「ショートショート」
    SF

    なにかが空を飛んでいく

     ←ぴゆうさんご復帰記念創作落語! →三十分のきつい運動の後に一杯の冷たいやつを
     なにかが空を飛んでいく。

     ぼくは、それがなにかを知っている。

     テレビをつけてみよう。

     なんとかいう博士が顔を紅潮させてしゃべっている。

    『あれはリンゴでした! リンゴが空を飛んでいたのです! 推測できる大きさは人間の身体くらいあります!』

     それに対し、なんとかいう教授が反論する。

    『なにをいっておる、あれはバケツだ。わたしが写真を撮ったからわかるだろうがな』

     そして教授は写真をばらばらとテーブルの上に並べる。写っているものは、間違いなく、バケツのシルエットだ。かなり歪んではいるが。

    『トリックだ! なぜなら、わたしも写真を撮ったからだ!』

     博士も写真を並べる。そこにあるのは、まぎれもなくリンゴのシルエット。

    『おふたかたとも、わが局では、最新のカメラで撮影をしましたが』

     写真が並べられた。

    『鳥だ』

    『飛行機だ』

    『わたしにはスーパーマンにしか見えない』

     学者もゲストのタレントも、ああだこうだとうるさい。

     ぼくはテレビを消す。

     あれがなんだか、ぼくは知っているからだ。

     あれは、ぼくの身体にくっついていた、いらない『意味』のかたまりだ。

     分節、というのを知っているだろうか。すなわち、犬がそこにいるから『イヌ』という言葉ができたのではなく、無数の『ネコではない』『アヒルではない』『人ではない』……という否定から、『イヌ』という言葉が分節されて出てきた、という考え方だ。

     それと同じだ。ぼくは、その無限無数の『……でない』という可能性を捨てて、この地球に住む『人類』の『男』となったのだから。

     捨てるものはまだまだたくさんある。これからぼくは、自分が『なにものか』ということを明確にするために、他の意味をことごとく捨て去るのだ。

     赤ん坊には無限の可能性がある、ということは、可能性を実現するまでは、事実上、なんの存在でもない、ということと同様だ。

     ぼくは、もとは人間以外のなにかだったが、それがなんであるかは忘れた。

     でも、きみたち人間もそれほど変わらないだろう?

     一日一日と生を重ねることは、「なになにである自分」を捨てていくということなのだから。

     ぼくはみるみるうちに『人類の男』になっていく。

     あの宇宙を飛んでいくものが、なんであるかはぼくにはもうわからない。

     それでいいのだ。その情報も、ぼくにとっては『邪魔』な存在なのだから。

     ここに書いたことだって、明日になれば、いや、あと十分もすれば、ぼくにとってはわけのわからないSF小説になっていることだろう。

     ぼくはそれが嬉しい。

     ぼくは、『生まれた』のだ。
    関連記事
    スポンサーサイト



     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【ぴゆうさんご復帰記念創作落語!】へ  【三十分のきつい運動の後に一杯の冷たいやつを】へ

    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    たぶん一年後に読み返すと、穴を掘って埋まりたくなるショートショートだろうな、これ……(^^;)
    • #8129 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/25 09:06 
    •  ▲EntryTop 

    おはようございます^^

    これはまた、哲学的なお話ですね~

    >赤ん坊には無限の可能性がある、ということは、可能性を実現するまでは、事実上、なんの存在でもない、ということと同様だ。

    この一説に、あぁなるほど!と共感してしまった自分がいます(笑)
    「……でない」というなにかを捨てて自己を確立していく。

    掴みとっていくことと、排除して残していくこと。
    なるほどなぁ~~

    と感心してしまった(笑)

    そして、SFカテゴリーこの時点で読破♪
    まだまだ、増えると思いますけど~~^^
    いつになったら、最新執筆に追いつくやら^^;;

    Re: レバニラさん

    「自分自身で決める」ことと、「自分自身で能動的に可能性を排除する」ことのどこが違うのかよくわからないのですが。

    例えば、定食屋でカツ丼を食べるかラーメンを食べるか悩む、ということは、その段階ですでに、「その時間にマクドナルドや帝国ホテルで食べる」可能性を排除していることになります。そしてカツ丼に決めて食べた瞬間、「その時間にその場所でラーメン(オムライス、カレー、その他)」を食べる可能性は切り捨てられます。当たり前の話ですが。

