすわってない大人のひとりでしたorz

    黒光りする、例のアレが出てきた時点でもう……!!

    でも普通のケーキ特集ではなく、別の企画で取り上げられそうで、ちょっと心配です。戦慄のケーキ屋とか、飲食店の危ない裏事情、とか。


    この匠の、普通のケーキは食べてみたいなぁ。
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