「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)
エドさん探偵物語:11 バッジを見つけろ
バッジを見つけろ
「エドさん、あなた、どうして探偵に?」
小さなレストランで、ワインを飲んでいた栗色の髪の女性は、ふいに尋ねました。エドさんは、魚のフライを切る手を止めて、考え込むような表情になりました。
「そうだなあ……おできのせいかなあ?」
「おでき?」
女性は、目をしばたたきました。エドさんは、困ったようにうなずきました。
「いや、こういうことでね……」
『わたしが生まれた田舎の小さな町でもね。(と、エドさんは話し始めました)子供が夢中になる遊びといったら、まずは探偵ごっこだったんだ。友達の後を尾行してみたり、変な暗号をこしらえてみたりね。その日もわたしは、友達の二人といっしょに探偵ごっこをやりながら、通りを歩いていた。頭におできができていて、ちょっと痛かったけど、子供は遊ばないわけにはいかないんだ。
そのおばあさんに最初に気づいたのは、誰だったかなあ? 昔話に出てくるジプシーの魔法使いみたいなかっこうでね、道に敷物を敷いて、がらくたを並べて売っていたんだ。なぜ、目に留まったかって? その並べているがらくたの中に、きらきら輝くおもちゃの保安官バッジがあったからさ。
わたしたちは、足を止めて、魅入られたようにバッジを見つめていた。じいっとね。
おばあさんが、顔を上げた。
「お前、このバッジがほしいのかい?」
わたしたちは三人とも、うなずいた。おばあさんは、欠けた歯を見せて、笑った。
「正直だねえ。正直はいいことさ。嘘をつくよりもね。よし、明日の同じ時間に、ここにおいで。お前たちにこれを持つ資格があるかどうか、見てやるから」
翌日、わたしたちはおばあさんに、小さな倉庫の前に連れてこられていた。たぶんそこが家だったんだろうな。中をちらっと見たら、がらくただらけだったね。
おばあさんは、警察官の被るヘルメットと、目隠し、それにあのバッジを持っていた。
「これから、この部屋の中に、バッジを隠すから、一人ずつ入ってくること。隠している間、目隠しをしてもらうよ。隠し終わったら、目隠しを外して、捜索開始だ。時間は十分間。まず、最初に挑戦するのは誰だい?」
友達の一人が手を挙げた。おばあさんは、その子に目隠しをすると、頭にヘルメットをかぶせ、倉庫の中に連れて行った。
なにか話し声と、がたがた鳴っている音がした。十分間は長かったねえ。
やがて、最初に入った友達が、しょげかえって帰ってきた。
「見つからなかったの?」
「うん」
次は誰だ、と聞かれて、もう一人の友達が、手を挙げた。同じように目隠しをされ、ヘルメットを被せられて連れて行かれた。
「どんなだった?」
「どんなって……あのおばあさんがいったとおりだった。ぼくは、あのがらくたの中に隠したというのは嘘で、実際はおばあさんが持っているんだと思ったんだ。けど、違った」
じゃあ、どこにあるんだろう。
十分後、もう一人の友達も、同じようにしょげた顔で帰ってきた。
わたしの番になった。目隠しをして、ヘルメットを被り、おばあさんに倉庫の中に連れて行かれた。
「それじゃあ、隠すからね」
がらくたがごとごと動かされる音がした。
「はい、いいよ!」
頭が、ぽんと叩かれた。その瞬間、硬いヘルメット越しに、手の衝撃が、わたしのおできを直撃したんだ。痛かったのなんのって。
反射的に頭に手をやった。すると、なにかに触れた。むしり取り、目隠しを外した。
バッジだったよ。おばあさんは、頭の上にあるとも知らずに部屋を探し回るわたしたちを見て、笑いをこらえていたんだ。
「確かに、お前には捜査の素質があるようだよ! そのバッジはあげようじゃないか。将来、その道に進めば、成功するだろう。あたしの予言は、当たるのさ」
こうして、わたしはバッジを手に入れ、帰ってから、知らない人についていったことで両親にこってり怒られた』
「それで自信を持ったわたしは、成長して探偵になったのさ。予言は外れたようだけど」
「そうかしら」
栗色の髪の女性は、首をひねりました。
「そのおばあさん、探偵じゃなくて、警察官になったら成功するっていったんじゃ?」
「あっ……」
エドさんは、頭をぴしゃりと叩きました。
「エドさん、あなた、どうして探偵に?」
小さなレストランで、ワインを飲んでいた栗色の髪の女性は、ふいに尋ねました。エドさんは、魚のフライを切る手を止めて、考え込むような表情になりました。
