「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・3月4日

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    「便利屋、わたしに教えなさい」

    「へ?」

     電話連絡もなしにエドさんの家へ訪ねてきたアリントン夫人は、いきなりそう切り出しました。

    「教えるって……なにをですか? 探偵術でも?」

    「そんなものを覚えてどうするのですか。違います、便利屋。わたしが覚えたいのは、カードゲームです。なんでも、スカートとかいう……」

    「スカート?」

    「そうです。綴りは確か、SKAT」

     聞いたことのないゲームです。

    「それって、プレイング・カード(普通のトランプのことです)を使ってやるゲームですよね」

    「そうです。あの悪魔の札ですよ」

    「……はあ」

    「あなたは知らないでしょうがね、昔は、それは昔は、あんなカードで遊ぶなんて、教会から厳しく禁止されていたんですからね。わたしが生まれた家では、古風だったのか、それはそれは厳しくって、カードの話なんかしたら、ひどく怒られたものです」

    「……はあ。でも、わたしもそのゲームのルールをよく知らないので、ちょっと調べさせてください。教えるというよりも、いっしょに学びましょう、アリントン夫人」

    「それでいいのです、便利屋」



     エドさんは、パソコンから、その、スカートという耳慣れないゲームのルールを引き出すと、プリンターで打ち出しました。

    「アリントンさん、わかりました。このゲームは、ドイツで人気があるゲームらしいですね。でもこれ、ふたりじゃできませんよ、三人必要です。それに、ルールもとんでもなく複雑だ。実際やってみないと、どう遊んだらいいかもわらない」

    「だったら誰か呼ぶのです」

    「呼ぶったって……」

     手近の人物で、呼べそうな人間といったら、それはひとりしかいません。

     エドさんは、奥さんのクロエさんが籠もるアトリエ代わりの部屋をノックしました。

    「入っていいかい?」

    「いいわよ」

     入ってみると、クロエさんは、複雑な線が絡み合う、よくわからない色使いの絵が描かれたキャンバスに向かい、腕を組んでぶつぶついってました。

    「……取り込み中なのかい?」

    「イメージの流れが、途中で切れちゃったのよ。どうやってもつながらなくて……あなた、なにか気分転換になるようなものはないかしら」

     渡りに船とはまさにこのことです。難しい顔をしたクロエさんを連れてエドさんが戻ると、アリントン夫人は眉間にしわを寄せてルールを読んでいました。

    「アリントンさん……?」

    「遅いですよ、便利屋。だいたいのルールはわかりました」

    「それにしても、どうしていきなりこんなゲームを?」

    「ドイツに暮らしている甥が、嫁とともにやってくるんですよ。夏に。そしてふたりともこのゲームが大好きらしくて。だから、なんとしてでも、わたしは覚えなくてはいけないんですよ。そうしないと、ふたりとも気を悪くすることになります。わかりましたか、便利屋?」

    「まあ、事情は事情として……」

     エドさんはルールを読み返しました。

    「えーと、まず、カードを何枚か抜くのか」

    「2から6までを全部抜くんですよ!」

    「はい。そうですね。えーと、えーと?」

     エドさんはとにかくゲームを始めました。



    「チェスなら得意なんだけどなあ……」

     エドさんはメモ帳にスコアを書いてぶつくさいいました。

    「でも、このゲーム、面白いわよ、あなた」

     一位になったクロエさんは、アトリエを出てきたときとはうってかわったにこやかな顔になっていました。

    「ふん、初めてのゲームじゃなかったら、あんたなんかに負けなかったものを。またルールを忘れかけたらここに来るよ」

     アリントン夫人は代金を払うと、立ち上がって帰って行きました。

    「ねえ、あなた。アリントン夫人、親戚とか仕事とかじゃなくて、ただ単に、わたしたちと遊びたかっただけじゃないの?」

     エドさんはアリントン夫人の去っていく後ろ姿を、窓から見送りながらいいました。

    「そうかもね」


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    Re: レルバルさん

    ヒマというより、淋しいんでしょうね。

    犬といっしょのひとり暮らしですから……。

    それであの性格ですし。

    Re: 土屋マルさん

    コメントが遅れに遅れて申し訳ありません。

    アリントン夫人、まさにツンデレですな(笑)

    海原雄山的ツンデレ?

    「士郎の奴……」(爆)

    Re: ぴゆうさん

    コメントが遅れに遅れて申し訳ありません。

    エドさんは、あまりシニカルにしたくないので、抑え目にしています。

    緑の森の家になってからは特にそうであります。

    そうしていると今度は別なところに反動が。(^^;)

    Re: YUKAさん

    コメントが遅れに遅れて申し訳ありません。

    村人の中でいちばん最初に顔と言動が浮かんだのがアリントン夫人でした。

    これからもどんどん活躍してくれると思います。

    ネタがなくなったときにげふげふ。

    Re: limeさん

    間に合ったけれどもかなり綱渡りであります。

    しかしそのクロエさんですが、けっこう追いつめられていて……ととと、しゃべりすぎた(^^;)

    暇だったんでしょうね。
    間違いなくw

    アリントン夫人、高飛車で居丈高なのだけれど、どこか憎めない感じですよね(*´ω`*)
    意地っ張り。
    ‥‥ツンデレ?(笑)

    読後に温かいものが感じられる。
    こういうのがいいよね。
    熱いんじゃなくて温かいの。

    こんばんは♪

    アリントン夫人、高飛車だけどなんか可愛いですね^^

    きっと遊びたかったんですよね~~^

    おお、ちゃんと間に合わせるところがすごいです、ポールさん。

    アリントン夫人、相変わらず素直じゃないですね^^
    そして、やっぱりクロエさんは、何やらせてもすごい。
    エドさん、いい奥さんを持ったもんです。
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