「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)
エドさんと緑の森の家・5月27日
「あの、わたし、どうすればいいんですか」
村中のものが見物する中、舞台にひっぱり上げられて居心地が悪そうなエドさんに、目隠しをした奇術師はいいました。
「あなたにはこれらのカードの中から一枚を選んでいただきます」
でかでかと書かれた『心理的トリックにあなたも挑戦!』という看板の下で、エドさんは1から4まで書かれたカードをにらみました。一枚を選ぼうとしたところで、奇術師から声がかかりました。
「なにを選んでもかまいませんよ。2だろうと、なんだろうと」
エドさんは手をひっこめ、時間をかけて、「3」のカードを選びました。
「はい。そうしたら、そのカードをみなさんにわかるように見せ、また元に戻し、カードの順番がばらばらになるように混ぜてくださいね。さっきも試したように、この目隠しは、かけるとなんにも見えません。さて、目隠しを外して、と。エドさん、あなたの選んだカードは……これですね!」
奇術師は「3」のカードを取り上げ、見物人は大喜びで手を叩き、口笛を吹きました。
それを制した奇術師は、わかりやすい口調で説明を始めました。
「これが、われわれ奇術師の中では、フォース、と呼ばれるテクニックです。ふつう、人間は、1から4のカードから一枚を選べといわれると、1と4のカードは選ばないものです。ですから、選ぶカードは2か3ということになります。でもここで、わたしが『2でもなんでもいいですよ』と声をかけたので、2のカードを選ぼうという気があったとしても、判断を変えてしまうもので……どうしました、エドさん?」
エドさんはしばらくの間、なにか考えるように眉根を寄せていましたが、奇術師に向かっていいました。
「でもそれでは、百パーセント成功するということはないですね。その目隠しは本物としても、そういったフォースだけでは、失敗の可能性がある。つまり、フォースはこの場合、囮なんだ。よく考えてみれば、もっと楽な方法がある。この客たちの誰か一人を、サクラ、すなわち、奇術師の仲間にすることだ。ここでやっている『心理的トリック』とは、そうやって、一面的な考えの隙を突くことではないんですか? とすると、サクラは意外な人物であればあるほどいいから……例えば、わたしの妻なんかどうだろう?」
呆然とした顔で、観客席のクロエさんが立ち上がりました。
「……どうしてわかったの?」
エドさんは頭を指でつつきました。
「これさえうまく使えれば、たいていのことはわかるものさ。それにしても、油断も隙もないなあ」
「カット!」
監督席に座っていたディレクターがそう叫ぶと、クロエさんもエドさんも、奇術師も、観衆も、みんなほっと力を抜いて笑い出しました。
「すみません、こんな名探偵の役をやらせてもらって」
「いえ、この番組をやるうえでは、あなたのような、見るからに善人という人が必要なんですよ。それにしても、いい演技でしたよ」
「なにせ四分の三は生まれつきなもので」
「あなた、わたしのシナリオどこにやったか知らない?」
「きみとわたしの出番はこれで終わりだよ。ああ、疲れた」
エドさんは、クロエさんと一緒に額の汗をぬぐいました。
……と、いう番組が撮られたときの一部始終を、わたしは甘い紅茶を飲みながら聞かされました。
これをわたしに話してくれたのは、村でいちばんの猟師だとも、いちばんの大ぼら吹きだともいわれているスマイルズさんです。
わたしは、ほとほと困ってしまいました。この話、いったいどこからどこまでがほんとうなのでしょう。そもそも、わたしたちが、ほんとうのことをほんとうだと信じる、とは、どういうことなのでしょう。このことを考え出すと、頭がぐるんぐるんしてきて、わたしはわけがわからなくなってしまうのです。
エドさんが帰ってきてから聞けばいいのかも知れませんが、エドさんが話したからといって、それがほんとうのことであると、どうやって確かめればいいのでしょうか?
