「弱肉雑食系(ラブコメ小説、不定期連載)」
弱肉雑食系・カット1「よくあるタイプじゃない出逢い」
2コマめ:ロマンチックでない一夜
指摘するまでもないことだが、人間のできることには限界がある。その限界内でどれだけのことができるか、というのが、この人間社会なるゲームのルールでありスコアでありテクニックが試されるところであるが、この事態は、のんびり平和にゲームを楽しみたい、ぼくみたいなヌルい人間にはいささか手に余るものだった。
とにかく、このまま扉の外に放り出して風邪をひかせたりしたらさすがに人道にもとるので、カメラを片付けた部屋に引っ張り込み(嫌な表現だ……)、布団を敷いて寝かせ、唯一の空いたスペースであるガスコンロの前に脚立を置いて椅子代わりにし、流し台にまな板を渡してテーブル代わりにしたうえで、飲まないので余っていたほうじ茶を作ってすすりながら、いつ来るとも知れぬ夜明けを待った。普通はコーヒーだろ、とツッコミが入るかもしれないが、ぼくの部屋にコーヒーなどというものはない。
それにしても。
意識を失っている人間の身体のなんと重いことよ。そして、なんと扱いづらいことよ。
ぼくはこの闖入者である見も知らぬ娘の顔をしげしげと見た。
まず、美人なほうに入るだろう。だが、ぼくの好みのタイプではない。どこか、ネコ科の動物を思い出させるのだ。化粧が、そうしたイメージをより強くしていることに、そのときのぼくは思いいたらなかった。思いいたっていたとしてもたいした違いはなかっただろうが。
部屋中に、酒くささが充満しているかのようだった。そうとう飲んできたらしい。酒はたしかに、ぼくも嗜む程度には飲むが、ここまで泥酔したことはない。
とにかく、朝までの辛抱だ。ぼくのこの静謐で落ち着いていて充足した世界を、こんな闖入者に邪魔されてたまるものか。
ぼくはほうじ茶を何杯も飲んだ。テレビくらい置いておくんだった、と激しく後悔した。せめてパソコンにゲームでも入れてあれば、眠気ざましにもなるだろうが、あいにくとぼくのパソコンはデスクトップで、使うためには布団に寝ているこの闖入者の脚をまたぐように座らなければならない。人道的見地からも、それはほめられたことではないだろう。
でもこのままでは退屈すぎる。ラジオでも聞こう。ぼくは手持ちの手回し充電式のポケットラジオのスイッチを入れた。このラジオは、災害時には実に役に立つと、実家で持たせてくれたものだ。
のんびりとした声が流れてきた。思わず眠気を誘われる、ゆっくりとした語り口。
ラジオ深夜便だ。
退屈しのぎとしては、民放よりはましだろうと、ぼくは耳を傾け……。
気がついたのは朝だった。
闖入者の娘も、ちょうど起きたところだったらしい。
ぼくと娘は目を合わせた。
「ここ、どこ?」
先に口を開いたのは娘のほうだった。西部劇の決闘シーンではないが、こういうときはだいたいにおいて先に銃を抜いたほうが勝つのだ。
とにかく、このまま扉の外に放り出して風邪をひかせたりしたらさすがに人道にもとるので、カメラを片付けた部屋に引っ張り込み(嫌な表現だ……)、布団を敷いて寝かせ、唯一の空いたスペースであるガスコンロの前に脚立を置いて椅子代わりにし、流し台にまな板を渡してテーブル代わりにしたうえで、飲まないので余っていたほうじ茶を作ってすすりながら、いつ来るとも知れぬ夜明けを待った。普通はコーヒーだろ、とツッコミが入るかもしれないが、ぼくの部屋にコーヒーなどというものはない。
それにしても。
意識を失っている人間の身体のなんと重いことよ。そして、なんと扱いづらいことよ。
ぼくはこの闖入者である見も知らぬ娘の顔をしげしげと見た。
まず、美人なほうに入るだろう。だが、ぼくの好みのタイプではない。どこか、ネコ科の動物を思い出させるのだ。化粧が、そうしたイメージをより強くしていることに、そのときのぼくは思いいたらなかった。思いいたっていたとしてもたいした違いはなかっただろうが。
部屋中に、酒くささが充満しているかのようだった。そうとう飲んできたらしい。酒はたしかに、ぼくも嗜む程度には飲むが、ここまで泥酔したことはない。
とにかく、朝までの辛抱だ。ぼくのこの静謐で落ち着いていて充足した世界を、こんな闖入者に邪魔されてたまるものか。
