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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・4月8日

     ←「金剛石の目」事件 →ヒューマン・ファクター
    「便利屋さ……エド先生、アンパッサンってどうやるんですか?」

    「それは、相手のムーブでポーンが二歩進んだときに、自分のポーンでまるで相手が一歩しか進まなかったかのように取ることができる、ということだよ……あ、できるのはポーンだけだよ。それはビショップ」

    「先生、ボブのやつがいんちきしました! 一手で二つの駒を動かしました!」

    「……どれどれ。ああ、これはキャスリングといって、特別に許された動きなんだ」

    「お馬さんだよ! ぱかぱか!」

    「ナイトの駒を振り回して遊んじゃだめ!」

     小学校の教室は、はじめて大人向けのゲームを教えてくれるということで、もう、生徒たちがはしゃぎまわってうるさいのなんの。見かけよりはけっこう体力のあるエドさんでしたが、三十分も経っていないというのに、もう、ふらふらになっていました。

    「オーチス、いくら、一度手に触れた駒は必ず動かさなくちゃいけないといっても、キャサリンの手をつかんでむりやり駒に触れさせちゃだめだからね。どんなゲームでも、フェアプレイでやるべきだ」

    「でも先生、昨日見た映画では、挑戦者がチャンピオンにいやがらせをして勝ってたよ」

     ああいえばこういう。教室はもう、交通渋滞中の十字路みたいに、騒がしくてごちゃごちゃして、しかも一向に事態は解消しない、という状況になっていました。

    『……やっぱり、わたし、教師になるのは無理だったんじゃないのかなあ。カラン先生、いったいなにを考えてわたしを代用教員なんかにしたんだろう』

     エドさんは体力のほとんどを使い、半ば途方に暮れながら、それでも生徒たちに基本的なルールを覚えさせました。

    「みんな駒の動かし方はわかったかな。じゃ、この問題をやってみよう」

     エドさんは用意の、詰み寸前の盤が描かれた巻紙を広げて磁石で壁にとめました。

    「はい、この状態から、黒は白を一手で詰みにできますか? できると思う人は、教室のこっち側へ。できないと思う人は……」

     そういいかけたとき、エドさんは生徒たちがエドさんのほうを凝視していることに気づきました。いやに熱心だな、と、そちらを振り向いたとき……エドさんは修道僧の着るような黒い服をまとった、青ざめた顔の男と目を合わせていました。

    「あなた、誰ですか。今は授業中ですよ」

     エドさんは相手の肩に手を触れようとしました。しかし、その手は男の身体を突き抜けてしまいました。呆然とするエドさんをよそに、男は生徒たちをゆっくりと眺めました。視線には、見るものをすくませるなにかがあり、生徒たちは震える声を漏らしました。

     エドさんは子供たちに、逃げろ、といおうとしました。しかし、身体がいうことを聞きません。それはどうやら、子供たちも同様らしく、ひどくおびえているにもかかわらず、立つことすらできないようなのです。

     男は無言で教卓の横の椅子を指し示しました。座れ、ということでしょうか。

     エドさんは促されるままに椅子に座りました。男がぱちんと指を鳴らすと、エドさんの広げた紙に描かれた駒が勝手に動き出し、盤の両端に整然と整列しました。

    「勝負したいのか」

     男はうなずきました。エドさんは、ぐっと唇を噛むと、ひとこといいました。

    「クイーンの列の白のポーンをe4へ」

     男も黒のポーンを動かし、ゲームが始まりました。数回駒を動かすうちに、エドさんは男が並みの腕ではないことを悟りました。

     男は的確に白の駒を取り、エドさんの軍勢は見る見るその数を減らしていきました。生徒たちが恐怖に駆られた声を上げる中、もう駄目だと思った瞬間、エドさんの頭に妙手がひらめきました。ここでクイーンを使えば!

    「チェック(王手)。クイーンをg8に。これでメイト、詰みだ」

     男はびくっと身体を震わせると、すうっと姿を消してしまいました。エドさんは、身体が自由になったのを感じました。子供たちも同様で、みんなエドさんのそばに駆け寄り、まるで英雄を見るような目で……。



     翌朝、クロエさんといっしょに朝食をとっていたエドさんは、繰っていた新聞のページを見て、ほっとしたように笑い出しました。

    「あなた、どうしたの?」

    「いや、悪役を演じたうえにわざと負けてくれるとは、あの人も義理堅い人だな、って」

     指差したそこには、かつてエドさんが事件で関わったチェスの達人、故デイヴ・キーツ氏の顔写真が載っていたのでした。それはたしかに、昨日の教室の闖入者の顔でした。


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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    わたしも松田道弘先生の本であらすじを読んだだけですが、カパブランカ(キューバ人のチェスの天才で世界チャンピオン)が悪魔とチェスの勝負をするというファンタジー短編があるそうで、負けそうになったカパブランカ先生、ここで書いたような姑息な手段を使って(悪魔に「お前が悪魔だったら証拠としてその駒を黄金に変えてみろ!」といい、悪魔がそれに対して駒を黄金に変えた瞬間、「触ったんだからその駒を動かせ!」)なんとか魂を守り抜いたという展開に爆笑した覚えがあります。このセリフとストーリーはそのあらすじから思いつきました(^^)

    おはようございます^^

    さすがエドさん、顔が広い。

    そして助けてくれるのは、エドさんの人徳ですね~^^

    >いくら、一度手に触れた駒は必ず動かさなくちゃいけないといっても、キャサリンの手をつかんでむりやり駒に触れさせちゃだめだからね。

    このこの気持ちがわかって、何故か爆笑しました^^

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