わたしはこの文章を書きながらも、目隠しをして真っ暗闇のなかを歩いているような気がしてしかたがないのです。
ところで、みなさん。
いかがでしたか? わたしの演技は……。
村中のものが見物する中、舞台にひっぱり上げられて居心地が悪そうなエドさんに、目隠しをした奇術師はいいました。
「あなたにはこれらのカードの中から一枚を選んでいただきます」
でかでかと書かれた『心理的トリックにあなたも挑戦!』という看板の下で、エドさんは1から4まで書かれたカードをにらみました。一枚を選ぼうとしたところで、奇術師から声がかかりました。
「なにを選んでもかまいませんよ。2だろうと、なんだろうと」
エドさんは手をひっこめ、時間をかけて、「3」のカードを選びました。
「はい。そうしたら、そのカードをみなさんにわかるように見せ、また元に戻し、カードの順番がばらばらになるように混ぜてくださいね。さっきも試したように、この目隠しは、かけるとなんにも見えません。さて、目隠しを外して、と。エドさん、あなたの選んだカードは……これですね!」
奇術師は「3」のカードを取り上げ、見物人は大喜びで手を叩き、口笛を吹きました。
それを制した奇術師は、わかりやすい口調で説明を始めました。
「これが、われわれ奇術師の中では、フォース、と呼ばれるテクニックです。ふつう、人間は、1から4のカードから一枚を選べといわれると、1と4のカードは選ばないものです。ですから、選ぶカードは2か3ということになります。でもここで、わたしが『2でもなんでもいいですよ』と声をかけたので、2のカードを選ぼうという気があったとしても、判断を変えてしまうもので……どうしました、エドさん?」
エドさんはしばらくの間、なにか考えるように眉根を寄せていましたが、奇術師に向かっていいました。
「でもそれでは、百パーセント成功するということはないですね。その目隠しは本物としても、そういったフォースだけでは、失敗の可能性がある。つまり、フォースはこの場合、囮なんだ。よく考えてみれば、もっと楽な方法がある。この客たちの誰か一人を、サクラ、すなわち、奇術師の仲間にすることだ。ここでやっている『心理的トリック』とは、そうやって、一面的な考えの隙を突くことではないんですか? とすると、サクラは意外な人物であればあるほどいいから……例えば、わたしの妻なんかどうだろう?」
呆然とした顔で、観客席のクロエさんが立ち上がりました。
「……どうしてわかったの?」
エドさんは頭を指でつつきました。
「これさえうまく使えれば、たいていのことはわかるものさ。それにしても、油断も隙もないなあ」
「カット!」
監督席に座っていたディレクターがそう叫ぶと、クロエさんもエドさんも、奇術師も、観衆も、みんなほっと力を抜いて笑い出しました。
「すみません、こんな名探偵の役をやらせてもらって」
「いえ、この番組をやるうえでは、あなたのような、見るからに善人という人が必要なんですよ。それにしても、いい演技でしたよ」
「なにせ四分の三は生まれつきなもので」
「あなた、わたしのシナリオどこにやったか知らない?」
「きみとわたしの出番はこれで終わりだよ。ああ、疲れた」
エドさんは、クロエさんと一緒に額の汗をぬぐいました。
……と、いう番組が撮られたときの一部始終を、わたしは甘い紅茶を飲みながら聞かされました。
これをわたしに話してくれたのは、村でいちばんの猟師だとも、いちばんの大ぼら吹きだともいわれているスマイルズさんです。
わたしは、ほとほと困ってしまいました。この話、いったいどこからどこまでがほんとうなのでしょう。そもそも、わたしたちが、ほんとうのことをほんとうだと信じる、とは、どういうことなのでしょう。このことを考え出すと、頭がぐるんぐるんしてきて、わたしはわけがわからなくなってしまうのです。
エドさんが帰ってきてから聞けばいいのかも知れませんが、エドさんが話したからといって、それがほんとうのことであると、どうやって確かめればいいのでしょうか?
わたしはこの文章を書きながらも、目隠しをして真っ暗闇のなかを歩いているような気がしてしかたがないのです。
ところで、みなさん。
いかがでしたか? わたしの演技は……。
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~ Comment ~
んん? わたし? とりあえず、この文章を書いているあなたで、
わたしの演技? うーん、文章自体が演技?
良い演技でしたとも^^
わたしの演技? うーん、文章自体が演技?
良い演技でしたとも^^
- #11027 けい
- URL
- 2013.08/11 20:00
- ▲EntryTop
Re: limeさん
誰なんでしょうねえ、「わたし」(^^)
あなたの魂はあなたの身体から離れて迷宮をさまようのです。
とカッコつけるほどのショートショートでもないですね。
頭にあったのは、バリー・マルツバーグというSF作家の怪作「アポロの彼方」と、映画の「名探偵登場」、それに、コリン・デクスターの一連の作品です。
趣味モロバレ(^^;)
あなたの魂はあなたの身体から離れて迷宮をさまようのです。
とカッコつけるほどのショートショートでもないですね。
頭にあったのは、バリー・マルツバーグというSF作家の怪作「アポロの彼方」と、映画の「名探偵登場」、それに、コリン・デクスターの一連の作品です。
趣味モロバレ(^^;)
うう、微熱のある時に読んだので、さらに煙に巻かれたような気がします。
この最後の「わたし」は・・・ええと・・・。
昔、サム・ロイドの本を片っ端から読んでたころは、もうちょっと頭が働いたのになあ。
風邪をひくたびに脳細胞がものすごい勢いで死滅してる気がします。
この最後の「わたし」は・・・ええと・・・。
昔、サム・ロイドの本を片っ端から読んでたころは、もうちょっと頭が働いたのになあ。
風邪をひくたびに脳細胞がものすごい勢いで死滅してる気がします。
Re: YUKAさん
今回の話は、原稿用紙5枚の中で、どれだけ「……と思ったら実はこうこうでした」ができるかへの挑戦みたいなものでした。
書いているほうは楽しかったけど、読んでくださるかたは……ごめん(^^;)
書いているほうは楽しかったけど、読んでくださるかたは……ごめん(^^;)
おはようございます^^
マジックかぁと思っていたら
あぁ、TV出演だったのね。
え?伝聞?
――えぇ???となりました(笑)
名演技ですね^^
あぁ、TV出演だったのね。
え?伝聞?
――えぇ???となりました(笑)
名演技ですね^^
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Re: けいさん
それなりにうまくいったと思うのですが、後でよく考えたらあの怪作映画「シベリア超特急」とどっこいどっこいのメインアイデアだと気づいて赤面したであります(^_^;)