「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)
エドさんと緑の森の家・5月6日
エドさんは、はしごの段に手をかけながら、真剣な表情をしていました。
「便利屋さあん、頼みましたよお!」
エドさんは、ステンドグラスなんかを発明したやつはいったいどんなやつなんだろうと思いながら、教会のてっぺんに立ちました。
エドさんがなにを思おうと、便利屋として仕事を請け負ってしまったからには、やり遂げなくてはいけません。腰に命綱を巻いて固定し、エドさんは、深く息を吸いました。
下を見下ろすと、童話に出てくる小人のように小さくなった司祭さんが、こちらを見上げています。心なしか、心配そうな表情にも……。エドさんは奥歯を噛んで、依頼を思い出していました。
「いつもは専門の職人にまかせているのですが、あいにくと病気だとかで。あなたが便利屋をこの村で開いたのも、神の深いおもんばかりでありましょう」
司祭さんはそういっていました。
「で、そのステンドグラスの汚れとやらは、どこについているんですか?」
「尖塔のてっぺん付近です。聖人の顔に当たる場所に、なにかがべったりと。これでは主教さまをお迎えするのに面目が立ちません」
ということで、エドさんはそのなにかをふき取るために、ひとつ間違えばまっ逆さま、という危険な仕事に臨んでいるのでした。
遠くから見るとわかりませんでしたが、その汚れは、しっかりと形を持っていました。
「鳥かなにかの巣みたいだな。取り壊すのはかわいそうだけど……依頼を受けてしまった以上は、取り払わないといけないからなあ。でも、これ、いったいなんの巣だろう?」
エドさんは、中に卵が入っていないことを祈りながら、そばまで降りて行き、ひょいと中を覗き込みました。
見知った顔がそこにありました。
「あっ! お前は!」
その驚きが伝わったのでしょうか、下から、司祭さんの大きな声が聞こえてきました。
「便利屋さあん、いったいなにが見つかったんですかあ? 危険なものですかあ?」
危険というかなんというか。。
巣の中でエドさんと目を合わせていたのは、かつて、ガレージで不凍液をなめでいた、あの醜い妖精、グレムリンだったからです。
「いい子だから」
エドさんはこわばった声でいいました。
「ここから出て行ったほうがいいぞ。なにせ、ここは、神様に祈りを捧げる場所だ。そんなところに巣を構えたら、ばちが当たるぞ」
グレムリンは、理解しているのかいないのかよくわからない顔をしていました。
エドさんは、巣をグレムリンごと叩き落とそうかどうしようか、迷いました。相手は翼が生えているものの、巣を壊されたら怒るでしょう。そうでなくとも、もしここでエドさんにかみつきでもしたら、最悪の場合、下の地面にまっ逆さまです。それに、なんとなくですが、このグレムリン、それほど悪さをするようなやつとも思えないのです。
エドさんは、ポケットを探りました。いろいろな経験から、ポケットには常に飴玉をひとつ忍ばせてあるのです。
エドさんは、片手で器用に包み紙を開けると、グレムリンに差し出しました。
「こんなところにいても、みんなから嫌われるだけだぞ。どうだい、一緒にうちに来ないか? 悪ささえしなければ、追い出したりしないと約束するよ」
グレムリンは、申し出を理解したのか、その手の中の飴玉をしっかりとその小さな手で抱くと、エドさんの肩にとまりました。
「よし、いい子だ。じゃ、すまないが、こちらは処分させてもらうよ」
エドさんがへらと雑巾を使って、その巣を壁から削り落としたときです。
「あっ……」
ふいに肩からグレムリンが飛び立ちました。エドさんはなすすべもなく、どこか遠くへと飛び去っていくグレムリンを見送るしかありませんでした。
ステンドグラス拭きの仕事を終え、子供たちにチェスを教えたエドさんが自宅へと帰ると、食堂からはいいにおいがしていました。
「お帰りなさい、あなた。今日はあなたの好きな、きのこのシチューよ。それに、お客様もみえてるの」
「へえ……」
食堂に入っていったエドさんは、そのお客様を見て、口をあんぐり開けました。
「違うよ。こいつは新しい家族の一員さ」
小鉢の前でお行儀よくしているのは、あのグレムリンに間違いありませんでした。
「便利屋さあん、頼みましたよお!」
エドさんは、ステンドグラスなんかを発明したやつはいったいどんなやつなんだろうと思いながら、教会のてっぺんに立ちました。
エドさんがなにを思おうと、便利屋として仕事を請け負ってしまったからには、やり遂げなくてはいけません。腰に命綱を巻いて固定し、エドさんは、深く息を吸いました。
