「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・3月18日

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    「ううん」

     エドさんは、奥さんのクロエさんがアトリエがわりに使っている部屋に立ち、描きかけの作品を見て、首をひねっていました。

    「これが、現代芸術なのかなあ。どこからどう見ても、線と色だよなあ。でも、この村の風景だよな、この窓から外を見て描いたんだからなあ。それにしてもさっぱりわからん」

     ニコルさんに頼まれて、はるばる街までアイスボックスを担いで買いに行った、店主こだわりのアイスクリーム。愛する妻と食べようと、余分に買ってきたはいいものの、帰ってみると肝心のクロエさんが、着の身着のままベッドに臥せってぶつぶつ独り言をつぶやいていたではありませんか。どうやら絵と格闘しているうちに疲労困憊してしまったようです。そういえば、最近、絵が行きづまっているようでした。先週もつまらないことで大喧嘩をしてしまったし。

    「疲れてたんだろうなあ……」

     エドさんは、冷凍庫にアイスクリームをしまい、クロエさんに毛布をさらに一枚かけると、絵の進み具合を見に行ったのでした。

    「ううん。何度見てもさっぱりわからん。いったい、なにが不満なんだろう」

     エドさんはそうつぶやきました。

     そのときです。

    「不満だよ!」

     誰かが叫びました。

     エドさんは、ぎょっとして周囲を見回しました。誰もいません。ひょっとして……。

    「絵がしゃべっているのか?」

    「絵がしゃべるわけないよ! まったく、なにを考えているんだか。ぼくは、『青』だよ。わかる? 青!」

    「あ、青?」

    「そうだよ。赤のやつときたらもう、だらだらしてるし、黄のやつは意味もなく暴れてる。そのうえ、橙と緑はさっきからけんかばかりしているし、紫のやつはすねちゃった。それでぼくといえば、まわりがうるさくてうるさくて、落ち着いてお茶のひとつも飲めないんだよ、まったく」

    「えええ……」

     エドさんの頭に、子供のころに絵画の授業で習った、「三原色」という文字が浮かびました。

    「もしかして、君、色?」

    「もしかしなくても青だよ!」

     エドさんは、頭がくらくらしてきました。

    「白とか黒は……」

    「だめだめ。白と黒は、いちゃいちゃしている。そのせいで、灰色と茶色がすっかり機嫌を損ねて、ピンクにやつあたり。藍色が仲裁してるけど、あいつだけではおさまりそうにないね」

    「はあ……」

     現代芸術はまったくわからぬエドさんも、どうやら色どうしの間がうまくいっていないことだけはわかりました。

    「君だったら、この状況をどうする?」

    「そうだな。群青色を呼んで来て、いじめられているピンクをなんとかするな。そうすると藍色がピンクと一緒に、白と黒に、もっと灰色や茶色と仲良くするようにいうから、そっちの騒動はおさまる。そうなったらぼくも落ち着いてお茶の用意ができるから、紫に頼んで橙と緑を誘うだろ。お茶にはお菓子が必要だから、ここは白を呼ぼうということになって、あいつらも仲良くテーブルに着ける。こっちが楽しそうにやっていれば、赤も黄も、呼ばれなくても自分から来るさ。あいつらもお菓子が大好きなんだから」

    「そういうものなのかねえ……」

     エドさんは、色と色とがお茶とお菓子を囲んでおしゃべりしている様子を思い浮かべようとしましたが、混乱するだけでした。

    「あなた、さっきから、なにをひとりでぶつぶついってるの?」

     エドさんは後ろを振り向きました。クロエさんが、髪をぼさぼさにしたまま、みけんにしわを寄せて立っていました。

    「群青色……」

     エドさんは思わずそう答えました。クロエさんの目が輝きました。

    「群青色? 群青色がどうしたの?」

     エドさんは先ほど、「青」がいったことをつぶさに話しました。それを聞いて、クロエさんはエドさんを抱きしめました。

    「あなた、やっぱり天才よ。天才で詩人よ。そんなあなたが大好きよ!」

     エドさんは呆然として、さっきとは打って変わった生き生きとした表情になって、絵筆とパレットを手に取った愛妻を眺めました。

    「あの……アイスクリーム、食べないか?」

    「それどころじゃないのよ!」

     エドさんは天を仰いで叫びました。

    「現代芸術は、さっぱりわからん!」


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    Re: limeさん

    どうしてわたしはエドさんを芸術家と結婚させてしまったのかと後悔することがごくたまに……(^^;)

    芸術家だったらまだいいけれど、よりによって「天才」タイプの芸術家と結婚させてしまったのかと後悔することがごくたまに……(^^;)

    Re: 山西 左紀さん

    肝心の作者のわたしが絵については全く素人の門外漢ですから、実際にこういうふうに描くのが正しいのかはしりません(汗)

    現代芸術に限らず、「絵」ってものは自室の壁にかけて満足するかしないかという、そういうもんじゃないですか?

    抽象画的な現代芸術は、どう解釈していいのか、いつもちょっと腰がひけるのですが、最近分かったことがあります。
    芸術家が、これが芸術なんだと強く信じ、描き続けることができれば、それは芸術なんだと。
    (だって、わからないんですもん><抽象画って)

    エドさん・・・・。
    最初は、クロエさんというパーフェクトな女性を妻にして幸せだなあと思ったけど、芸術家を妻にすると、苦労しますね。
    でも、そんなところもひっくるめて、クロエさんは、エドさんにとって魅力的な奥さんなんでしょうね。
    今回も、ごちそうさまでした^^

    こんばんは。

    これ、面白いです。
    現代芸術ってこういう感性で描かれているものですよね。うーん…と唸ってしまいます。すごい発想です。
    山西は現代芸術作品の良し悪しは、壁に飾っておきたいかそうでないかで区別します。それしかないです。

    Re: ぴゆうさん

    これまで人類が作り出した色のうち、もっとも強烈なのは、「ショッキングピンク」ではないかと思います。

    あまたの色の中からあの色を見出した人間は天才であります。

    人間の網膜が感じ取れるものには限界がありますが……。

    Re: YUKAさん

    わたしは絵のことについてはなにもわかりませんが、前に美術の本の実験で、モンドリアンのシンプルな直線と色だけの作品の、「色」の配置を変えてみたらどうなるか、というものを見て、わずか三色の配置なのに作品の安定感がものの見事に壊れるのに慄然とした覚えがあります。

    それ以来抽象画を見る目が変わったであります。

    挿絵を描いていると知らずに何色も使っているんだよねぇ。
    だけど自分の感覚で選んでいる時って、
    もっと濃い青がいいなぁとか、
    もっと薄い緑がいいなぁとか。
    絵の具の十二色から離れていない気がする。
    もっと仲良くなってもらわないといかんなぁ。

    おはようございます^^

    色と色が調和していていいね

    色と色が喧嘩してる

    配色のバランスが悪くて色が泣いてる



    これは美術系予備校の講師の講評だったりします。
    往々にして、評論は曖昧で感覚的な言葉。
    それにどう評価をつけて大学の合否を決めるのか、いつも謎でした(笑)
    段々洗脳されて、いつの間にかそういう見方になっていくのも不思議。

    Re: 矢端想さん

    詩人の手にかかれば、実体があろうがただの「概念」だろうが、なんだって意思をもってしゃべり出すものなのであります。

    それを「アニミズム」というのであります(大ウソ)。

    「色」が意思を持ってしゃべっている・・・!
    単に波長ごとに異なる光の視覚認識のことなのに。
    「色」そのものに「実体」があるのかないのか・・・?

    それを解くカギが、「色即是空」という言葉なのでございます・・・。
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