「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)
エドさんと緑の森の家・2月12日
「説明してくれなければわかりませんよ、前金を払うから、虫捕り網と大きなビニール袋を持って、誰にも知られないようにこっそりやってこい、だなんて」
村でいちばんのけちんぼといわれているローガンさんは、闇夜に自転車を漕いでやってきたエドさんの前で、自分の唇に人差し指を当てました。
「しっ。大きな声を出すな。前金ならすでに渡したはずだ。壁に耳ありだぞ」
前金といっても雀の涙程度でしたが。
「しかしですね、ローガンさん。今は虫の飛ぶ季節ではないですし、いったいなにが」
「いったところで君には信じてもらえないだろう。あの本屋でグレムリンを捕まえたという君だからこそ呼んだのだ」
「はあ」
エドさんは、案内されるがまま、ローガンさんの家の戸口まできました。ローガンさんも虫捕り網を持っています。
「ここだ。いいか。扉を開けたら、すぐに飛び込むぞ。いっせいの……そら!」
ふたりはドアを開け、中に飛び込みました。目に飛び込んできたものを見て、エドさんは思わず絶句しました。
「お……お金だ!」
お金だったらさして驚きもしませんが、そのお札や硬貨のひとつひとつには、羽根が生えて、宙を舞っていたのです。
「これが信じられるか、便利屋!」
すぐに信じられるわけがありません。エドさんはただもう呆然としているだけでした。
「こ、これは」
「ごちゃごちゃいうのは後だ。わしの金を、さっさと捕まえろ!」
このための虫捕り網に袋だったのか、と、エドさんは納得しました。
さあ、たいへんな作業です。周り中を自由自在に飛び交うお金たちを、硬貨一枚残さず捕まえなければなりません。もし、外へ逃がしたら……。
『たいへんなことになるなあ』
そう考えると、責任の重さに、脂汗がにじんでくるエドさんでした。
とはいえ、狭い家の中、虫捕り網を持っての三時間にわたる大立ち回りの末、エドさんたちはやっと最後の一枚の紙幣を捕まえて、袋の中に入れました。
「ねこばばしていないだろうな、便利屋」
「そんな暇あるもんですか。だいいち、羽根が生えて飛んで行くようなお金、わたしは持ちたくありませんよ」
こんなこといわれるなんて、まったく、割に合わない商売もあったもんだなあ、いやしかし、私立探偵よりはましか、と思うエドさんでした。
「でも、ローガンさん、どうして急にお金に羽根が生えたんでしょう?」
「わしが知るか、便利屋」
「そのお金、どうするんです」
「おとなしくなったら、明日一番に銀行へ持っていく。口座の数字になってしまったら、飛びたくても飛んで行けまい」
ローガンさんのこたえを聞いて、エドさんは肩をすくめました。
そのときです。
「ああ、なんてもったいない」
と、窓の向こうから声がしました。
エドさんたちがそちらを見ると、シルクハットをかぶった恰幅のよい男が、葉巻をくわえて覗き込んでいました。
「もったいないじゃと?」
「ええ。ローガンさん……でしたな。部屋に入れてもらってよいですかな?」
男は勝手知ったる様子で戸口に回ると、中に入ってきました。
「こいつらは、これから産卵のために、渡りをしようとしていたんですよ」
「渡り?」
「そう。誰も知らないお金の繁殖地で、子供を産むんですな」
エドさんは、怪しいぞ、と思いましたが、口が糸で縫い合わされでもしたかのように、しゃべることができません。
「お金を産んだお金は、また季節が変われば、あなたのもとへ、子供を連れて戻ってくるのです。そう。倍に……いや三倍になって」
「三倍……」
ローガンさんの目はとろんとしてきました。それを見て男は葉巻をつけました。
「ここから先はふたりで話しましょうか」
エドさんはいつの間にか家から追い出されてしまいました。
