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    「ショートショート」
    SF

    長すぎる休暇

     ←樹 →エドさんと緑の森の家・4月15日
     そもそも、こんな辺境を飛ぶ宇宙船に乗ったのが間違いだったんだ。なにが、「新しい世界に飛び込む前に、休暇を利用して辺境を旅するのも人生修養に役立つ」だ。卒業式での校長の言葉なんか、無視するのが最善の策なのだ。わかっていたはずなのに。

     ぼくは奇跡的に無傷で残った医療用のタンクを見た。うつろな目をした少年が浮いていた。自分の口からため息が漏れでた。この気の毒な少年は、不時着前も不時着後も、なにひとつしゃべろうとは、いや、しゃべりはおろか、自分からなにか意思的な行為をすること自体しようとはしなかったのだ。

     パワープラントの金属燃料を調べたぼくは、ため息をついた。併用している太陽光パネルを使った発電を考慮しても、地球時間であと三ヶ月もすれば、タンクを常時動かすことが不可能になってしまう。そうすると、この少年の命もなくなるわけだ。

     それでも、この名前すら知らない不毛な惑星で四年と十一ヶ月と二日も生きれば、いつ死んでもいいのではないか、と思わないでもない。そのほうが幸福だ……いや、そんなことを、ぼくが考えたりしてはいけないのだ。ぼくは、この孤独のただなかにいる少年の、今や唯一の保護者なのだから。

     ぼくは通信機ごと壊れたコントロール・パネルと、今や数十キロ離れた地点に残骸となって落ちているであろう外部エンジン、それにあと半年分あるかないかわからぬ非常用食料を見た。

     ため息しか出てこなかった。

     そもそも、どうして、五年前に平凡な文学部志願の高校生であるぼくの乗った宇宙貨客便が不時着の憂き目にあったかから話さねばならないだろう。

     貨客船は、ハイジャックにあったのだ。銃で武装した犯人側は、どうやら少年を奪おうとしていたようだった。それに対し、少年を警護する側も銃で武装していた。

     狭苦しい船室内を、レーザー光と実体弾が飛び交った。

     三十秒としないうちに、船内で生き残っていたのは、医療タンクの中の少年と、たまたま席が医療タンクのそばに近かったせいで弾がそれてくれたぼくだけだったのだ。できれば、船のパイロットをはじめとするクルーたちも生き残ってほしかったのだが、それは、残念ながら……というわけだ。

     もっと残念なことに、ハイジャック犯が銃撃戦を始めたのは、船が超空間航法に入ってからだった。船が結局、どこに出現したのかなんて、ぼくにわかるわけないじゃないか。

     かくして船は漂流の末、どことも知れぬ惑星に不時着……不時着の過程で大破。どうしろっていうんだ、だ。

     まだ高校生だったぼくに、星図にもないこの惑星を探検する手段はないも同然だった。だいいち、下手にこの船を出て、外部を探検することによって、呼ばなくてもいい災厄を呼び込んでしまう公算があまりにも高かった。未知の病原菌、未知の害虫、未知の毒素を含んだ空気、エトセトラ。それならば、ここに籠ってなにかしていたほうが安全だ。

     ぼくは、タンクのそばによると、いつものように話しかけた。

    「……君。今日も、『宇宙クラゲとロボット少女の冒険』の続きを話してあげるよ。昨日は、ジャングルの惑星に舞い降りたところまでだったよね。そこには、クラゲをサラダのつけあわせにしてがつがつと食ってしまう、ものすごく大きな、歩くイソギンチャクフラワーが沼地のいたるところに潜んでいてね……」

     外部から遮断された独りぼっちがここまでも長く続くと、空想の世界に逃げ込みたくなる。そしてぼくの志望は文学部だ。よし、この少年のために、なにか面白い話をしてあげよう、もしかしたら耳が聞こえるかもしれないし、と思ったぼくは、思いつくままに、陽気でひたすら長く続く、宇宙クラゲとロボット少女の珍道中を始めたのだった。

     いまとなっては、少年のためというよりは、自分のために話していた、といったほうが近かった。そうでもしないとこっちの気が狂う。

     しかし、あと三ヶ月で、この話も大団円を迎えるのだ。ぼくがしたくなくとも、燃料がそうさせるのだ。

     クラゲと少女が、ジャングルの惑星を脱出したら、目的地である、小さな村の牧場に、ふたりを向かわせてあげよう……。そして、この物語も終わるのだ。少年の生命と同時に。そしておそらくはぼくの生命も。

     その時だった。

     どこか、上のほうから、宇宙船の外殻をも揺らすような轟音が聞こえてきた。

     なんだろう? あれは……あれは、連絡用のシャトルの音だ!

