「弱肉雑食系(ラブコメ小説、不定期連載)」
弱肉雑食系・カット1「よくあるタイプじゃない出逢い」
4コマめ:カノジョ
「それをいうなら、シー・ハー・ハー・ハーズだろう」
ぼくは冷蔵庫から、ひとりで食べるつもりだった二個の焼おにぎりを取り出した。いずれも、ぼくが焼いたものだ。昨晩の夕食で余ったごはんに味噌を塗って魚焼き網で焼き、保存性を高めたものだ。
「食べる?」
「今、固形物を入れるのは、いくらカレの誘いでも危険すぎるわ」
「だから、誰がカレだって?」
ぼくはその冷えた焼おにぎりをむしゃむしゃと食べ始めた。相手がいらないといっている以上、気楽なものである。
「きみにしろ、誰がカノジョなんて呼ぶもんか」
「呼んでくれないの?」
彼女は、そういうと、蒼い顔になった。
「そんなにショックなことなのか?」
「いえ……トイレ、どこ?」
ぼくが、誰にでもわかる、トイレ一体式ユニットバスの扉を指差すと、彼女は砲弾のように飛び込んで行き、やがて聞き覚えのある、げえげえいう音が聞こえてきた。
ぼくは、心を無にして焼おにぎりを食べた。ぼく自身をはじめとする全人類を含めて、ぼくが生物というものが嫌いなのは、こういった厳然たる事実のせいかもしれない。
彼女がトイレから出てきたのは、ぼくが二個目のおにぎりを食べ終えた、ちょうどそのときだった。
とにかく、早いところ退散してもらおう。
「水、飲むか?」
水道の蛇口をひねり、さっきの湯飲みに水を注いだ。
「あなた、わたしを見て、なんとも思わないの?」
湯飲みを受け取り、彼女はいった。
「なにを思えっていうんだい。酔っ払って人のマンションに転がり込んで、人の布団でぐうすか寝て、人のトイレで盛大に吐いて……同じ大学に通っている人間としては、恥ずかしいよまったく」
「へえ。あなたもC大なの?」
ぼくは胃の中の飯粒が逆流してきそうになったのを覚えた。
「C大法学部? あの、司法試験の合格者がごろごろ出る、あのC大?」
受験のときに偏差値だけで外したところじゃないか。
「じゃ、カレ、あなたはどこなのよ」
ぼくは通っている三流大学の名前をぼそぼそといった。
「ふうん、じゃ、今度、遊びに行かせてもらうわね。カレ~、カレ~、るんる~ん」
彼女は妙な鼻歌を歌いながら帰っていった。
いったい、彼女は、なにを考えて……。そこまで考えて、ぼくははっとした。
いつの間にか、彼女……ではなくて、幡豆椎葉のペースに巻き込まれてものを考えている!
ぼくは背筋に悪寒を感じた。静謐な生活が、落ち着いた生活が、完全なまでに破壊されるという予感がしたのだ。
ぼくは冷蔵庫から、ひとりで食べるつもりだった二個の焼おにぎりを取り出した。いずれも、ぼくが焼いたものだ。昨晩の夕食で余ったごはんに味噌を塗って魚焼き網で焼き、保存性を高めたものだ。
「食べる?」
「今、固形物を入れるのは、いくらカレの誘いでも危険すぎるわ」
「だから、誰がカレだって?」
ぼくはその冷えた焼おにぎりをむしゃむしゃと食べ始めた。相手がいらないといっている以上、気楽なものである。
「きみにしろ、誰がカノジョなんて呼ぶもんか」
「呼んでくれないの?」
彼女は、そういうと、蒼い顔になった。
「そんなにショックなことなのか?」
「いえ……トイレ、どこ?」
ぼくが、誰にでもわかる、トイレ一体式ユニットバスの扉を指差すと、彼女は砲弾のように飛び込んで行き、やがて聞き覚えのある、げえげえいう音が聞こえてきた。
ぼくは、心を無にして焼おにぎりを食べた。ぼく自身をはじめとする全人類を含めて、ぼくが生物というものが嫌いなのは、こういった厳然たる事実のせいかもしれない。
彼女がトイレから出てきたのは、ぼくが二個目のおにぎりを食べ終えた、ちょうどそのときだった。
とにかく、早いところ退散してもらおう。
「水、飲むか?」
水道の蛇口をひねり、さっきの湯飲みに水を注いだ。
「あなた、わたしを見て、なんとも思わないの?」
湯飲みを受け取り、彼女はいった。
「なにを思えっていうんだい。酔っ払って人のマンションに転がり込んで、人の布団でぐうすか寝て、人のトイレで盛大に吐いて……同じ大学に通っている人間としては、恥ずかしいよまったく」
「へえ。あなたもC大なの?」
ぼくは胃の中の飯粒が逆流してきそうになったのを覚えた。
「C大法学部? あの、司法試験の合格者がごろごろ出る、あのC大?」
受験のときに偏差値だけで外したところじゃないか。
「じゃ、カレ、あなたはどこなのよ」
ぼくは通っている三流大学の名前をぼそぼそといった。
「ふうん、じゃ、今度、遊びに行かせてもらうわね。カレ~、カレ~、るんる~ん」
彼女は妙な鼻歌を歌いながら帰っていった。
いったい、彼女は、なにを考えて……。そこまで考えて、ぼくははっとした。
いつの間にか、彼女……ではなくて、幡豆椎葉のペースに巻き込まれてものを考えている!
ぼくは背筋に悪寒を感じた。静謐な生活が、落ち着いた生活が、完全なまでに破壊されるという予感がしたのだ。
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酔ってるとはいえ、あまりお近づきになりたくないタイプの女性ですね^^;
でもラブコメだから、ラブになるんですよねえ・・・。
でもラブコメだから、ラブになるんですよねえ・・・。
Re: しのぶもじずりさん
根性うんぬんより、「世の中は悪い事態へ悪い事態へと移っていく」と考えたがる男なんでしょうね鏑木くん(^_^;)
作ったわたしがいうのもなんですが、暗いやつだなあ(^_^;)
作ったわたしがいうのもなんですが、暗いやつだなあ(^_^;)
Re: YUKAさん
これからどうするか、まだ導入部にすぎないのに頭を抱えていたりします。
範子文子のほうがまだ楽だったような……(^_^;)
範子文子のほうがまだ楽だったような……(^_^;)
おはようございます^^
やっと振り回されていることを自覚しましたね!^^
続きが楽しみですが、ちょっと帰省するので
帰ってきたら読ませて頂きます♪
続きが楽しみですが、ちょっと帰省するので
帰ってきたら読ませて頂きます♪
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Re: limeさん
「愛についてそれがなんなのか本質的な意味で実感できない男女がそれを見つけるまで」
という非常に重いものだったりします。
内容はバカですが。