ぼくはほうじ茶を何杯も飲んだ。テレビくらい置いておくんだった、と激しく後悔した。せめてパソコンにゲームでも入れてあれば、眠気ざましにもなるだろうが、あいにくとぼくのパソコンはデスクトップで、使うためには布団に寝ているこの闖入者の脚をまたぐように座らなければならない。人道的見地からも、それはほめられたことではないだろう。
でもこのままでは退屈すぎる。ラジオでも聞こう。ぼくは手持ちの手回し充電式のポケットラジオのスイッチを入れた。このラジオは、災害時には実に役に立つと、実家で持たせてくれたものだ。
のんびりとした声が流れてきた。思わず眠気を誘われる、ゆっくりとした語り口。
ラジオ深夜便だ。
退屈しのぎとしては、民放よりはましだろうと、ぼくは耳を傾け……。
気がついたのは朝だった。
闖入者の娘も、ちょうど起きたところだったらしい。
ぼくと娘は目を合わせた。
「ここ、どこ?」
先に口を開いたのは娘のほうだった。西部劇の決闘シーンではないが、こういうときはだいたいにおいて先に銃を抜いたほうが勝つのだ。
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Re: 鍵コメさん
でも、こういうシチュエーション、昔からよくあるような(^_^;)
パンをくわえて「遅刻遅刻!」みたいなもののような(^_^;)
パンをくわえて「遅刻遅刻!」みたいなもののような(^_^;)
Re: 十二月一日 晩冬さん
「荒野の七人」ですね。続編も借りようかどうか迷っているうちにレンタル屋からなくなってしまいました。
やっぱり見ておくべきだったかなあ。(^_^;)
やっぱり見ておくべきだったかなあ。(^_^;)
良いですね^^
西部劇・・・七人の荒野を真っ先に思い浮かべましたw
七人の侍にはいないキャラを演じたロバート・ヴォーンが個人的にはツボだったり・・・
西部劇・・・七人の荒野を真っ先に思い浮かべましたw
七人の侍にはいないキャラを演じたロバート・ヴォーンが個人的にはツボだったり・・・
- #8568 十二月一日 晩冬
- URL
- 2012.07/10 20:09
- ▲EntryTop
Re: 冬彦さん
こちらこそすみません。
いやー、そうおっしゃられて、もうわたし真っ赤であります。
常日頃、わたしがどんなマンガや小説を読んでいるのかモロバレになってしまった!
自戒のためにこのコメは残しておこうと思います。
お気持ちを傷つけ、まことにすみませんでした。
いやー、そうおっしゃられて、もうわたし真っ赤であります。
常日頃、わたしがどんなマンガや小説を読んでいるのかモロバレになってしまった!
自戒のためにこのコメは残しておこうと思います。
お気持ちを傷つけ、まことにすみませんでした。
いやあの、鼻とか脇とかこちょこちょして起こす道具立ての布石だと思っていたもので…。
誤解を生むコメ誠にすいませんでした。削除致します。
誤解を生むコメ誠にすいませんでした。削除致します。
Re: 冬彦さん
どういう使い方を念頭においておられるのかは存じませんが、このブログは残念ながら成人向けではなく、品行方正な全年齢対象なのであります。
不悪。
不悪。
Re: YUKAさん
気の毒なことにこの主人公は、こうでもしないと永遠に女性とは縁のないタイプで……(^_^;)
おはようございます^^
おお!早速第二弾!
「ぼく」は淡々としてますね~~
美人との出会い――「ぼく」の感情はともかく
出逢い方としては、ロマンティックじゃなくても充分ドラマティック^^
楽しみです^^
「ぼく」は淡々としてますね~~
美人との出会い――「ぼく」の感情はともかく
出逢い方としては、ロマンティックじゃなくても充分ドラマティック^^
楽しみです^^
「ぼく」の無機質な反応がおもしろいw
草食系というのは、本当にそういうドキドキは無いもんなんでしょうか。
(じゃあ、うちの沢村くんは、草食系じゃないな、と今気付く)
これ、男女逆バージョンにしたら面白い、と思ってしまう私は危ない?
草食系というのは、本当にそういうドキドキは無いもんなんでしょうか。
(じゃあ、うちの沢村くんは、草食系じゃないな、と今気付く)
これ、男女逆バージョンにしたら面白い、と思ってしまう私は危ない?
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Re: ヒロハルさん
ウケたいと思う気持ちが次々と新たなワザというかジャンルを開拓していく、まことになんとやら蛇に怖じずな男(^_^;)
けっこうなんとかなるものです。