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    「ショートショート」
    ユーモア

    わらしべ長者

     ←必要 →なにが面白いのかわからない
    (注意!)このショートショートの内容は、正常な神経を持つかたにとっては不快感を与えるものを含んでいる可能性があります。もし、コミケ、オタク、同人誌などに拒否反応を示されるようであれば、お読みにならないことをお勧めします。作者


     即売会が終わった。おれは、手元に残ったチラシを手に取った。

    「一枚余っちまったな」

     おれは、そのチラシを、隣で本を売っていたサークルの人に渡した。

    「あの、よかったら、これもらってください」

    「これはご丁寧に……じゃあ、こちらも、同人誌が一部余りましたので、在庫を作るのもなんですし、どうぞ」

    「ありがとうございます」

     おれはちょっと及び腰になりながらその薄い本を受け取った。いわゆる十八禁、すなわちエロ同人誌だったからだ。

     好みのアニメのヒロインがそういうことをしているのはなんとなく釈然としないのだが……。

     隣のサークルの人たちが席を立った後、それでもなんとはなしにぱらぱらとその本をめくっていたおれの前に、息を切らせた男がやってきた。

    「あ、あの、サークルひよよんさんのところのかたですか?」

    「ひよよんさんは隣です。もう帰られました」

    「……し、しまった! いつお帰りになられたんですか!」

    「十分くらい前だったかな?」

    「うう……新刊、欲しかったのに……」

    「これですか?」

    「そ、それがひよよんさんの?」

     男の目がいきなり精気を取り戻した。

    「お願いします。譲ってはいただけませんか?」

    「いいですけど……」

    「ありがとうございます!」

     男はおれの手から同人誌をひったくって、むさぼるように読んだ。

    「新刊を譲っていただいてありがとうございます! うちの新刊の余りですが、これをどうぞ!」

     男は、紙袋から五冊ほどの同人誌をおれの座っていた机の上に置くと、風のように去っていった。ほかにも回るサークルがあるんだろう。

     おれはちらりと本を見やり……頭を抱えた。

     どれもこれも、きついにもほどがある、鬼畜系というやつだった。

    「あいつ、こんな本を出しているサークルの人間だったのか」

     とはいえ、人間の血と汗と涙の結晶である同人誌、即座にゴミ箱、というのは人道にもとる。

    「そういや、須崎の野郎がいたか……」

     あいつはこういう同人誌が好きだからな、おれは荷物をまとめると、ぶらぶらとやつのサークルのほうへ歩いて行った。

     須崎のところにたどりつくと、やつもまた帰り支度をしているところだった。

    「おい。須崎、こんなのもらったんだが……」

    「あっ。これ、おれが買い逃したやつだ。くれるのか?」

    「正直、おれこういうの嫌いなんだよ」

    「だけど、もらいっぱなしじゃ悪いよ。そうだ、うちの後輩たちが駆けまわって集めた本に、だぶったのがあったから、その紙袋をかわりにやるよ」

    「いらな……」

    「いいっていいって。こっちも車のキャパシティに限度があってな」

     どれだけ買ったんだあいつ。おれは、エロ同人誌が詰まった手にずっしりと来る紙袋を下げ、どうするか考えた。

    「売りに行くか」

     正直、このような行為は好きではないし、やるべきでもない。しかし、この量を考えると、古本屋に売って、誰か欲しい人の手に渡ることを考えたほうがいいとも思う。特に……。

    「須崎のやつ、どうしてこんなにえぐいのばっかり買うんだ……」

     おれはでたらめに選んだ一冊をめくり、そのインモラルにもほどがある内容に顔をしかめた。

     そして、古本屋に足を向けたおれは……。



    「もういいです」

     おれのアパートの大家はかんかんになっていた。

    「いや、だからおれも、欲しかったわけじゃなくて」

    「とにかく、そのいやらしいものの山をなんとかしてくださいね! 床が抜けたら、賠償してもらいますよ!」

     おれの後ろでは、列をなした大型トラックから、その手の同人誌で埋まった段ボール箱が、次から次へとピラミッドのようにアパートの玄関の前に積み上げられていくのだった。

     チラシ一枚がどうしてこうなったのか、おれもよく覚えていないのだが、ひとつだけ確からしいことは、これらをもし、地域のゴミ処理場に持っていくと……。いやまさか……。

     おれは心底、恐怖を覚えた。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    いや、「わらしべ長者」現象はむしろその「贈与=報酬」間の非対称的重層構造が富の偏在を産む商業という存在のアナロジーとして(←なんのこっちゃ(笑))

    最初に渡したチラシも
    隣のサークルほうで”わらしべ長者”現象を起こしているかも。

    Re: 山西 左紀さん

    こういう、事態が登場人物の手を離れてコントロール不能になるギャグ話って面白いですよね。この手の話がいちばんうまい作家は、筒井康隆先生だろうと思います。あの人は天才です。わたしが今さらいうことでもないですが。

    これは!フフフッと笑ってしまいました。

    Re: 矢端想さん

    どちらかといえば、プルサーマルのイメージに近いでしょうね。

    使えば使うほど、もらえるものが増えて行き、最後にはキャパシティを遥かに超えるもらいものにより、押しつぶされて破滅する、という……。
    • #7893 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/04 16:39 
    •  ▲EntryTop 

    「わらしべ長者」って一見エネルギー保存の法則が働いてないように思えますが、実は人の価値観の差異によって生まれるエネルギーで成り立ってるんですよね。
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