「そうだなあ……おできのせいかなあ?」
「おでき?」
女性は、目をしばたたきました。エドさんは、困ったようにうなずきました。
「いや、こういうことでね……」
『わたしが生まれた田舎の小さな町でもね。(と、エドさんは話し始めました)子供が夢中になる遊びといったら、まずは探偵ごっこだったんだ。友達の後を尾行してみたり、変な暗号をこしらえてみたりね。その日もわたしは、友達の二人といっしょに探偵ごっこをやりながら、通りを歩いていた。頭におできができていて、ちょっと痛かったけど、子供は遊ばないわけにはいかないんだ。
そのおばあさんに最初に気づいたのは、誰だったかなあ? 昔話に出てくるジプシーの魔法使いみたいなかっこうでね、道に敷物を敷いて、がらくたを並べて売っていたんだ。なぜ、目に留まったかって? その並べているがらくたの中に、きらきら輝くおもちゃの保安官バッジがあったからさ。
わたしたちは、足を止めて、魅入られたようにバッジを見つめていた。じいっとね。
おばあさんが、顔を上げた。
「お前、このバッジがほしいのかい?」
わたしたちは三人とも、うなずいた。おばあさんは、欠けた歯を見せて、笑った。
「正直だねえ。正直はいいことさ。嘘をつくよりもね。よし、明日の同じ時間に、ここにおいで。お前たちにこれを持つ資格があるかどうか、見てやるから」
翌日、わたしたちはおばあさんに、小さな倉庫の前に連れてこられていた。たぶんそこが家だったんだろうな。中をちらっと見たら、がらくただらけだったね。
おばあさんは、警察官の被るヘルメットと、目隠し、それにあのバッジを持っていた。
「これから、この部屋の中に、バッジを隠すから、一人ずつ入ってくること。隠している間、目隠しをしてもらうよ。隠し終わったら、目隠しを外して、捜索開始だ。時間は十分間。まず、最初に挑戦するのは誰だい?」
友達の一人が手を挙げた。おばあさんは、その子に目隠しをすると、頭にヘルメットをかぶせ、倉庫の中に連れて行った。
なにか話し声と、がたがた鳴っている音がした。十分間は長かったねえ。
やがて、最初に入った友達が、しょげかえって帰ってきた。
「見つからなかったの?」
「うん」
次は誰だ、と聞かれて、もう一人の友達が、手を挙げた。同じように目隠しをされ、ヘルメットを被せられて連れて行かれた。
「どんなだった?」
「どんなって……あのおばあさんがいったとおりだった。ぼくは、あのがらくたの中に隠したというのは嘘で、実際はおばあさんが持っているんだと思ったんだ。けど、違った」
じゃあ、どこにあるんだろう。
十分後、もう一人の友達も、同じようにしょげた顔で帰ってきた。
わたしの番になった。目隠しをして、ヘルメットを被り、おばあさんに倉庫の中に連れて行かれた。
「それじゃあ、隠すからね」
がらくたがごとごと動かされる音がした。
「はい、いいよ!」
頭が、ぽんと叩かれた。その瞬間、硬いヘルメット越しに、手の衝撃が、わたしのおできを直撃したんだ。痛かったのなんのって。
反射的に頭に手をやった。すると、なにかに触れた。むしり取り、目隠しを外した。
バッジだったよ。おばあさんは、頭の上にあるとも知らずに部屋を探し回るわたしたちを見て、笑いをこらえていたんだ。
「確かに、お前には捜査の素質があるようだよ! そのバッジはあげようじゃないか。将来、その道に進めば、成功するだろう。あたしの予言は、当たるのさ」
こうして、わたしはバッジを手に入れ、帰ってから、知らない人についていったことで両親にこってり怒られた』
「それで自信を持ったわたしは、成長して探偵になったのさ。予言は外れたようだけど」
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「あっ……」
エドさんは、頭をぴしゃりと叩きました。
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Re: 風波 涼音さん
人情派刑事になったエドさん、わたしも見てみたいです。テレビ版の「フロスト警部」をマイルドにした感じになっていたかな? いや、田舎の警察署長というのもありだったかも。いろいろと想像が膨らみますね。でも書くとしたら、別な人物像を作っていただろうな……。
まだたっぷりストックがあるので、どうかゆっくりお読みくださいね!
まだたっぷりストックがあるので、どうかゆっくりお読みくださいね!
