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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・6月24日

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     クロエさんはキャンバスに向かっていました。木炭のかけらを手に、目をつぶり、なにかの声を聞こうとしているかのようでした。

     こういうときのクロエさんに、なにかを話しかけるのは、たいていはろくな結果を生まないことをよく承知しているエドさんでしたが、この数日はちょっと違いました。なんとなく、クロエさんが、いつものクロエさんではないような感じがするのです。

     クロエさんの脇には、古パンが置いてありました。別に食べるわけではありません。消しゴムのかわりに使うのです。

     しかし、グレムリンであるグレンにはそんなことはわからないようでした。音もなくふわりと飛ぶと、古パンをひと口……。

    「グレン!」

     クロエさんは、目を閉じたまま叫びました。びっくりしたのか、グレンは、パンから手を引っ込めると、すばやく飛び去って、エドさんの頭にしがみつきました。

    「なにをかりかりしているんだい」

     エドさんは顔からグレンを引き剥がすと、クロエさんに尋ねました。

    「ああ、あなた」

     クロエさんは、目を開けると、ちょっとやつれ気味の顔でエドさんに振り向きました。

    「たしかその古パンは、パン屋で余りものをわけてもらったんじゃないか。それに、グレンも、おなかをこわしたりはしないだろう。なにせラジエーターの不凍液を飲んでいたくらいだからなあ」

    「それなんだけど……」

     クロエさんは心配そうにいいました。

    「この子、やっぱり、行ってしまうのかしら。どこか遠くへ」

    「なにをいうんだい」

     とはいいつつも、エドさんもそれについては気にかかっていました。

    「グレンは、うちの家族の一員さ」

    「だけれど、妖精といっても、まったくの無からは、生まれないはずでしょう」

    「よくわからないが、そうかもなあ」

     クロエさんは、さらにエドさんにいいました。今まで吐き出そうと思っていたものを、全て吐いてしまおうとでもするかのように。

    「きっと、グレンにも、親がいるのよ。そしていつか、その親のもとへと……」

    「ははあ。わかったぞ」

     エドさんは、ちょっとおどけてみました。

    「東洋の昔話でも読んだんだな。あの、月の世界から迎えが来たお姫様の話。安心しろよ、グレンには、妻に迎えようとする皇帝がいない」

     クロエさんは、うっすらと微笑みました。

    「それもそうよね。でも、今の幸せな一日を、記憶なり記録しておきたいじゃない」

    「うん、その気持ちはわかる」

    「だから、わたしもグレンの絵を描こうとしたんだけれど……どうやっても、一枚も描くことができないのよ」

    「え? 本当かい?」

     エドさんは、びっくりしました。クロエさんはうなずきました。

    「そうよ。向けられたカメラというカメラを壊してしまうから、グレンの写真が一枚もないのは知っているでしょ。そして、グレンの絵も一枚もない。テレビ局の取材も来なければ、ラジオ番組にも、インターネットの話題にもならない。だから、わたしが描こうとしたんだけれど……」

     エドさんも、思い当たることがありました。あの、グレンによって自信をつけた料理店の看板にも、グレン自身の姿はどこにも描かれていないのです。

    「もしかして、グレンは、なにか大きな力にでも守られていて、そして、やがてはわたしたちのもとを……」

     顔を手のひらにうずめて身体を震わせる妻に、エドさんはなんといったらいいかわかりませんでした。グレンはといえば、何が起こっているのかわからないのか、あちらこちらをきょろきょろしています。

     しばらく、そのままの時間が過ぎました。

    「よし」

     エドさんは、妻の肩に手を置きました。

    「こいつの親が迎えにきたら、とっくりと意見してやろうじゃないか。こんなかわいい……いや、愛嬌のある子供を、なんだってひとりぼっちで放り出したのか、ってね。そしてそいつの親ともども、絵を描いてやればいい。実はわたしも気になっていたのさ、こいつの親はどんなやつなんだろうって」

     クロエさんは涙を拭きました。

    「そうね。グレンの親だもの、きっといい人に決まっているわよね」

    「人じゃない。妖精だ」

     くすくす笑い始めた二人を、グレンはきょとんとした目で見つめていました。


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    Re: YUKAさん

    さてどうなるでしょうね、としかいえないよ、今の段階じゃ!(^^;)

    グレンはけっこう重要なキャラクターになってしまい、大筋にもかなりからんでくる存在になってしまいました。

    どうするか頭を抱えてます。(^^;)

    こんばんは♪

    日曜はエドさんの日――
    早速読みに来ました^^

    ――って、あぁ~~~!心配していた雰囲気になってる><。
    クロエさんの気持ちがわかります。
    グレン、帰っちゃうのかなぁ。。。なんだか今から淋しいです^^;;

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