「ショートショート」
その他
なにが面白いのかわからない
「ああ、君の小説だけど」
その編集者は、ばさっとぼくの原稿をテーブルに投げた。
「どこが面白いのかさっぱりわからない」
ぼくは下を向いていた。
「人間が描けていないんだ、人間が。人間に合わせる焦点がぼけているから、面白いことをしたと、仮に、だよ。仮に、面白いことをしたとしても、それが読む人間にまったく伝わってこないんだ。わかる?」
「はあ……」
「はあじゃないよ。で、肝心のストーリーも平坦。一本調子。メリハリがない。これでどうやって読者の興味をつなぐんだね。面白くない。まったく、どこが面白いと思って書いたのかわからないね」
ぼくはますます小さくなった。
「そしてメインのアイデアが、いったいなにを面白く思って作ったのかわからないような代物ときている。月並みなアイデアとはいわないよ。月並み以下だね。面白くもなんともない」
ぼくはテーブルの上の原稿をとんとんとそろえ始めた。なにかしていないと、惨めでしかたがなかったからだ。
「とにかくね、うちみたいな出版社に持ってくるのなら、もっと、面白いことを書いて持ってくるんだね。ま、君にできればのことだけど」
その編集者は立ち上がり、部屋を出て行った。ぼくは原稿を鞄にしまい、脱兎のごとく部屋を後にした。もう、なにも考えたくはなかった。
「いや、面白いですね。これ。人物造形も、ストーリーも、新鮮ですよ。すばらしい」
ぼくは、ダメもとで持ち込んだもう一つの出版社で、編集者が語る言葉を信じられないように聞いていた。
「で、でも、その原稿は、○○社で、編集の人からまったく面白くないって……」
「Sさん?」
「は、はい。その、Sさんです」
編集者は、苦笑した。
「君もえらい人に捕まっちゃったね。あの人は、そう、なんというか……」
ちょっとの沈黙の後、複雑なニュアンスで編集者はいった。
「面白さに対する不感症……つまり、なにが面白いのか、『面白い』ということがどういうことなのかわからない人なんだ」
その編集者は、ばさっとぼくの原稿をテーブルに投げた。
「どこが面白いのかさっぱりわからない」
ぼくは下を向いていた。
「人間が描けていないんだ、人間が。人間に合わせる焦点がぼけているから、面白いことをしたと、仮に、だよ。仮に、面白いことをしたとしても、それが読む人間にまったく伝わってこないんだ。わかる?」
「はあ……」
「はあじゃないよ。で、肝心のストーリーも平坦。一本調子。メリハリがない。これでどうやって読者の興味をつなぐんだね。面白くない。まったく、どこが面白いと思って書いたのかわからないね」
ぼくはますます小さくなった。
「そしてメインのアイデアが、いったいなにを面白く思って作ったのかわからないような代物ときている。月並みなアイデアとはいわないよ。月並み以下だね。面白くもなんともない」
ぼくはテーブルの上の原稿をとんとんとそろえ始めた。なにかしていないと、惨めでしかたがなかったからだ。
「とにかくね、うちみたいな出版社に持ってくるのなら、もっと、面白いことを書いて持ってくるんだね。ま、君にできればのことだけど」
その編集者は立ち上がり、部屋を出て行った。ぼくは原稿を鞄にしまい、脱兎のごとく部屋を後にした。もう、なにも考えたくはなかった。
「いや、面白いですね。これ。人物造形も、ストーリーも、新鮮ですよ。すばらしい」
ぼくは、ダメもとで持ち込んだもう一つの出版社で、編集者が語る言葉を信じられないように聞いていた。
「で、でも、その原稿は、○○社で、編集の人からまったく面白くないって……」
「Sさん?」
「は、はい。その、Sさんです」
編集者は、苦笑した。
「君もえらい人に捕まっちゃったね。あの人は、そう、なんというか……」
ちょっとの沈黙の後、複雑なニュアンスで編集者はいった。
「面白さに対する不感症……つまり、なにが面白いのか、『面白い』ということがどういうことなのかわからない人なんだ」
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~ Comment ~
「面白さ」なんてものは人それぞれな訳で、「面白い」と思った者勝ちなんでしょうね。
しかし、さして「面白い」作品でなくとも「受ければ」良い商業作品の場合は……はっ!
まさか編集者のSさんというのは「受ける」作品を「面白い」と表現している人なのでは……!?
そう考えると、なかなかの敏腕編集者なのかも知れませんね。
しかし、さして「面白い」作品でなくとも「受ければ」良い商業作品の場合は……はっ!
まさか編集者のSさんというのは「受ける」作品を「面白い」と表現している人なのでは……!?
そう考えると、なかなかの敏腕編集者なのかも知れませんね。
だが、そのSという編集さんこそが“本当に面白い物”を分かっている人なのかもしれない・・・
俺には分かる・・・
自分のブログで「プリキュアの衰退を招いた戦犯」と呼ばれた「スイートプリキュア♪」や
「大河ドラマ人気におんぶにだっこしたNHKに下された低視聴率という審判」と週刊誌に書かれた「平清盛」の記事を書いている俺にはな、フッフッフ。
俺には分かる・・・
自分のブログで「プリキュアの衰退を招いた戦犯」と呼ばれた「スイートプリキュア♪」や
「大河ドラマ人気におんぶにだっこしたNHKに下された低視聴率という審判」と週刊誌に書かれた「平清盛」の記事を書いている俺にはな、フッフッフ。
Re: ウゾさん
ギャグ漫画家といえば、いしいひさいち先生、鉄のような人ですねえ。あれだけ笑える漫画を数十年描いて、未だに現役なんですから。
この編集者は……いや、いいますまい(^^;)
この編集者は……いや、いいますまい(^^;)
おはようございます。
うーん いそうな気がするよ そんな人…
ギャグ漫画の作家の 妙に 若く死ぬ率の高さ 自殺率の高さが 現実を物語っている。
此の編集者 笑いを追い求めて 挫折した人なのだろうか。
うーん いそうな気がするよ そんな人…
ギャグ漫画の作家の 妙に 若く死ぬ率の高さ 自殺率の高さが 現実を物語っている。
此の編集者 笑いを追い求めて 挫折した人なのだろうか。
- #7909 ウゾ
- URL
- 2012.05/05 07:46
- ▲EntryTop
Re: 矢端想さん
実話だったらある意味救われるのですが。
現実はここまでたどりつくことすらできない。
世の中、そーゆーものです。
現実はここまでたどりつくことすらできない。
世の中、そーゆーものです。
Re: レルバルさん
実際は出版社に行くことすらできないものです。
世の中、そーゆーものです。
世の中、そーゆーものです。
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Re: ダメ子さん
人間の本質は昔と比べて変わったようで変わってないようでやっぱり変わったと思うSFファン。