「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)
エドさんと緑の森の家・4月22日
「今日の予定は、っと。これからダーナムさんのところで子供相手に宿題を教えて、それからハーンさんの三歳の子供が眠るまで、寝床で昔、探偵だったころのぞくぞくするような話をしてあげる、ということは今日も九時まで家に帰れないのか」
子供にチェスを教えた後の四月ともいうのにまだ寒い帰り道、エドさんは自転車に乗りながら今後の予定を総ざらいしていました。
「どうせ家に帰っても誰もいないしなあ。ひとりでわびしく冷たい食事だよなあ。なんでこんな日の夜に対談なんかが組まれるのかなあ、美術雑誌め」
美術雑誌に腹を立ててもしかたがありません。ぶつくさ言いながらペダルを踏み込んだとき……急に何かとぶつかりました。
「いててて、大丈夫ですか?」
夕闇が迫りつつあって、なにか見落としたのかなあ、どっちにも怪我がなければいいんだがなあ、そう思いながらエドさんは自転車を起こし、ぶつかった相手を探しました。
相手が見つからないのも道理でした。相手は、黒かとも思える濃い灰色のローブを頭からすっぽりとかぶっていたのです。
「うう、すまん。ちと齢で、目が近くなって……すまんが、この辺で、便利屋をやっている家があるそうなんじゃが、知らんかのう」
「便利屋のエドはわたしですが」
エドさんは、ちょっと警戒して答えました。ローブを着た人間には、ろくな目に遭わされた覚えがないからです。
「おお、そうか! それはよかった。ちいと、探し物につきあってもらいたいんじゃ。この辺りにいることは確かなんじゃが」
「それがなんだか知りませんがね、たぶんわたしは持っていないと思いますよ」
ちょっと後ずさりしてしまうエドさんでしたが、ローブを着た相手は手を振りました。
「そんなことはわかっとる。知り合いから聞いたのじゃが、お主は、人や物を探すことでは右に出るものがないそうではないか。その腕を見込んで、力になってほしいのじゃ」
「探偵の仕事はやめたんですけどねえ……」
エドさんは頭をかきかきいいました。
「便利屋だったら、雇われてはくれまいかのう。本当に、わしにとっても皆にとっても大事なものなんじゃから」
「まあ、いいでしょう。とりあえず、それがなんなのか教えていただけませんか。本格的な調査は明日からになりますが、いくらかでも情報があったほうがわたしも楽ですから」
「引き受けてもらえるか! ありがたい。いいかな、わしの探しているものは、このくらいの、小さな真っ白い野うさぎじゃ」
「白い野うさぎ?」
エドさんは首をかしげました。
「もう、四月ですよ。野うさぎはとっくに毛が生え変わって茶色くなっていますよ。家うさぎの間違いじゃないんですか?」
「野うさぎといったら野うさぎじゃ! どうやら、あれも怠けぐせが出てきたようで、このあたりに腰を据えて動こうとせんのじゃ」
「はあ。白い野うさぎ。野うさぎね……」
エドさんはしばし考え込みました。しかし、ちっともいい考えが浮かびません。
「うーん、やっぱり、専門家の助言を受けて、明日から調査するしかなさそうですねえ」
「誰じゃ、専門家って」
「ここの向こうに住んでいる、今は引退した猟師のスマイルズさんです。未だに、ライフルを持たせると、山のてっぺんに止まっている蚊でも撃ち落とせる腕を持ってます」
「そんな猟師が、どうして引退したんじゃ」
「闇夜でうさぎを撃つなんて、子供のおはじき遊びよりも簡単で、つまらなく、ばかばかしい仕事だからやめたっていってました。あの人なら、どんないたずらうさぎでも、しっぽを吹き飛ばすくらい楽なものでしょう」
エドさんがそういったとたん、茂みの中から、いきなりうさぎが飛び出して、灰色のローブの人物の腕にぴょんと飛び乗りました。かわいそうに、夕闇の中でもわかるほどがたがた震えています。
「便利屋、お主、なかなかの知恵者だのう」
「いえ、知恵もなにも、わたしは事実を述べたまでですよ。ところで、お探しのうさぎちゃんは、その子ですか?」
「おお、そうじゃ。こいつ、冬の精のくせに、ちっとも春の精と交替せずに遊んでおる。連れて行かんと、皆、迷惑するからのう」
灰色のローブの男は、うさぎとともに、すうっと姿を消しました。
「明日からは暑くなるかな……」
エドさんはつぶやくと、再び自転車にまたがりました。そういえば、スマイルズさんにもあいさつをしなければ。凄腕の猟師だとも、空前絶後のほら吹きだとも噂されていますが、試してみる気には……なれませんよね?
