「ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)」
    作戦Dを暴け(完結)

    作戦Dを暴け 1-2

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     開いたドアからおずおずと入ってきたのは、上質で垢抜けた服のわりに、どこかバランスがちぐはぐな着かたをした中年女性だった。顔には疲労と憔悴の色が濃い。

    「そこにおかけください。我輩がこの事務所の所長であるザレゴット・ダイスキーであります。見れば、かような諮問探偵の事務所の扉を叩くのは初めてのご様子。安心なさってください、ここにはあなたを害するものはなにもありませんぞ」

     我輩はここで空咳をした。

    「我輩がいかに偉大な探偵、かの諮問探偵の元祖たるシャーロック・ホームズその人と比肩しうる名探偵だったとしても、短時間で推理できることは限られております。まずはお聞かせ願いましょう、あなたのお名前とご依頼を」

     我輩はこの中年女性をリラックスさせるため、三枚目の演技をした。これが我輩のほんとうの姿だと思われては困る。なぜなら我輩は不世出の諮問探偵シャーロック・ホームズ師と比肩しうるほどの大探偵なのだから。

    「夫が……」

     中年女性は、息をするのもやっと、という調子で声を出した。

    「夫が行方不明なのです」

    「なるほど。その前に、あなたがたご夫妻のお名前をお伺いしたいものですな」

     中年夫人ははっとした表情になり、頬を押さえた。

    「失礼しました、ダイスキー殿下」

    「ザリグで結構です」

    「すみません、ザリグさん。わたしの名は岩崎君代、夫は、武人と申します」

    「ふむ。岩崎夫人、ご主人が行方不明になった経緯をお話し願えませんか。それと、写真を拝見させていただきたく」

     岩崎君代は鞄からスマートホンを取り出すと、操作をして我輩に見せた。

     そのとき我輩が感じたことは、ひとことで表現できる。

     デブ。

     我輩も恰幅がいいといわれるし、日本にメタボなる言葉が流行していることぐらいは承知している。そもそも日本の国技である相撲自体、デブとデブが身体をぶつけ合い相手を張り倒すという競技ではないか。

     しかし、この目の前にあるのは、そういった運動などとは無縁な生活をしてきた人間の、脂肪まみれの肉体であった。

     我輩は、写真の肉塊と夫人の骨と皮だけのような姿との間に視線を往復させた。

    「失礼ですが……ご主人のご職業は」

    「システムエンジニアです」

     それで合点がいった。朝から晩まで動かないでパソコンの前に張り付き、食べるものは高カロリーの食事。しかもストレスで大量に胃に入れる。その結果、ぶくぶくに太るということだろう。ストレスでやつれるよりも体重が増えるスピードのほうが先だったというわけだ。

     我輩は、岩崎武人が働いていた会社、現住所などをひとつひとつ聞き出していった。滅多に間違いを犯さないシャーロック・ホームズ師が過ちを犯すのは、たいていの場合、不十分なデータに基づいて演繹的推理をしたときである。

     師には演繹的推理力の面で一歩譲る我輩は、可能な限りデータを集めることでその代わりにしていた。諮問探偵としては口惜しいが、そこらへんはあのフレンチとかいう警視に倣わなければならない。頭より足を使うのは、スマートさには欠けるのであるが。

     だいたいのことを聞き出した我輩は、事態の核心に触れることにした。

    「奥様、ご主人がいなくなる、そのきっかけとでもいうものをお教えください」

    「ダイエットです。わたしがダイエットなんていわなければ、主人は……」

     岩崎夫人は泣き崩れた。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    その奥様の演繹力をもろに食らっているのが世の退職族……。

    そもそも論理が飛びすぎて、飛躍と破綻が……。

    もう頭を下げてやりすごすしかない状況。

    うむむ。

    演繹はザレゴットよりも、奥様族に敵うものはないと思われる。
    亭主の一言が、起点となってそれは生まれた時からもしくは死んだ先まで、いやいや地球滅亡まで話せといわれれば話せる。

    「どうしてそんなとこまで話が飛ぶんだ!」

    よく言われる。

    Re: limeさん

    いちおうこれはミステリですので、そういうSFとかとんちの方向にはいきません。少なくとも作者の予定では(^^)

    それにしてもどうしてわたしは原稿も書かずにスーパーボウルの再放送なんか見ちまったんだ。9時には寝ようと思っていたのに、興奮して眠れん……(^^;)

    ダイエットしすぎて、消えてなくなっちゃったとか!!

    ですか!

    日本人のお客さんだと、ほっとするのはなぜかな。
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