下を見下ろすと、童話に出てくる小人のように小さくなった司祭さんが、こちらを見上げています。心なしか、心配そうな表情にも……。エドさんは奥歯を噛んで、依頼を思い出していました。
「いつもは専門の職人にまかせているのですが、あいにくと病気だとかで。あなたが便利屋をこの村で開いたのも、神の深いおもんばかりでありましょう」
司祭さんはそういっていました。
「で、そのステンドグラスの汚れとやらは、どこについているんですか?」
「尖塔のてっぺん付近です。聖人の顔に当たる場所に、なにかがべったりと。これでは主教さまをお迎えするのに面目が立ちません」
ということで、エドさんはそのなにかをふき取るために、ひとつ間違えばまっ逆さま、という危険な仕事に臨んでいるのでした。
遠くから見るとわかりませんでしたが、その汚れは、しっかりと形を持っていました。
「鳥かなにかの巣みたいだな。取り壊すのはかわいそうだけど……依頼を受けてしまった以上は、取り払わないといけないからなあ。でも、これ、いったいなんの巣だろう?」
エドさんは、中に卵が入っていないことを祈りながら、そばまで降りて行き、ひょいと中を覗き込みました。
見知った顔がそこにありました。
「あっ! お前は!」
その驚きが伝わったのでしょうか、下から、司祭さんの大きな声が聞こえてきました。
「便利屋さあん、いったいなにが見つかったんですかあ? 危険なものですかあ?」
危険というかなんというか。。
巣の中でエドさんと目を合わせていたのは、かつて、ガレージで不凍液をなめでいた、あの醜い妖精、グレムリンだったからです。
「いい子だから」
エドさんはこわばった声でいいました。
「ここから出て行ったほうがいいぞ。なにせ、ここは、神様に祈りを捧げる場所だ。そんなところに巣を構えたら、ばちが当たるぞ」
グレムリンは、理解しているのかいないのかよくわからない顔をしていました。
エドさんは、巣をグレムリンごと叩き落とそうかどうしようか、迷いました。相手は翼が生えているものの、巣を壊されたら怒るでしょう。そうでなくとも、もしここでエドさんにかみつきでもしたら、最悪の場合、下の地面にまっ逆さまです。それに、なんとなくですが、このグレムリン、それほど悪さをするようなやつとも思えないのです。
エドさんは、ポケットを探りました。いろいろな経験から、ポケットには常に飴玉をひとつ忍ばせてあるのです。
エドさんは、片手で器用に包み紙を開けると、グレムリンに差し出しました。
「こんなところにいても、みんなから嫌われるだけだぞ。どうだい、一緒にうちに来ないか? 悪ささえしなければ、追い出したりしないと約束するよ」
グレムリンは、申し出を理解したのか、その手の中の飴玉をしっかりとその小さな手で抱くと、エドさんの肩にとまりました。
「よし、いい子だ。じゃ、すまないが、こちらは処分させてもらうよ」
エドさんがへらと雑巾を使って、その巣を壁から削り落としたときです。
「あっ……」
ふいに肩からグレムリンが飛び立ちました。エドさんはなすすべもなく、どこか遠くへと飛び去っていくグレムリンを見送るしかありませんでした。
ステンドグラス拭きの仕事を終え、子供たちにチェスを教えたエドさんが自宅へと帰ると、食堂からはいいにおいがしていました。
「お帰りなさい、あなた。今日はあなたの好きな、きのこのシチューよ。それに、お客様もみえてるの」
「へえ……」
食堂に入っていったエドさんは、そのお客様を見て、口をあんぐり開けました。
「違うよ。こいつは新しい家族の一員さ」
小鉢の前でお行儀よくしているのは、あのグレムリンに間違いありませんでした。
- 関連記事
-
- エドさんと緑の森の家・5月13日
- エドさんと緑の森の家・5月6日
- エドさんと緑の森の家・4月29日
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[児童文学・童話・絵本]
~ Comment ~
日曜日はエドさんの日♪
家族が増えましたね~~^^
なにか。。。やらかしてくれそう^^
お行儀のいいグレムリンが、何だか凄く可愛い^^
ホント、エドさんは話が広がっていくいい物語です。
イラストをつけて、童話として売れると思うんですけど。
子供への読み聞かせでもいい、素敵な物語ですよね。
なにか。。。やらかしてくれそう^^
お行儀のいいグレムリンが、何だか凄く可愛い^^
ホント、エドさんは話が広がっていくいい物語です。
イラストをつけて、童話として売れると思うんですけど。
子供への読み聞かせでもいい、素敵な物語ですよね。
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: YUKAさん
うむむ(^^;)
なんとか無事、落ち着くところに落ち着けてあげたいであります。