    こう見ると、歴史というものは「可能性の排除」の集合体であることがわかるでしょう。すなわち、「~をした」ということは、「~に矛盾する他の全ての可能性を排除した」ということだからであります。(わたしが支持する「決定論」という考えかたはもっと過激に、全てのものごとを「原因→結果」の網に組み込むものですが、これについて語り出すと長くなるのでやめます)

    もっともこの小説内では、「ひとりの人間の男」を作り出すために、「……は無生物ではない。……は植物ではない。……は無脊椎動物ではない……」から始まる分節を延々とやっているだけですが。ここらへんを微に入り細をうがって論争したのが「普遍論争」というやつですが、議論を追いかけるだけでわたしには荷が重すぎるので勘弁してください。

    レバニラさんのおっしゃりたいこともよくわかりますが、それは選択が「能動的」か「受動的」かの違いであり、可能性の否定とはまた別個の問題だと思います。

    • #8127 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/24 21:19 
    •  ▲EntryTop 

    Re: LandMさん

    空を飛んでいくものは、失われた「可能性」のかたまりなのかもしれません。

    厳密に定義するのは不可能でしょうなあ。あえていうなら、「人間ではないなにか」であります。
    • #8126 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/24 20:36 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ぴゆうさん

    しかし、それ以外に名前ってつけようがないですからねえ。

    先に見つけられたほうの勝ちですな。
    • #8125 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/24 20:28 
    •  ▲EntryTop 

    それは違うよポールさん。
    自分が何者であるかは自分と他人を比べて、可能性を捨てていく事じゃない、
    自分が何者であるかは自分自身で決める事だよ、

    自分が何者か誰にも分からないんなら、だったらもう思い切り自分で言ってやろうじゃないか。

    俺、実はキムタクなんですよ。

    空を何か飛んでいる。
    確かに何かは飛んでいるでしょうねえ・・・。
    何かを定義しようとするとのが人類の性ってものなんでしょうね。・・・ということは理解できました。

    何々モドキなんて名前がついた植物があるけど、あれって失礼だよね。
    真似てないって言いそうだ。
    犭だって不快だろうな。
    お前らこそ犭に人だろと言いそう。
    何かであるかって自らが認めてこそだとしたら、ややこしくなるなぁ。
    何かを持っていると思っていたのに、実はなんもないとか。
    書いていて何が言いたいのかもわからなくなった。
    あれまぁ!

    Re: ウゾさん

    文系なもので、「無限が収束する」だの「数列が振動する」だのといわれると頭がウニになる(笑)

    そのくせそういう話を分からないまま聞くのは大好きだから困ったもんです。

    昔から、教科書よりも雑学本のほうを好むタイプでして(^^;)

    だからドロップアウトしたのかなあ。

     おはよう御座います。
    無限って 限りなくでかくなる方と 限りなく小さくなる ゼロに近付く方があるが…
    数学の リミットの考え方は面白くて好きです。 

    Re: レルバルさん

    史上最強の宇宙戦艦は、といわれると、わたしは石原藤夫先生の「宇宙船オロモルフ号の冒険」に出てくる「オロモルフ号」だと答えます。

    面白いんですけど、読んでいてクラクラきます。全編数学ばっかり(^^;)

    Re: 矢端想さん

    きのうは夜の十時を回ってもネタがぜんぜん浮かばなかったので、大学生のころに買った現代思想の概説書をめくっていたら、この言葉が目について、大慌てで書きました。

    ネタがないと哲学に走る男、スパイダーマッ!

    戦艦じゃ……なかった……か……。

    なんだこれ? わっ、私の頭には難しすぎる・・・!

    「分節」って哲学の用語なんでしょうか。
    なんだか実体のない言葉遊びのような印象です。
    名を持っているモノはみな必ず複数の定義や属性を含んでいると思われ、無限からひとつずつ消していってもどこまでいっても1にはならない気がします・・・そもそも元々が「無限」であるならば・・・あっ、これってもしかして数学的レトリック!?

    わけわかんなくなってきたので、寝ます。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【ぴゆうさんご復帰記念創作落語!】へ
    • 【三十分のきつい運動の後に一杯の冷たいやつを】へ