相変わらずローガンさんはけちんぼで通っています。そのもとへ、果たしてお金が子供を連れて戻ってきたかどうかは知りません。エドさんは知りたくもないことでしたが、たまに気になるのです、無性に……。
村でいちばんのけちんぼといわれているローガンさんは、闇夜に自転車を漕いでやってきたエドさんの前で、自分の唇に人差し指を当てました。
「しっ。大きな声を出すな。前金ならすでに渡したはずだ。壁に耳ありだぞ」
前金といっても雀の涙程度でしたが。
「しかしですね、ローガンさん。今は虫の飛ぶ季節ではないですし、いったいなにが」
「いったところで君には信じてもらえないだろう。あの本屋でグレムリンを捕まえたという君だからこそ呼んだのだ」
「はあ」
エドさんは、案内されるがまま、ローガンさんの家の戸口まできました。ローガンさんも虫捕り網を持っています。
「ここだ。いいか。扉を開けたら、すぐに飛び込むぞ。いっせいの……そら!」
ふたりはドアを開け、中に飛び込みました。目に飛び込んできたものを見て、エドさんは思わず絶句しました。
「お……お金だ!」
お金だったらさして驚きもしませんが、そのお札や硬貨のひとつひとつには、羽根が生えて、宙を舞っていたのです。
「これが信じられるか、便利屋!」
すぐに信じられるわけがありません。エドさんはただもう呆然としているだけでした。
「こ、これは」
「ごちゃごちゃいうのは後だ。わしの金を、さっさと捕まえろ!」
このための虫捕り網に袋だったのか、と、エドさんは納得しました。
さあ、たいへんな作業です。周り中を自由自在に飛び交うお金たちを、硬貨一枚残さず捕まえなければなりません。もし、外へ逃がしたら……。
『たいへんなことになるなあ』
そう考えると、責任の重さに、脂汗がにじんでくるエドさんでした。
とはいえ、狭い家の中、虫捕り網を持っての三時間にわたる大立ち回りの末、エドさんたちはやっと最後の一枚の紙幣を捕まえて、袋の中に入れました。
「ねこばばしていないだろうな、便利屋」
「そんな暇あるもんですか。だいいち、羽根が生えて飛んで行くようなお金、わたしは持ちたくありませんよ」
こんなこといわれるなんて、まったく、割に合わない商売もあったもんだなあ、いやしかし、私立探偵よりはましか、と思うエドさんでした。
「でも、ローガンさん、どうして急にお金に羽根が生えたんでしょう?」
「わしが知るか、便利屋」
「そのお金、どうするんです」
「おとなしくなったら、明日一番に銀行へ持っていく。口座の数字になってしまったら、飛びたくても飛んで行けまい」
ローガンさんのこたえを聞いて、エドさんは肩をすくめました。
そのときです。
「ああ、なんてもったいない」
と、窓の向こうから声がしました。
エドさんたちがそちらを見ると、シルクハットをかぶった恰幅のよい男が、葉巻をくわえて覗き込んでいました。
「もったいないじゃと?」
「ええ。ローガンさん……でしたな。部屋に入れてもらってよいですかな?」
男は勝手知ったる様子で戸口に回ると、中に入ってきました。
「こいつらは、これから産卵のために、渡りをしようとしていたんですよ」
「渡り?」
「そう。誰も知らないお金の繁殖地で、子供を産むんですな」
エドさんは、怪しいぞ、と思いましたが、口が糸で縫い合わされでもしたかのように、しゃべることができません。
「お金を産んだお金は、また季節が変われば、あなたのもとへ、子供を連れて戻ってくるのです。そう。倍に……いや三倍になって」
「三倍……」
ローガンさんの目はとろんとしてきました。それを見て男は葉巻をつけました。
「ここから先はふたりで話しましょうか」
エドさんはいつの間にか家から追い出されてしまいました。
相変わらずローガンさんはけちんぼで通っています。そのもとへ、果たしてお金が子供を連れて戻ってきたかどうかは知りません。エドさんは知りたくもないことでしたが、たまに気になるのです、無性に……。
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~ Comment ~
