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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・5月13日

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    「なんと呼んであげたらいいのかしら」

     首をひねるクロエさんの横で、エドさんも同じように首をひねりました。その視線の間では、小さな醜い妖精が、温められた牛乳をおいしそうに飲んでいるのでした。

    「うーん、困った。わたしには、『グレムリン』以外のぴったりした呼び名が思いつかない。そもそもこいつは、男なのか女なのか」

    「だめよ、あなた。きちんと名前を考えてあげなくちゃ、この子もかわいそうよ。『グレムリン』だなんて呼ばれ続けたら、この子の成長によくないわ」

    「成長ねえ。うーん」

     エドさんは、腕を組みました。腕を組んで時計を見上げ……。

    「いけない。小学校で子供たちにチェスを教えなくちゃ。遅刻なんかしたら、代用教員を首になってしまうかもしれない」

    「あら、ほんと! あなた、がんばってきてね。名前は、わたしが考えておくわ」

     愛妻に見送られ、エドさんは自転車に飛び乗りました。小学校はすぐそこです。



    「えーと、チェスは、ルールさえ覚えれば、世界中誰とでも楽しめるゲームです。マナーを守って楽しくやりましょう。それじゃ、第一回『緑の森小学校・チェストーナメント』はじめ」

     対戦相手はいつも見慣れた面々とはいえ、実際に栄誉と賞品……とはいっても、金色のラッカーを吹き付けた、プラスチックのチェスのキング一個ですが……をめぐっての真剣勝負です。小学生たちはそれぞれ、まじめな表情で駒を取りました。

     エドさんは、いんちきや不正を働く子供がいないか見て回る役です。

    『それにしても、よくもこれだけ、チェスクロック(持ち時間を記録するための専用の時計です)を揃えたものだ。うーん、あの校長、子供の教育とかいう難しい問題からわたしを代用教員にしたのではなく、単にチェスが大好きなだけなんじゃないのかなあ』

    「せんせーい!」

     眼鏡をかけた男の子が手を挙げました。どこか困惑している表情です。

    「このチェスクロック、おかしいです! 変な動きをします!」

     エドさんは急いで駆けつけ、文字盤を見ました。たしかに、まだ五分も経っていないのに、持ち時間を十五分も使っていることになっています。

    「ぼくのも!」

    「あたしのも!」

     生徒たちは、わいわいと騒ぎ出しました。こうなると、もうチェスどころではありません。なぜなんだ? どうしてクロックがこんなに故障するんだ? エドさんは、悪い予感を覚え、教室の上のほうを隅から隅まで眺め回しました。思ったとおりでした。

    「こらっ!」

     エドさんのひとことで、チェスクロックを故障させた張本人……いや、張本妖精とでもいうのでしょうか……である、件のグレムリンがエドさんのもとへ、ふわふわと舞い降りてきました。自動車や飛行機のエンジンを故障させてしまうグレムリンには、チェスクロックを故障させることなど朝飯前でしょう。

     生徒たちは目を丸くしました。

    「先生、それ、なんですか?」

    「ああ、これは、グレ……」

     エドさんの声は、尻すぼまりになりました。教室にグレムリンを連れてきたなんてことがもしわかったら、子供たちにチェスを教えるどころでは……。

    「先生、この子、グレっていうんですか?」

    「グレじゃないわよ! きっと、グレンよ」

    「いや、ぼく、外国の映画で、グレっていう人が出てきたのを見たことあるよ!」

     わいわいがやがや。みんな、席を立ち、エドさんと妖精の周りに集まってきました。

     エドさんは覚悟を決めました。

    「よし、この中で、いちばん静かにお行儀よくチェスをしていた子には、このグレンとたっぷり遊ばせてあげよう!」

     生徒たちは机に向かうと、みんな、静かに真剣に、チェスを始めました。これでは、誰をいちばんにしていいかわかりませんね。

     夕闇が迫る中、いつもより遅く、へとへとになって帰ってきたエドさんを出迎えて、クロエさんはいいました。

    「あなた、あの子がどこか遊びに行っている間、絵を描いていたら、いい名前がひらめいたの。グレンっていうの。いいでしょう?」

    「うん。知ってる。よく知ってるよ……」

     クロエさんはきょとんとしました。

    「いや、実はね」

     夕食の席でエドさんは一部始終を語り、クロエさんは笑い、夜はふけていきました。


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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    このグレンが重要な意味を担う話のアイデアはすでにできていますが、それまでは単なる「お邪魔虫」ですね。少なくとも秋まではそのエピソードは出てきませんが。

    今度の日曜日までにわたしはどんな話を書けばいいんだ! 原稿真っ白! わーい!(^^;)

    おはようございます^^

    名前が決まりましたね^^
    これで正式に家族の一員^^

    なにかと悪戯してくれそうで
    いつかいいこともしてくれそうで楽しみです^^

    今頃大坂でしょうか?^^
    楽しんでくださいね~~^^
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