子供にチェスを教えた後の四月ともいうのにまだ寒い帰り道、エドさんは自転車に乗りながら今後の予定を総ざらいしていました。
「どうせ家に帰っても誰もいないしなあ。ひとりでわびしく冷たい食事だよなあ。なんでこんな日の夜に対談なんかが組まれるのかなあ、美術雑誌め」
美術雑誌に腹を立ててもしかたがありません。ぶつくさ言いながらペダルを踏み込んだとき……急に何かとぶつかりました。
「いててて、大丈夫ですか?」
夕闇が迫りつつあって、なにか見落としたのかなあ、どっちにも怪我がなければいいんだがなあ、そう思いながらエドさんは自転車を起こし、ぶつかった相手を探しました。
相手が見つからないのも道理でした。相手は、黒かとも思える濃い灰色のローブを頭からすっぽりとかぶっていたのです。
「うう、すまん。ちと齢で、目が近くなって……すまんが、この辺で、便利屋をやっている家があるそうなんじゃが、知らんかのう」
「便利屋のエドはわたしですが」
エドさんは、ちょっと警戒して答えました。ローブを着た人間には、ろくな目に遭わされた覚えがないからです。
「おお、そうか! それはよかった。ちいと、探し物につきあってもらいたいんじゃ。この辺りにいることは確かなんじゃが」
「それがなんだか知りませんがね、たぶんわたしは持っていないと思いますよ」
ちょっと後ずさりしてしまうエドさんでしたが、ローブを着た相手は手を振りました。
「そんなことはわかっとる。知り合いから聞いたのじゃが、お主は、人や物を探すことでは右に出るものがないそうではないか。その腕を見込んで、力になってほしいのじゃ」
「探偵の仕事はやめたんですけどねえ……」
エドさんは頭をかきかきいいました。
「便利屋だったら、雇われてはくれまいかのう。本当に、わしにとっても皆にとっても大事なものなんじゃから」
「まあ、いいでしょう。とりあえず、それがなんなのか教えていただけませんか。本格的な調査は明日からになりますが、いくらかでも情報があったほうがわたしも楽ですから」
「引き受けてもらえるか! ありがたい。いいかな、わしの探しているものは、このくらいの、小さな真っ白い野うさぎじゃ」
「白い野うさぎ?」
エドさんは首をかしげました。
「もう、四月ですよ。野うさぎはとっくに毛が生え変わって茶色くなっていますよ。家うさぎの間違いじゃないんですか?」
「野うさぎといったら野うさぎじゃ! どうやら、あれも怠けぐせが出てきたようで、このあたりに腰を据えて動こうとせんのじゃ」
「はあ。白い野うさぎ。野うさぎね……」
エドさんはしばし考え込みました。しかし、ちっともいい考えが浮かびません。
「うーん、やっぱり、専門家の助言を受けて、明日から調査するしかなさそうですねえ」
「誰じゃ、専門家って」
「ここの向こうに住んでいる、今は引退した猟師のスマイルズさんです。未だに、ライフルを持たせると、山のてっぺんに止まっている蚊でも撃ち落とせる腕を持ってます」
「そんな猟師が、どうして引退したんじゃ」
「闇夜でうさぎを撃つなんて、子供のおはじき遊びよりも簡単で、つまらなく、ばかばかしい仕事だからやめたっていってました。あの人なら、どんないたずらうさぎでも、しっぽを吹き飛ばすくらい楽なものでしょう」
エドさんがそういったとたん、茂みの中から、いきなりうさぎが飛び出して、灰色のローブの人物の腕にぴょんと飛び乗りました。かわいそうに、夕闇の中でもわかるほどがたがた震えています。
「便利屋、お主、なかなかの知恵者だのう」
「いえ、知恵もなにも、わたしは事実を述べたまでですよ。ところで、お探しのうさぎちゃんは、その子ですか?」
「おお、そうじゃ。こいつ、冬の精のくせに、ちっとも春の精と交替せずに遊んでおる。連れて行かんと、皆、迷惑するからのう」
灰色のローブの男は、うさぎとともに、すうっと姿を消しました。
「明日からは暑くなるかな……」
エドさんはつぶやくと、再び自転車にまたがりました。そういえば、スマイルズさんにもあいさつをしなければ。凄腕の猟師だとも、空前絶後のほら吹きだとも噂されていますが、試してみる気には……なれませんよね?
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~ Comment ~
かわいらしいお話でした~。
「森は生きている」をじわ~っと思い出したり。
エドさんらしくて、いいですねえ。
>来週載せれば、目標の三分の一はクリアなんですけどねえ……。
目標を立てているところが、やっぱりポールさんですね^^
「森は生きている」をじわ~っと思い出したり。
エドさんらしくて、いいですねえ。
>来週載せれば、目標の三分の一はクリアなんですけどねえ……。
目標を立てているところが、やっぱりポールさんですね^^
Re: YUKAさん
もうネタがなくなって、苦し紛れで書きました(汗)
来週載せれば、目標の三分の一はクリアなんですけどねえ……。
来週載せれば、目標の三分の一はクリアなんですけどねえ……。
おはようございます^^
おお!さすが正直者のエドさん。
腹芸ではなさそうです(笑)
でも結果的に、めでたしめでたし^^
腹芸ではなさそうです(笑)
でも結果的に、めでたしめでたし^^
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Re: limeさん