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    「ショートショート」
    ホラー

    脱獄者

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     おれは名前と記憶を奪われ、この地下牢に投獄されている。周囲のほとんどすべては堅い岩盤だ。食事が差し入れられ、おれが糞尿を返す小さな穴が、唯一の外との出入り口だ。

     おれが脱獄を決意してからかなり経つ。都合のいいことに、この完全な、いわば生きたままの埋葬状態に満足したのか、監視らしい行為はいっさいなされていないらしいのだ。

     おれは食器を使い、岩盤から小さな小石を剥ぎ取った。その石は、もろい砂岩の中に埋まっていたのだ。

     それ以来、おれは小石を尖らせて、この砂岩の壁に穴を穿とうとしているのだ。

     砂岩のかけらは、少しずつ糞便に混ぜて棄てた。

     しかし、砂岩の壁は厚かった。それか、おれが幽閉されている牢獄は、あまりにも地の底深かったか、どちらかだ。

     だが、ここでやめるわけにはいかない。おれは壁に穴を穿ち、必死でトンネルを掘り続けた。

     ときにふと、おれは思うことがある。この無益な脱獄行為、それ自体がおれに科された罰ではないのか?

     またおれは別な声を聞くこともある。この行為はおれに対する報償なのだ。おれに与えられた、これ以上ない生きがいなのだ、と。

     いずれにしても、これがおれにとってひとつの宗教的行為になってしまっていることは事実だ。

     いざ、穴を掘り抜いて、陽光を浴びたとき、おれはそのとき生きていることを望むだろうか?

     もしかしたらそれが罰なのかもしれない。

     煉獄があるなら、それはたぶん、地獄よりも恐ろしいのではないか?
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    それでも彼は掘るよりほかにないのです。

    それが人生なのです。
    • #8188 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/31 19:38 
    •  ▲EntryTop 

    こんなこと考えてしまった以上
    今までのようにして夢中で掘ることはもうできなさそう…

    Re: 山西 左紀さん

    よく考えたら、わたしの小説のこのテーマ、荒木飛呂彦先生が「死刑執行中 脱獄実行中」でもっとショッキングにわかりやすくしかも面白く描いておられたな……。

    修行します(汗)

    Re: limeさん

    お会いできるかと思って正装して行ったのに(笑)。

    大阪は楽しかったです。東京とは違った意味での生命力を感じました。

    それになにげない飯屋の一軒一軒がうまそうで(^p^)

    いつの日かまた行くからね~。今度は新幹線を使えるような身分になりたいであります。

    Re: 土屋マルさん

    うーむ、ホラーに入れるべきだったか。カテ変えときます(^^;)

    書いた側としては、「人間の人生」の比喩のつもりだったのですが。

    こんな話ばかり書いているから精神衛生に悪いのか(笑)

     

    同じく恐いです。
     狭い岩の隙間を必死に進んでいる。割れ目の先には光が見えている。もう少し、もう少し体を隙間に押し込んで少しづつ前進。と、その時、ドスンと地盤が落ちて真っ暗になる。体が動かない。ウワーッという漫画をどこかで見たのを思い出しました。胃のあたりがグゥッとなります。

    そういえば、私がちょいと心を病んでいた時期、一番辛かったのは「自分がやっていることが全て無意味」に感じた時だったような・・・。
    これは、恐い罰ですねえ。
    煉獄に連れて行かれても苦しまないように、生活を改めなければ・・・(なにをやらかした?)

    大阪、どうでしたか?
    結局お邪魔することはできなかったんですが><残念。
    またお話聞かせてください。

    一番乗り!

    ポールさん、何コレ、怖いっ・゚・(つД`)・゚・
    何だか無性に怖いですっ(汗)

    自分の名前も記憶も奪われて、外界に待つものさえも不確かだから、脱獄という行為そのものにリアルな意味を見出せないのかな、と少し思いました。
    生きるために(外に出るために)穴を掘る‥‥。
    それ自体が目的、ということ?
    だとしたら、この"おれ"にとって、「生きる」とは何なのだろうorz
    そう思うと、とても怖いです><
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