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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・2月26日

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    「便利屋さん! なんでもやりますっていうけど、子供でも、お仕事頼んでもいいの?」

     その子、ラインスターさんの七歳になる息子であるアーサーくんは、小銭が山ほど入ったガラス瓶を重そうに抱えていいました。

    「お金を払ってくれれば、なんでもやるよ。まあ、なんでもっていっても、仕事の内容や、時と場合によりけりだけどね」

    「あのう……」

     アーサーくんは、もじもじしました。

    「代筆、できる?」

    「代筆? 難しい言葉を知っているんだね」

    「でも、どう書くのかがわからなくちゃ、手紙は書けないよ。あったま悪いなあ」

    「で、代筆はいいとして、わたしは、なにを代筆すればいいんだい?」

    「あの……その……」

     アーサーくんは、また、もじもじと身をよじりました。

    「ラ……ラブレターを」

    「え? よく聞こえないなあ。もう一度いってみてくれないか?」

     アーサーくんは、顔を真っ赤にしながら、同じ言葉を繰り返しました。

    「ラブレターを! 代筆してくださいっ!」

     エドさんは一瞬、苦笑いを浮かべましたが、すぐにその顔を真顔に変えました。

    「アーサーくん。君はそれで満足なのかい」

    「え?」

    「いいかい、好きになった女の子がいたなら、代筆された手紙よりも、直接、言葉で……」

     言葉を続けようとしたエドさんを、アーサーくんは、両手を振って遮りました。

    「違うよ、違うよ、便利屋さん。ぼくがその手紙を出すのは、ここらの子じゃないよ!」

     はて。どういうことでしょう。エドさんは、首をひねりました。

    「詳しく話してくれないか。いったい、その子はどこに住んでいるんだい」

    「知らないよ」

     アーサーくんは、真剣な顔で答えました。

    「じゃあ、どんな顔をしているんだい」

    「知らないよ」

     普通の大人だったら、ここでアーサーくんを怒鳴りつけ、「大人をからかっているのか」などといわれなき説教を始めるものですが、エドさんはそれをするには、長い間の探偵稼業で、妙な依頼や依頼人たちとつきあいすぎていました。

    「君は、その手紙をどこに向けて出すつもりなんだい。住所を書いて切手を貼らなくちゃ、手紙を書いても届かないよ」

    「ううん。大丈夫だよ。風船で飛ばすから」

    「風船で?」

     エドさんは、やっと合点がいきました。昔、よくエドさんも海水浴に行った時などやったものです。瓶の中に手紙を入れて、きつく栓をし、どこの誰が読んでくれるかどきどきしながら海へと流す……アーサーくんは、それと似たことを、手紙でやろうというのでしょう。しかもそれがラブレターとは。さぞや、胸のときめく冒険であることでしょう。

    「よしわかった。わたしも心を込めて書こう。わたしが全部書くかい? それとも、君がいうとおりに書くかい? これを口述筆記というんだが……君には難しい言葉か」

    「そのこうじゅつなんとかでやってよ」

     十分後に書き上がったそれは、次のような文面でした。

    『この手紙を見つけた女の子へ。これが誰か女の子の手に届くことは知っています。ぼくは夢に見たんです。遠い世界に住んでいる、すてきな女の子が、十年後か、二十年後か、この手紙を持ってぼくの前に現われ、ぼくのお嫁さんになるって、夢の中で空気の精がぼくにいったんです。あなたがぼくの前に現われたら、ぼくは心の底から、あなたを好きになり、あなたを愛し、あなたを幸せにすることを誓います。それまでどうか、このことを信じてください。アーサー・ラインスター』

     父親のラインスターさんに許しをもらい、アーサーくんと車で向かった町のおもちゃ屋で、科学実験にも使えるような丈夫な風船とカプセル、それにヘリウムガスを買ったエドさんは、アーサーくんのいう場所で車を停めました。そこは村はずれの小高い丘でした。

     いちにのさん、でアーサーくんが風船を手から放した瞬間、エドさんは信じられないものをたしかに目にしました。

     なにか透明な、大きな手のようなものが、風船を優しく守るかのようにふわりと包んで持ち上げて行ったのです。

     エドさんが目をこすると、手はもう見えなくなっていました。空気の精でしょうか。

     ふうっと息をつき、エドさんはアーサーくんを見ました。十年後か、二十年後か……エドさんにはそのときの新郎新婦の幸せそうな姿が、ありありと目に見えるようでした。


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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    光栄です。

    とはいえ、女性との接点がほとんどないことには変わりなく……。

    の割にツボを心得ているノォ~
    毎回、恋愛物は物凄く楽しんでいるのだ。

    Re: ぴゆうさん

    とにかく、おのれの中の野獣を飼い慣らさねば……おいっ野獣っ今はおやつの時間でもネットの時間でもないぞ!(笑)

    ……「空手バカ一代」という漫画を読んだことがないとわからないネタですね。失礼(^^;)


    恋愛がらみの話は、もしかしたらわたしが恋愛とは縁のない生活をしてきたから書けるのかもしれません……などと負け惜しみを呟いてみる(笑)。

    Re: limeさん

    こうしてまたも実家へ帰ってきたでござる。

    依存症か何かですなここまで来ると(^^;)


    自分磨きやその他のことが必要なのももちろんですが、ここで問題にされるべきは、

    「運命を信じますか?」

    ということじゃないかな、と思うであります(^^)

    Re: 土屋マルさん

    子供はピュアというより……

    「バカ」なんですよね(笑)。

    ミもフタもない男の意見でした(^^;)

    夢があっていいなぁ~
    どこかの世界にこんなカップルがいるかもしれないね。
    素敵やん。

    limeさんの意見に賛成。
    ダメなのかな?
    ポールが履歴にないとつまんないんですけど・・・
    そんな理由はダメかしら。

    子供の夢は、ピュアでかわいいです。
    でも、大人になったら、夢は夢で、恋をするには自分磨きの努力が必要だって気付くんでしょうね。
    それまでに、どうか素敵な女の子が現れて、夢は叶うんだと証明してほしいなあ・・・。

    ポールさん、ネットの無い一人の部屋って寂しいですよね。
    私も学生の頃、TVのない一人部屋が、寂しかったなあ・・・。
    ちょくちょく、実家に帰るっていうのは、どうでしょう!(だめ?)

    日曜日はエドさん♪

    このお話、いいですねえ。
    子供の頃の約束って、ピュアでいいです。

    Re: YUKAさん

    寒空の中、アパートに帰ることを考えただけで、夢も希望も消えていきそうですが、それでもなんとか生きてます。

    実際ネットから離れると人恋しくなるのであります。一週間目にしてすでに(^^;)

    Re: るるさん

    愛の前に不可能はなにもないのだよレルバルくん。

    ちなみにコメント読みたさのためだけについふらふらとアパートを出てネットアクセスをしてしまう淋しい生活のわたしにはまったく縁がない話なのだよレルバルくんとほほほ。

    日曜日はエドさんの日♪

    いい話しだ~~

    夢があって希望がある。

    さすがエドさん、能力は健在ですね^^

    偶然も偶然かもしれませんねぇ。
    文通できるのかも……。
    お幸せに。
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