「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
2 闇は千の目をもつ(完結)
闇は千の目をもつ 6-1
6
高宮秋子には、なんとかしたつもりではあるけれど、どうなるかまではわからないので、なにかあったらまた来てくださいというよりほかになかった。まるで落語に出てくる藪医者のような台詞である。
しかし、それよりも先に聞いておかなければならないことがあった。
「高宮さん、あの男の名前はなんというんですか?」
「鈴木みちのりです。あたしは離婚したときに旧姓に戻しました」
「みちのり?」
「道徳と書きます」
とんでもない道徳もあったものだ。
「道徳氏は、もとからあんな攻撃的な人だったのですか?」
「攻撃的? なにがあったんです?」
わたしだけの秘密にしておこうか一瞬迷ったが、まあ教えても高宮秋子の精神衛生にはたいして影響あるまい。
「夢の中で、狂人のような目をして、わたしに襲い掛かってきたんです」
高宮秋子は顔をしかめた。
「あの男が、そんなことを……。いえ。あたしが知っているあの男が、暴力的になるなんて想像もできません。寝る前にもお話ししたと思いますけど」
「そうですね」
わたしはもう一度さっきの戦いを思い出した。
あの男は夢魔に魂を食われていたのだろうか?
「道徳氏はいったいなにをご職業にしていたんですか?」
「大学の研究者でした」
だったらなにも問題はないじゃないか。わたしの顔にそう出ていたのだろう、高宮秋子はかぶりを振って続けた。
「先生は、大学の研究者についてなにをご存知ですか? 看護婦をやっている姉が、前に病院の研修医がどれだけ安い給料でどれだけハードな仕事をこなしているものかを話してくれたことがありますが、それでも、研修を終えたら、一人前の医者として社会にはばたいていけるでしょう。それが」
「…………」
「それが、大学の、それも人文系の研究者ときたら、お話にもなりません。給料は、安いどころか持ち出しですよ。いい年をしながらバイトに明け暮れ、そしてバイトをしていない大半の時間は、自分の研究と称して金にもならない論文を書くばかり。そう、まったくといっていいほど金にならないんです。三流の私立大学に講師として籍は置いてありますが、駒数はひとつだけ。それも受講する学生はほとんどおらず、いつ抹消されてもおかしくないものでした。無能な社会不適応者以外の何物でもありませんでしたわ」
高宮秋子には、なんとかしたつもりではあるけれど、どうなるかまではわからないので、なにかあったらまた来てくださいというよりほかになかった。まるで落語に出てくる藪医者のような台詞である。
しかし、それよりも先に聞いておかなければならないことがあった。
「高宮さん、あの男の名前はなんというんですか?」
「鈴木みちのりです。あたしは離婚したときに旧姓に戻しました」
「みちのり?」
「道徳と書きます」
とんでもない道徳もあったものだ。
「道徳氏は、もとからあんな攻撃的な人だったのですか?」
「攻撃的? なにがあったんです?」
わたしだけの秘密にしておこうか一瞬迷ったが、まあ教えても高宮秋子の精神衛生にはたいして影響あるまい。
「夢の中で、狂人のような目をして、わたしに襲い掛かってきたんです」
高宮秋子は顔をしかめた。
「あの男が、そんなことを……。いえ。あたしが知っているあの男が、暴力的になるなんて想像もできません。寝る前にもお話ししたと思いますけど」
「そうですね」
わたしはもう一度さっきの戦いを思い出した。
あの男は夢魔に魂を食われていたのだろうか?
「道徳氏はいったいなにをご職業にしていたんですか?」
「大学の研究者でした」
だったらなにも問題はないじゃないか。わたしの顔にそう出ていたのだろう、高宮秋子はかぶりを振って続けた。
「先生は、大学の研究者についてなにをご存知ですか? 看護婦をやっている姉が、前に病院の研修医がどれだけ安い給料でどれだけハードな仕事をこなしているものかを話してくれたことがありますが、それでも、研修を終えたら、一人前の医者として社会にはばたいていけるでしょう。それが」
「…………」
「それが、大学の、それも人文系の研究者ときたら、お話にもなりません。給料は、安いどころか持ち出しですよ。いい年をしながらバイトに明け暮れ、そしてバイトをしていない大半の時間は、自分の研究と称して金にもならない論文を書くばかり。そう、まったくといっていいほど金にならないんです。三流の私立大学に講師として籍は置いてありますが、駒数はひとつだけ。それも受講する学生はほとんどおらず、いつ抹消されてもおかしくないものでした。無能な社会不適応者以外の何物でもありませんでしたわ」
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