そんな経緯が!!
エドさんにはそんな経緯があったんですね。
でも、エドさんなら刑事になっても人情だっぷりの良い刑事さんになっていたでしょうね。
思わず昔やってた「はぐれ刑事」シリーズ思い出しちゃいました。
これからも味あるエドさん期待しています^^
でも、エドさんなら刑事になっても人情だっぷりの良い刑事さんになっていたでしょうね。
思わず昔やってた「はぐれ刑事」シリーズ思い出しちゃいました。
これからも味あるエドさん期待しています^^
Re: ヒロハルさん
とはいえ、わたしのほかの登場人物と同様に、「それ以外のことはなにも決めていない」裏があったりするのであります。後付け設定の増設可能性は無限大ですが、いばれることじゃないな。(^_^;)
Re: 山西 左紀さん
「エドさん」を好きになっていただきありがとうございます。
しかし、わたしもよく52話も書いたものだ。そして今やっている連載企画が無事成功したら、また53話書くわけで……わたしの体力はそこまでもつだろうか。わたしの精神は?(「飢えて狼」は面白かったなあ。影響されて志水先生調(笑))
ブロともの件、いいですよ。よろしくお願いします!
しかし、わたしもよく52話も書いたものだ。そして今やっている連載企画が無事成功したら、また53話書くわけで……わたしの体力はそこまでもつだろうか。わたしの精神は?(「飢えて狼」は面白かったなあ。影響されて志水先生調(笑))
ブロともの件、いいですよ。よろしくお願いします!
- #7734 ポール・ブリッツ
- URL
- 2012.04/15 21:51
- ▲EntryTop
山桜がきれいです。
チョコチョコとポール・ブリッツさんの作品を齧り読みしていたのですが、結局Novel List の一番上にあった「エドさん」を始めました。
すごいなぁ。1作づつ見事に落ちていますね。それも様々な落ち方で……。とっても面白くて暖かくて優しいイメージです。今まで抱いていたイメージとちょっと違いました。書くのに時間がかかるとおっしゃってますが、さもありなんですね。
プロフィールにイラストをを置いてくださっていますので、このイメージでゆっくりと読んでいこうと思います。ワクワク!
また参ります。
すごいなぁ。1作づつ見事に落ちていますね。それも様々な落ち方で……。とっても面白くて暖かくて優しいイメージです。今まで抱いていたイメージとちょっと違いました。書くのに時間がかかるとおっしゃってますが、さもありなんですね。
プロフィールにイラストをを置いてくださっていますので、このイメージでゆっくりと読んでいこうと思います。ワクワク!
また参ります。
Re: fateさん
夢も予測もしなかった形で正夢になることもありますし。ネガティブな意味で(^^;)
Re: YUKAさん
人情派警官ものも面白かったかもしれませんねえ。
田舎の派出所かどこかで(^^)
田舎の派出所かどこかで(^^)
こんばんは♪
エドさんの探偵稼業には、そんな話が!
――と、楽しく読みました^^
警官だったらどうだったんだろうと
そっちもちょっと気になります^^
――と、楽しく読みました^^
警官だったらどうだったんだろうと
そっちもちょっと気になります^^
Re: 有村司さん
とにかく、任された依頼はほぼきっちりとこなす人ですから、探偵になったことは間違いない道だったと思います。
でも、警察官になっていたら人情味あふれる巡査か刑事になっていたかと……出世するということだから警部、いや警視に……いかんそういう話も読みたくなってきた(笑)
でも、警察官になっていたら人情味あふれる巡査か刑事になっていたかと……出世するということだから警部、いや警視に……いかんそういう話も読みたくなってきた(笑)
エドさーん^^
今回、心の底からエドさんを「愛しいv」と思いましたv
頭脳にも直観にも優れ、人情もあるけど「ちょっと抜けてる」そんなエドさんが大好きですvvv
頭脳にも直観にも優れ、人情もあるけど「ちょっと抜けてる」そんなエドさんが大好きですvvv
- #5652 有村司
- URL
- 2011.11/08 17:51
- ▲EntryTop
Re: ぴゆうさん
そのわりに、はやらないせいか、ブログ開始前からいるのにいまだにショートショートが番外編入れて21篇しかできてない(笑)
まあぼちぼちやります(^^;)
まあぼちぼちやります(^^;)
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Re: 椿さん
もとから頭に概要だけはありましたが、ぶっつけ本番というやつです。
その割に気に入ってます。
栗色の髪の芸術家も出せたし(^^)