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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・6月3日

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    「グレン、グレン! ちょっと待って!」

    「なにをやってるんだい、朝から」

     今日は、珍しく午前中になんの仕事も入っていなかったエドさんは、クロエさんとグレムリンのグレンとの追いかけっこを、ぐしゃぐしゃの頭にくわえ歯ブラシで眺めました。

    「あら、あなた、ちょっと手伝ってくれない。グレンがね、どうしても服を着ようとしないのよ」

     エドさんは頭をぼりぼりかきました。

    「本人が着たがらないんだから、別にいいんじゃないのかなあ」

    「女の子だったらどうするのよ」

     エドさんは、飛び回るこの醜い小妖精をとっくりと見ました。

    「そもそも、妖精に性別って、あるのかい? わたしはよくわからないんだが」

    「前に、妖精国の女王と逢った、って、自慢げに話していたのはあなたでしょ」

     エドさんは、ぼりぼりと頭をかきました。

    「それもそうだな……」

     とはいえ、あんな山の奥の森の中、話を聞くとしてもそうおいそれと行けるものではありません。

    「うーん、これは、本人に聞いてみるのが一番かもしれないなあ」

     エドさんは、両手の人差し指を、離して立てました。

    「グレン、グレン、お前がもしも男の子なら、この右手の指に止まれ。もしも女の子なら、この左手の指に止まれ」

     グレンは、その言葉を理解したのかしないのか、エドさんの広げた手と手の間を飛び抜けて、エドさんの頭に止まりました。

    「答えるのを拒否したのかな、それとも、どちらでもないっていっているのかな」

     エドさんは首をかしげ、そして、クロエさんに大事なことを尋ねていないことに気がつきました。

    「で、問題となってる、その服ってのは、どんなものなんだい?」

     クロエさんはぱっと顔を輝かせました。

    「わたしが、芸術家としての魂を込めた、究極のデザインよ!」

     エドさんは、妻がなにをおいても、『現代芸術家』であることを知り抜いていたので、もしかしたら、と思いました。

     案の定、クロエさんは、奇抜な、とても奇抜なデザインの、目にも鮮やかな色使いをした布切れを取り出しました。

     エドさんはしがみついたグレンを頭から引きはがすと、布切れと妖精を見比べました。

    「確かに、その服は、この子には似合うと思うよ」

    「そうでしょ!」

    「でもさ……」

     エドさんは学校のことを思い出しました。

    「グレン、学校の子供たちに大人気だぜ」

    「いいじゃないの、あなた。受け入れてくれるんだから」

    「いや、そういう意味じゃなくて、あのさ、グレンと子供たちが外で遊ぶと、きみが作ったその洗練された衣装は、あっという間にぼろぼろのずたずたにされちゃうんじゃないかなあ。ほら、鬼ごっことか、かくれんぼとかしてさ」

     クロエさんは、はっとしたように、自分が手にした服を見ました。

    「そうね……」

    「もし、服を着せるとしても、もうちょっとグレンが、成長……するのかなあ、妖精だけど……まあ、成長したときにとっておくのがいいんじゃないのかなあ」

    「そうね……そのことは、考えてなかったわ。ごめんね、グレン」

     クロエさんは、ちょっと、寂しそうにいいました。エドさんは、ちょっといいすぎたかな、と思いながら妻のそばに寄りました。

    「便利屋さーん! ちょっと、うちの蔵を掃除してくれんかのう?」

     エドさんは、すぐに便利屋としての顔になりました。

    「はい! 今行きます!」

     エドさんの一日が始まりました。



     小学校でチェスを教えたエドさんが、グレンとともに帰って来ると、クロエさんが、またも布切れを持って待ち構えていました。

    「これなら、激しい運動でも大丈夫よ!」

     グレンはおびえたようにそこら辺を飛び回り、クロエさんは追いかけました。

     エドさんは、朝、この疑念をいっておかなかったことを後悔しました。

    『……もしかしたら、妖精に服を着せたら、その妖精は、わたしたちの前から姿を消し、二度と戻ってこないんじゃないのかなあ。あの昔話の、靴作りをする妖精みたいに……』

     エドさんは頭をぶるっと振りました。


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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    コメ欄ではおひさしぶりです。

    まあどうかゆっくりと。

    グレンの件ですが……。

    まあ世の中にはいろいろと。ふっふっふっ(^^)

    おはようございます^^

    お久しぶりです^^
    やっとエドさんの続話を読みました^^

    グレンに衣装――なかなか大変そうです。
    って、え?ええ?

    もしかして、これはグレンが消えてしまう前振り?!
    黒江さん、諦めてくれるといいのですけど^^;;

    Re: limeさん

    たしか、「その夜から、二度と現れることはありませんでした」という終わりかただったと思います。

    ちょっともの悲しい気分になったことを覚えています。

    後年、どこかで「服がほしそうにしている靴作りの妖精と、断固として作らずにただ働きさせようとする老夫婦」の熾烈な攻防のコントを見て、腹を抱えて大笑いしたことを覚えています。どこだったっけ。
    • #8220 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.06/05 19:44 
    •  ▲EntryTop 

    うん、私も妖精には、勝手に服を着せない方が良いと思います。
    裸が恥ずかしいと言うのも、人間の理屈ですしね。
    人間以外は、女の子でも服なんて着ないですし。
    (最近の犬は、着てますが^^;)

    ところで、靴づくりの妖精は、最後、きえちゃうんでしたっけ。
    童話をほとんど読まずに育ったもので・・・。
    あれは、何のものがたりでした?夜中に靴を作る妖精ですよね。
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