     エアロックが開く音がした。

    「ジミー・チャータリスくんだね?」

     十分後、ぼくは、宇宙服を身に着けたパトロールにより、シャトル内部で、ひさびさに味わううまい食事に舌鼓を打っていた。

    「ありがとうございます。もしかしたら、あの惑星で島流しのまま、干物になってしまうのではないかと……もう循環再生水はこりごりです」

    「すべては、あの少年のおかげだよ。あの少年は、ジェイコブ・ロックスリーくんといって、君たちの居場所を、何年にもわたって、われわれに教え続けてくれていたんだ。彼がいなかったら、われわれも君を発見できなかっただろうね、宇宙は広いから」

     ぼくは首をひねった。

    「どうやって、ですか?」

     パトロール隊員は大笑いした。

    「つまりね、彼は、生まれついてのテレパスだったんだよ。もっとも、同じ能力を持っていたとしてもきみには感じ取ることができないだろうけどね。彼のテレパシーは、光よりも早い速度で、ここから十光年先の、超能力研究所に届いていたんだ。われわれは、だから、きみたちふたりがともに生きていることを知っていた。一刻も早く救助しなくてはならないことも。もし、きみたちに、星図が読めていたら、われわれは三日できみたちを見つけ出せていただろう。五年もかかったのは、この地域がかなりの割合で未踏査だったからだよ」

    「ああ……」

     うなずいたぼくは、ぎょっとして、目の前のパトロール隊員を見た。

    「じゃ、じゃあ、ぼくが、ロックスリーくんに語って聞かせたことは? もしかして、全部……」

     隊員はにやりと意地の悪い笑みを漏らすと、ポケットから手帳サイズの本とペンを取り出した。

    「わたしたちは、実はきみに、サインをもらおうと思っていたんだ。ベストセラーの児童文学作家、ジミー・チャータリスの、初の生のサインをね。映画も現在三作目が作成中だよ」

    「やめてください」

     ぼくは頭を抱えた。

    「あれが好評だったら、ぼくは編集者に、今度こそ二度とあの星から出られないよう缶詰にされてしまいかねません」

     パトロール隊員たちはどっと爆笑した。

     窓の外にはシャトルを収容する、パトロール隊の母艦が見えた。

     ぼくにとっての新しい世界の始まりだった。
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    気は重くないけど荷は重い(^^;)

    いつかは書いてみたいけど、そこまで筆力が上がるのには無限の時間がかかりそうです(^^;)

    おはようございます^^

    これは良いですね!

    オチに笑いがあって救いがあって(笑)

    彼の童話、読みたいです^^
    児童文学作家の最高傑作!
    それを書く――というのは、気が重いでしょうか?^^

    Re: 矢端想さん

    矢端想さんはポール・ブリッツにはハッピーエンドがないといふ。

    ほんとのハッピーエンドが見たいといふ。

    やったろうじゃん。

    明日はホラーね。(←おい)
    • #7732 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.04/15 21:28 
    •  ▲EntryTop 

    おお、珍しくハッピーエンドではないか!(失礼)

    うん、「古き良きSF」ですね。
    お見事です。

    Re: 土屋マルさん

    わしがSFを読み始めたころの早川文庫にはのう、こういうタイプのお話がいっぱいあってのう。なにもかも懐かしいのう。フレドリック・ブラウンとか、ブラッドベリとか、アシモフとか、ハインラインとか。いや、懐かしいのう。ずず~(渋茶をすする音)

    ポールさん、こんばんはっ♪

    私も↑のlime様に激しく同意です~っ。
    これ傑作ですよっ。・゚・(ノ∀`)・゚・。

    切ない・物悲しい孤独なラストが待っているのかと思いきや‥‥。
    しかもベストセラーの児童文学作家!
    ホッとしたのと、嬉しいのとで思わずホロリときました。
    (そういう場面でもない?いや、でも本当、嬉しくて涙がジワリと‥‥)

    こういうお話、大好きですっ。

    Re: limeさん

    たまにはこういうオールド・スタイルの正統派SF短編もいいのではないかなあ、と思って書きました。

    というかネタがなくてうがあああああっなどと叫びながら書きました。

    最初はもう少し意地の悪いエンディングにするつもりだったことはナイショであります。

    さて、明日はどうしよう。(自転車操業……)

    いやあ~、これは傑作です。
    物悲しいラストが待っているのかとおもいきや。
    良いですねえ。
    爽快で、クスッと笑える短編。
    いやべつに、少年が出てくるから絶賛してるわけじゃないですから!
    くれぐれもヾ(`ε´)
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