「ショートショート」
ファンタジー
コインランドリー
ぼくがいつものようにコインランドリーで洗濯機が止まるのを待っていると、自動ドアが開いて一人の若い娘が入ってきた。
「あら」
「失礼。終わったらすぐどきますので」
娘は笑った。
「別に、洗濯をするのに、どいてもらう必要もないですよ」
それもそうだ。
「ここを使うのは、初めてですか?」
「ええ。これまで気がつかなかったんです。家の洗濯機が故障するまでは、気がつかないものですね」
ぼくも笑った。
笑いながらも、ぼくは心の奥でつぶやいていた。
『逃しちゃいけない……』
でも、それにしても。愛らしい娘だ。ぼくみたいな運命を背負わせるには気の毒すぎる。
『しかし、この機会を逃したら』
ぼくは心を鬼にした。
「家は近いんですか?」
彼女は、ふっと目を伏せた。
「近いですけど、ちょっと帰りたくないんです、しばらく」
ますます好都合だ。
「じゃ、少しばかり、ジュースを買って来る間……」
ぼくはいいよどんだ。なぜだ。なぜ、ぼくは『ここで洗濯物を見ていてください』という簡単な台詞がいえないんだ。
代わりにぼくの口から漏れていたのは、自由になりたければ絶対にいうべきではない言葉だった。
「逃げるんだ」
いきなり真顔になったぼくに、彼女はきょとんとした表情を見せた。
「ここは危険だ。命が危ない、いや、死んだ後でも地獄の責め苦を受けることになる」
ぼくはとどめの一言をいった。
「ぼくは、誰か、君のような人の命を奪ってこの呪われた運命を押しつけないかぎり、この地から離れられず成仏もできない、地縛霊なんだ」
彼女は、顔色ひとつ変えなかった。霊体であるはずのぼくの手を取り、そっと自分の胸に当てた。
「君……君は」
「わたしも家に帰れないの。けさ、死んだばかりで、ふらふらとこのコインランドリーへ……」
ぼくは言葉も出なかった。
「ね。いっしょに、ここを出ましょう。ひとりでは無理でも、ふたりなら……」
ぼくと彼女は、しっかりと手を握りあった。
それで?
どうなったかって?
それはご想像にお任せするが、今では、あのコインランドリーは、誰がいい出したのか知らないが、縁結びに霊験あらたかだとかで、中高生やOLなどでいつもいっぱいだそうだ。
まあ、今のぼくたちにはどうでもいい話だけどね。
「あら」
「失礼。終わったらすぐどきますので」
娘は笑った。
「別に、洗濯をするのに、どいてもらう必要もないですよ」
それもそうだ。
「ここを使うのは、初めてですか?」
「ええ。これまで気がつかなかったんです。家の洗濯機が故障するまでは、気がつかないものですね」
ぼくも笑った。
笑いながらも、ぼくは心の奥でつぶやいていた。
『逃しちゃいけない……』
でも、それにしても。愛らしい娘だ。ぼくみたいな運命を背負わせるには気の毒すぎる。
『しかし、この機会を逃したら』
ぼくは心を鬼にした。
「家は近いんですか?」
彼女は、ふっと目を伏せた。
「近いですけど、ちょっと帰りたくないんです、しばらく」
ますます好都合だ。
「じゃ、少しばかり、ジュースを買って来る間……」
ぼくはいいよどんだ。なぜだ。なぜ、ぼくは『ここで洗濯物を見ていてください』という簡単な台詞がいえないんだ。
代わりにぼくの口から漏れていたのは、自由になりたければ絶対にいうべきではない言葉だった。
「逃げるんだ」
いきなり真顔になったぼくに、彼女はきょとんとした表情を見せた。
「ここは危険だ。命が危ない、いや、死んだ後でも地獄の責め苦を受けることになる」
ぼくはとどめの一言をいった。
「ぼくは、誰か、君のような人の命を奪ってこの呪われた運命を押しつけないかぎり、この地から離れられず成仏もできない、地縛霊なんだ」
彼女は、顔色ひとつ変えなかった。霊体であるはずのぼくの手を取り、そっと自分の胸に当てた。
「君……君は」
「わたしも家に帰れないの。けさ、死んだばかりで、ふらふらとこのコインランドリーへ……」
ぼくは言葉も出なかった。
「ね。いっしょに、ここを出ましょう。ひとりでは無理でも、ふたりなら……」
ぼくと彼女は、しっかりと手を握りあった。
それで?
どうなったかって?
それはご想像にお任せするが、今では、あのコインランドリーは、誰がいい出したのか知らないが、縁結びに霊験あらたかだとかで、中高生やOLなどでいつもいっぱいだそうだ。
まあ、今のぼくたちにはどうでもいい話だけどね。
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Re: limeさん
最初は、背筋が凍りつくようなホラーにしようと思って書き始めたのですが、途中で、これラブロマンスもいけるんじゃないかと方針転換。
結局完成したものは、ホラーにしては怖くないし、恋愛にするとオチがバレてしまうしで、苦渋の決断の末ファンタジーに落ち着きましたとさ。どっとはらい。
結局完成したものは、ホラーにしては怖くないし、恋愛にするとオチがバレてしまうしで、苦渋の決断の末ファンタジーに落ち着きましたとさ。どっとはらい。
- #7980 ポール・ブリッツ
- URL
- 2012.05/10 16:29
- ▲EntryTop
むむむ。いい話。
一瞬、ホラーかと思いきや。
これはファンタジーっぽいけど、実はかわいい恋物語であるような気がします。
一瞬、ホラーかと思いきや。
これはファンタジーっぽいけど、実はかわいい恋物語であるような気がします。
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Re: ダメ子さん