「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)
エドさんと緑の森の家・5月20日
エドさんは壁を這うパイプの一本を取り外し、もう一本のパイプと差し替えました。
「水を流してくれませんか、ライアルさん」
エドさんはバルブをひねりました。家の中から水の流れる音がして、ライアルさんの声が聞こえました。
「順調に流れてるよ! ありがとう!」
エドさんはほほ笑むと額をぬぐいました。
「それはいいとして……この醜いこいつは、なにものなんだい?」
エドさんは肩をすくめました。
「うちの店のマスコットです」
「マスコットねえ」
戸口に回ったエドさんは、お金をもらうと、そのマスコットの頭をなでました。
「慣れればかわいいものですよ。なあ、グレン!」
グレン、すなわちグレムリンの……子供、なのでしょうか、大人、なのでしょうか……は小さな牙をむき出して笑顔のようなものを作りました。ライアルさんはちょっとばかり、後ずさりしました。
「わかったよ。はい、お金。なあ、便利屋、そいつ、悪魔なんじゃ……ないのか?」
エドさんは首を振りました。
「悪魔にも知り合いはいますけどね、そいつらに比べたらこの子なんか、天使ですよ」
ライアルさんはまた一歩、わずかに後ずさりしました。
「悪魔に、知り合い……?」
「国税局に通信販売会社のことですよ」
「ああ、ああ、なんだ、びっくりした」
「じゃ、わたしはこれで」
エドさんはグレムリンを肩に止まらせると、自転車のペダルをこぎ始めました。
「お前も、なにかの形で受け入れてもらえればねえ……」
エドさんは肩のグレムリンに語りかけるようにつぶやきました。
「なにしろ、お前がそばにいると、ラジオは雑音を出すし、パソコンはフリーズするし、ほんとみんなに、迷惑をかけっぱなしだからなあ。まあ、こればっかりは、体質だからしかたもないしなあ」
エドさんが進んでいくと、銀行のほうから子供たちがわらわらと駆けてきました。
「遊んでくれるのは子供たちだけか」
と思ったら、なにか様子が変です。
「便利屋さん! 探偵さん! たいへんです! キャサリンが、キャサリンが!」
「え?」
エドさんは自転車を止めて、子供たちの話を聞きました。
「銀行強盗なんです」
「拳銃を持ってるんです」
「キャサリンが人質になってるんです」
「お巡りさんも手が出せません」
「先生ならきっと」
きっと、なんていわれても、もとよりエドさんに腕力はありません。それに、拳銃を持つ相手と、素手で戦うのは無理です。
そのとき、肩からグレンが飛び立ちました。銀行のほうへ羽ばたいていきます。
「おい、やめろ、グレン! グレンーっ!」
エドさんは必死に後を追いかけました。
銀行の前では、野次馬たちの視線の中、ジム署長率いる警官たちと強盗犯がにらみ合っていました。強盗犯につかまっているのは、キャサリンに間違いありません。エドさんが代用教員をやっている小学校の生徒です。
グレンは、その強盗犯に向かって、ぱたぱたと飛んでいきました。
強盗犯は、蝿でも追うように銃を持った手でグレンを追い払おうとしましたが、グレンは付きまとって離れません。やがてしびれを切らした強盗犯が拳銃の引き金を……。
「グレンーっ!」
エドさんは目を覆いました。
がちゃり。
みんなの耳に、その、拳銃が故障したときの音は届きました。エドさんはチェスクロックが故障したときのことを思い出しました。警官たちは、銃を失った強盗犯を、たちどころに取り押さえました。
エドさんはようやくグレンをつかまえると、しっかりと抱きしめました。
「この英雄はなんなのだね?」
「グレンです。うちの家族の一員です」
ジム署長は重々しくうなずきました。
「それならば、報告書から、このへんてこな生き物のことは削っておこう。テレビ局も来る前だったし、解決は警察の機敏な行動によるとした方が平和のためにはいいだろう」
エドさんは深く頭を下げました。
それからというもの、グレンは一躍、村の人気者になりました。とはいえ、カメラというカメラを故障させてしまうので、いまだに写真は一枚もないんですけどね。
「水を流してくれませんか、ライアルさん」
エドさんはバルブをひねりました。家の中から水の流れる音がして、ライアルさんの声が聞こえました。
「順調に流れてるよ! ありがとう!」
エドさんはほほ笑むと額をぬぐいました。
「それはいいとして……この醜いこいつは、なにものなんだい?」
エドさんは肩をすくめました。
「うちの店のマスコットです」
「マスコットねえ」
戸口に回ったエドさんは、お金をもらうと、そのマスコットの頭をなでました。
「慣れればかわいいものですよ。なあ、グレン!」