Re: limeさん
お金が子を産んで勝手に増えてくれるのなら嬉しいですが、そんな恵まれた人、ほんとに一握りですよねえ。
しかもリーマンショックだギリシア破綻だあちこちの国でデフォルト騒ぎだ、となっているこの状況においては、うむむ……。
ちなみにお金が子供を産みすぎてとんでもない目になったのがワイマール政権下のドイツであり、例のジンバブエであります。いわゆるインフレ。とほほ。
しかもリーマンショックだギリシア破綻だあちこちの国でデフォルト騒ぎだ、となっているこの状況においては、うむむ……。
ちなみにお金が子供を産みすぎてとんでもない目になったのがワイマール政権下のドイツであり、例のジンバブエであります。いわゆるインフレ。とほほ。
読んだ後、「わあ、なんて夢のある、かわいいお話~」
・・・と思った私がちょっとお恥ずかしい。
皆さんコメントを読んで、自分が騙されやすい体質だと、再認識しました。(;_;)
・・・と思った私がちょっとお恥ずかしい。
皆さんコメントを読んで、自分が騙されやすい体質だと、再認識しました。(;_;)
Re: ゆういちさん
そこらへんは銀行も心得ていますからご安心を。
なにせ、長年の間、羽の生えたお金ばかりを扱ってきているんですからあいつら(^^;)
とほほほ(^^;)
なにせ、長年の間、羽の生えたお金ばかりを扱ってきているんですからあいつら(^^;)
とほほほ(^^;)
こんばんはー
羽の生えたお金を銀行に持った場合の銀行の対応も気になりますね~どうやって処理するんでしょうか?
羽を毟るのはかわいそうなのでご勘弁を
羽を毟るのはかわいそうなのでご勘弁を

- #7138 ゆういち
- URL
- 2012.02/12 19:30
- ▲EntryTop
Re: YUKAさん
素人のやる投資っていうのは、畢竟こういうことではないかと思って書いた面もあります。
乾坤一擲の怪しげなギャンブルというか。
運任せというか。
わたしも貯蓄を選びますね。なくなるよりはマシだ。
乾坤一擲の怪しげなギャンブルというか。
運任せというか。
わたしも貯蓄を選びますね。なくなるよりはマシだ。
Re: 有村司さん
三倍になるでしょうな。
渡りの途中で力尽きたり、天敵に襲われたりしなければ、の話ですが……(^^;)
これまでどれだけこの手の話の「被害者」を見てきたことか。
むむむ(^^;)
渡りの途中で力尽きたり、天敵に襲われたりしなければ、の話ですが……(^^;)
これまでどれだけこの手の話の「被害者」を見てきたことか。
むむむ(^^;)
金は天下の回りもの~
あわわ^^;;
こやつは物知りなのか詐欺なのか。。。
けちんぼさんがお金に好かれてたら戻ってくるんでしょうか(笑)
う~~ん。増えなくても諦めるから
私のお金には、羽が生えないでくれと思っちゃいました^^
私もその後が妙に気になる。。。
こやつは物知りなのか詐欺なのか。。。
けちんぼさんがお金に好かれてたら戻ってくるんでしょうか(笑)
う~~ん。増えなくても諦めるから
私のお金には、羽が生えないでくれと思っちゃいました^^
私もその後が妙に気になる。。。
エドさん詣でw
お金は羽が生えて飛んでいくもの…と相場が決まってますが、まさか三倍になって戻ってくるとは!!
新手の詐欺か?金運のある人はとことんついているのか…?
エドさん、無性に気になるのよっく分かります!
新手の詐欺か?金運のある人はとことんついているのか…?
エドさん、無性に気になるのよっく分かります!
- #7132 有村司
- URL
- 2012.02/12 01:39
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Re: 椿さん
子供を産んだとしてもそれ以上に物価が高騰するとか。
ジンバブエみたいにはなりたくないものであります。