「ショートショート」
その他
やめられない
「お父さん、煙草って、やめられないものなの?」
散歩の途中、息子にそういわれ、わたしは、どう答えればいいか迷った。
「いったん吸い始めたら、なかなかやめられないって聞いてるな」
「お父さんは、吸ったことないの?」
「まあね。お父さんは、煙草を買うお金があったら、そのかわりにおさ……お砂糖がたっぷり入ったジュースだのコーラだのを買うほうが好きだったんだ」
「ふうん」
息子はわたしをうさんくさそうに見た後、遠くに視線を移した。
「でも、どうしたんだい、急に、煙草だなんて」
「あのね、友達が、国語の時間に、詩を書いてね」
「それで」
「地球が、煙草をすぱすぱふかしてる、って、みんなの前で」
「地球が煙草を?」
「ほら。あんなふうに」
息子は遠くににょきにょきと立つ、煙突の群れを指差した。
わたしは苦い笑いを浮かべた。そういう『詩もどき』だったら、わたしも小学生のころ書いた。単なる擬人化で、教師がいい顔をするために書いたものにすぎない。ほんものの詩とは、もっと直截的で、もっと躍動的で、もっと生命の根源に発するなにかよくわからないパワーを秘めたものだ。だがそれがわかるためには、息子には長い時間が必要だろう。
「それで、お前はどう思ったんだい?」
「地球も、煙草をやめたほうがいいんじゃないのかな、って」
「ふうん。そうだね。そう考えるのも、いいかもしれないね」
わたしは息子の頭をぐしゃぐしゃとやった。
「でも、煙草をやめてしまったら……」
そこまでいってわたしは凍りついた。
煙草をやめてしまった地球は、いったいなにを代替物にするのだろう?
原子力。そういう、覚醒剤やヘロインのような、もっと危険な薬物に、地球は手を出してしまったのではないだろうか?
いや、地球が、ではない。人類が、だ。
「お父さん。どうしたの?」
「なんでもない。なんでもないんだ」
わたしは遥か彼方に見える、老朽化して取り壊しが決定されている旧式の火力発電所の煙突群を見ながら、そう繰り返すことしかできなかった……。
散歩の途中、息子にそういわれ、わたしは、どう答えればいいか迷った。
「いったん吸い始めたら、なかなかやめられないって聞いてるな」
「お父さんは、吸ったことないの?」
「まあね。お父さんは、煙草を買うお金があったら、そのかわりにおさ……お砂糖がたっぷり入ったジュースだのコーラだのを買うほうが好きだったんだ」
「ふうん」
息子はわたしをうさんくさそうに見た後、遠くに視線を移した。
「でも、どうしたんだい、急に、煙草だなんて」
「あのね、友達が、国語の時間に、詩を書いてね」
「それで」
「地球が、煙草をすぱすぱふかしてる、って、みんなの前で」
「地球が煙草を?」
「ほら。あんなふうに」
息子は遠くににょきにょきと立つ、煙突の群れを指差した。
わたしは苦い笑いを浮かべた。そういう『詩もどき』だったら、わたしも小学生のころ書いた。単なる擬人化で、教師がいい顔をするために書いたものにすぎない。ほんものの詩とは、もっと直截的で、もっと躍動的で、もっと生命の根源に発するなにかよくわからないパワーを秘めたものだ。だがそれがわかるためには、息子には長い時間が必要だろう。
「それで、お前はどう思ったんだい?」
「地球も、煙草をやめたほうがいいんじゃないのかな、って」
「ふうん。そうだね。そう考えるのも、いいかもしれないね」
わたしは息子の頭をぐしゃぐしゃとやった。
「でも、煙草をやめてしまったら……」
そこまでいってわたしは凍りついた。
煙草をやめてしまった地球は、いったいなにを代替物にするのだろう?
原子力。そういう、覚醒剤やヘロインのような、もっと危険な薬物に、地球は手を出してしまったのではないだろうか?
いや、地球が、ではない。人類が、だ。
「お父さん。どうしたの?」
「なんでもない。なんでもないんだ」
わたしは遥か彼方に見える、老朽化して取り壊しが決定されている旧式の火力発電所の煙突群を見ながら、そう繰り返すことしかできなかった……。
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~ Comment ~
私の小学生の頃、光化学スモッグ注意報なんてあったなぁ〜
今は聞かないけど、それだけ綺麗になったのかな?
温暖化とか言ってるけど、小氷河期に入っていくかもしれないんでしょ。
どうすりゃいいのかねぇ。
地球さん。
今は聞かないけど、それだけ綺麗になったのかな?
温暖化とか言ってるけど、小氷河期に入っていくかもしれないんでしょ。
どうすりゃいいのかねぇ。
地球さん。
- #8148 ぴゆう
- URL
- 2012.05/27 20:37
- ▲EntryTop
Re: limeさん
わたしがそういうイヤな小学生でしたから(^^;)
もっとも絵がすさまじくヘタクソだったのでいい点はもらえませんでしたが(爆)
もっとも絵がすさまじくヘタクソだったのでいい点はもらえませんでしたが(爆)
子供の作文に作為的要素を見抜いたところが面白いですね。
たしかに、それはあるかも。
環境保護のポスターとか、詩とか、授業で子供に強制的に書かせるのは、どうかな・・・とか、中学生のとき、書きながら思ったもんです。
湧き上がるもので、詩や絵を書きたいのに。
たしかに、それはあるかも。
環境保護のポスターとか、詩とか、授業で子供に強制的に書かせるのは、どうかな・・・とか、中学生のとき、書きながら思ったもんです。
湧き上がるもので、詩や絵を書きたいのに。
Re: YUKAさん
なにをやってもいいとは思いますが、身体だけは壊さないようにしてほしいであります地球……。
- #8141 ポール・ブリッツ
- URL
- 2012.05/26 08:18
- ▲EntryTop
おはようございます^^
おお!すでに手を出してしまっている?!
地球が、ではなく、人類が。
原子力を止めようという昨今、この先は何をする気なのか。。。
地球が、ではなく、人類が。
原子力を止めようという昨今、この先は何をする気なのか。。。
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Re: ぴゆうさん
人の人に対する偏見がいちばん怖いのかもしれません。
そう考えると、「デビルマン」の先見性はすごいなあ、と思います。