カミラ&ヒース緊急治療院

    急患その2:致死性不整脈

     ←新聞 →エドさんと緑の森の家・2月5日
    「いったい、今日はどれだけ買おうっていうんですか」

     背負子に重い荷物を山のように積み、両手にこれまた重い鞄を下げたヒースは、荒い息の下からそういった。

    「薬屋や布地屋はまだいいとして、大工道具屋だの裁縫道具屋だの……医者がこんなもの使うんですか?」

     長い黒髪を乱雑にまとめたカミラは、たまの外出だというのに、衣装箪笥から適当に出しましたとでもいうような衣服を無造作に着て、なにかをくちゃくちゃと噛みながらヒースに答えた。

    「裁縫道具の、ハサミとか針とかは、使うところをみているはずだからお前もわかるだろう」

    「じゃあこのノコギリとか斧とかハンマーとかは」

     カミラはふと立ち止まると、ヒースのほうを見て、にやり、と黒い笑いを浮かべた。

    「……われわれ外科医には、金銭上の問題で魔法大学病院に通えぬ人間のため、彫刻の腕もなくてはならない。大丈夫だ、じきにお前もそのことがわかる。助手を務めるからには、きちんと覚えておかねばならない知識だ」

     その言葉に、ヒースは背筋にアイス・スネークが絡みついたような思いがした。

    「い、いえ、ぼくは後でけっこう……」

    「なんなら今、実例を見せるか」

    「けっこうであります先生!」

     我知らず直立不動になってしまうヒースであった。カミラ女医は、道の隅に噛んでいたものをぺっと吐き捨てると、呵々大笑した。

    「冗談だ。実例を見せるにも、患者がいなければどうにもできないからな」

    「ほっとしましたよ、先生。でも、その噛み煙草の癖、直したほうがいいんじゃないですか? あまり医者らしくは」

    「こればかりは、やめられない。医者のなんとやらだけれどね」

     そのときだった。娘の叫び声が上がったのは。

    「お父さん!」

     カミラ女医の反射神経は鋭かった。

    「走れヒース!」

    「こ、これを持ってですか?」

    「問答無用だ! 来い!」

     すでにカミラ女医は走り出していた。ヒースは後から、ひいひいいいながらついて行った。

    「す、すみません、先生……」

    「遅い!」

     そこでは、一人の男がぐったりとして倒れていた。カミラは遠巻きに見ている野次馬の中、ヒースが到着する前に最低限の診察は終えていたようだった。男の衣服は乱暴に半ば脱がされていた。あまり見たくないものだな、とヒースは思った。

    「ときにお前、攻撃魔法は使えるか」

    「へ? ま、まあ初歩なら」

    「ライトニングボルトは撃てるか」

    「遠くまでは飛びませんけれど」

    「けっこうだ。まずはこの軟膏を手のひらに塗れ」

     カミラは腰の小袋から、なにかの軟膏が収められていた貝殻を取り出した。

    「軟膏なんかでこの人……」

    「ぐだぐだいわずに塗る! 致死性不整脈の治療は時間との勝負だ!」

     そういいながら、同じ貝殻の中から、軟膏を男の胸の二か所に塗った。

    「いま塗った軟膏の位置に手のひらを置け」

    「はあ」

     ヒースは手を置いた。

    「いいか。最大の力でライトニングボルトを、一瞬ずつでいいから、三回撃て」

     ヒースは仰天した。

    「せ、せんせ……」

    「さっさとやる! 復唱!」

    「ら、ライトニングボルト、撃ちます!」

     一瞬の差が勝敗を分ける攻撃魔法に、長々とした詠唱の時間はなかった。ばちっという音が三度して、ヒースは呆然とカミラを見た。

    「ぼく……死刑でしょうか?」

     動けないでいる病人にライトニングボルトを三発も当てて殺したら、ノコギリ挽きの刑かなあ、という想像が頭をよぎり、ヒースは震えた。

    「脈が回復しなかったら死刑だったろうが、安心しろ、脈は回復した。すぐにテレポーターを呼んで魔法大学病院へ」

     カミラは汗をぬぐった。汗ばんでしっとりと濡れた肌が、妙にヒースの気持ちをとらえた。

    「せ、先生、ぼくはなにをやったんです?」

     そのころには、担架をかついだテレポーターが到着していた。手をハンカチでぬぐいながら、カミラは説明した。

    「致死性不整脈といっただろう。脈が完全に止まっていた。要するに、あの患者の心臓も、止まっていたんだ」

    「心臓が……」

    「それを動かすために、心臓に電撃のショックを与えたというわけだ。お前がいなかったら、十中八九あの男は死んでいただろう」

    「この軟膏はなんのために?」

    「雷撃をスムーズに患者の身体の中に流すためのものだ。これがなければ、雷撃のエネルギーは、患者の皮膚をやけどさせることに大部分が使われ、それこそお前は殺人者だろう」

    「いや、それもあるんですけど……」

     ヒースは首をひねった。

    「どうして、瓶じゃなくて貝なんかに軟膏を入れておいたんですか? それに、どうしてそんなものを持ち歩いていたんですか? さっぱりぼくには……」

     カミラはヒースに背を向けて立ち上がった。

    「ほれ、行くぞっ!」

    「え?」

    「行くといったら行くぞっ!」

     なんとなくいつもより赤みがかったカミラ女医のうなじを見ながら、ヒースは途方に暮れた顔つきで、治療院への帰り道を歩いて行った。

     うららかな日だった。



    ※ ※ ※ ※ ※



     もしかしたら先例があるかもしれん……(汗)
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    これがわかるとはそうとうなうわなにをするはなせやめろうわーっ(撲殺)

    こんな思わせぶりな物語にはコメが出来ませんわ。
    だってオトメですもの。
    v-398

    Re: ミズマ。さん

    近世に至るまで、外科医の仕事は、傷ついた手足を、斧やのこぎりで切断し、切断面を煮沸ないし焼灼して殺菌および止血をすることで、「とにかく命だけは助ける」というものが主でした。なにせ消毒薬も細菌も存在を知らない世界ですからなあ……。

    医学に関する魔法が存在しないファンタジーを書くと「紅蓮の街」になります。悪疫で人はばたばた倒れて、ちょっとでも傷を負うと破傷風、わーい楽しいなあ(^^;)

    Re: limeさん

    今の医学でいう、AED、除細動というやつです。

    この世界にはわれわれの使う「電気」はありませんが、かわりにライトニングボルトという便利な魔法が。

    これは使わない手はないと思ったのですが、誰かやっていそうだなあ……。

    ヒースくんがいなかったら、テレポーターがやってくるまでひたすら人工呼吸と心臓マッサージですよ。医者もたいへんで。

    買って早々、ノコギリとか使う羽目にならなくって良かったね、ヒースくんwww

    今回は電気ショックの回ですか。血がどぱーと出なくて良かったね、ヒースくんwww

    貝殻と軟膏……乙女アイテム?www


    さあて、次回はどんなスプラッタじゃなかった、患者が出てくるのかな?←

    またもや派手な外科手術が見れるのかと思ったら・・・。

    先生、それは医療なのですよね、一応^^;
    ヒースがいなかったら、どうするんですか。

    でもなんか、許せちゃうカミラ女医。
    貝殻の軟膏が、いじらしい・・・。
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