グレン、すなわちグレムリンの……子供、なのでしょうか、大人、なのでしょうか……は小さな牙をむき出して笑顔のようなものを作りました。ライアルさんはちょっとばかり、後ずさりしました。
「わかったよ。はい、お金。なあ、便利屋、そいつ、悪魔なんじゃ……ないのか?」
エドさんは首を振りました。
「悪魔にも知り合いはいますけどね、そいつらに比べたらこの子なんか、天使ですよ」
ライアルさんはまた一歩、わずかに後ずさりしました。
「悪魔に、知り合い……?」
「国税局に通信販売会社のことですよ」
「ああ、ああ、なんだ、びっくりした」
「じゃ、わたしはこれで」
エドさんはグレムリンを肩に止まらせると、自転車のペダルをこぎ始めました。
「お前も、なにかの形で受け入れてもらえればねえ……」
エドさんは肩のグレムリンに語りかけるようにつぶやきました。
「なにしろ、お前がそばにいると、ラジオは雑音を出すし、パソコンはフリーズするし、ほんとみんなに、迷惑をかけっぱなしだからなあ。まあ、こればっかりは、体質だからしかたもないしなあ」
エドさんが進んでいくと、銀行のほうから子供たちがわらわらと駆けてきました。
「遊んでくれるのは子供たちだけか」
と思ったら、なにか様子が変です。
「便利屋さん! 探偵さん! たいへんです! キャサリンが、キャサリンが!」
「え?」
エドさんは自転車を止めて、子供たちの話を聞きました。
「銀行強盗なんです」
「拳銃を持ってるんです」
「キャサリンが人質になってるんです」
「お巡りさんも手が出せません」
「先生ならきっと」
きっと、なんていわれても、もとよりエドさんに腕力はありません。それに、拳銃を持つ相手と、素手で戦うのは無理です。
そのとき、肩からグレンが飛び立ちました。銀行のほうへ羽ばたいていきます。
「おい、やめろ、グレン! グレンーっ!」
エドさんは必死に後を追いかけました。
銀行の前では、野次馬たちの視線の中、ジム署長率いる警官たちと強盗犯がにらみ合っていました。強盗犯につかまっているのは、キャサリンに間違いありません。エドさんが代用教員をやっている小学校の生徒です。
グレンは、その強盗犯に向かって、ぱたぱたと飛んでいきました。
強盗犯は、蝿でも追うように銃を持った手でグレンを追い払おうとしましたが、グレンは付きまとって離れません。やがてしびれを切らした強盗犯が拳銃の引き金を……。
「グレンーっ!」
エドさんは目を覆いました。
がちゃり。
みんなの耳に、その、拳銃が故障したときの音は届きました。エドさんはチェスクロックが故障したときのことを思い出しました。警官たちは、銃を失った強盗犯を、たちどころに取り押さえました。
エドさんはようやくグレンをつかまえると、しっかりと抱きしめました。
「この英雄はなんなのだね?」
「グレンです。うちの家族の一員です」
ジム署長は重々しくうなずきました。
「それならば、報告書から、このへんてこな生き物のことは削っておこう。テレビ局も来る前だったし、解決は警察の機敏な行動によるとした方が平和のためにはいいだろう」
エドさんは深く頭を下げました。
それからというもの、グレンは一躍、村の人気者になりました。とはいえ、カメラというカメラを故障させてしまうので、いまだに写真は一枚もないんですけどね。
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Re: 山西 左紀さん
グレンは醜い小妖精ですが、その基本的行動パターンは「ガッちゃん」(by Dr.スランプ)ですので、そのつもりで見守っていただければ幸いです。
というより、今その行動の類似性に気づいた。(^^;)
するとこの村はペンギン村か?(違)
というより、今その行動の類似性に気づいた。(^^;)
するとこの村はペンギン村か?(違)
Re: YUKAさん
ほんとうはこの能力、もっと後で使うはずだったのですが……。
まあ、このくらいの予定変更は想定のうちであります。
……ほんとに?(^^;A
まあ、このくらいの予定変更は想定のうちであります。
……ほんとに?(^^;A
物語の始めから読むつもりでいたのですが、
更新のたびについ最新話を読んでしまいます。
物語の雰囲気も好きですが、
グレン、とっても好いです。
更新のたびについ最新話を読んでしまいます。
物語の雰囲気も好きですが、
グレン、とっても好いです。
おはようございます^^
さすが――!!更新されてる(笑)
グレン、受け入れられて良かった~
彼の能力が役に立ちましたね!^^
なんだか、正式に村の仲間入りで嬉しい^^
グレン、受け入れられて良かった~
彼の能力が役に立ちましたね!^^
なんだか、正式に村の仲間入りで嬉しい^^
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Re: 椿さん
どうぞ続きを(^^)