「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)
エドさんと緑の森の家・8月5日
『まったく、太陽光で発電しようなどと最初に考えたやつは誰なんだ』
かんかん照りの太陽の下、屋根のうえに登ったエドさんは、汗水を垂らしながら、発電用の太陽電池パネルを磨いていました。
『しかも、そのパネルに、ペンキだかなんだか知らないが、染料の入ったカプセルをぶつけたやつはいったい誰なんだ。まあ、そのおかげで、わたしの仕事になるんだから、文句をいえた義理じゃないけど……』
シャープさんからの依頼は簡単なものでした。発電量が回復するまで、ひたすらパネルを磨くのです。屋根の上ともなると、命綱を結ぶ場所もありません。だいいち、命綱なんかを結んだら、かえって邪魔になって仕事ができません。落ちても命に別状ある高さではないな、と、エドさんはもと探偵としての経験から推測しました。命に別状はなくとも、骨折は覚悟したほうがいい高さでしたが。
しばらくの奮闘の後、よし、とエドさんは額の汗をぬぐいました。太陽電池パネルはぴかぴかです。これで仕事も終わり……と思ったら、下のほうから、依頼主のシャープさんの大声が響いてきました。
「便利屋! 仕事はやっているのか!」
「いま終わったところですが」
「終わった? 馬鹿なことをいうな! まだ、発電量は、もとの値に戻っていないぞ!」
シャープさんは、細かい数字をいちいち挙げては、エドさんの仕事にけちをつけるのでした。
依頼が果たせない、というのは、エドさんの沽券に関わることでした。よし、やってやろう。太陽電池パネルを、文句がひとつも出ないように磨いて磨いて磨きぬいてやろう。
エドさんは、さらに仕事を続けました。物好きにもついてきたグレンは、この陽光に耐えかねたのか、屋根の下にこうもりみたいにぶら下がって暑さをしのいでいました。
「妖精もこの暑さじゃなあ」
エドさんは苦笑いして、腰のストローつき水筒から飲み物を飲もうとしました。
その瞬間です。なにか、卵のようなものが飛んできて、せっかくエドさんが磨いた太陽電池に、びしゃっと緑色の染料をぶちまけたのでした。
「なんてことだ!」
エドさんは叫びました。と、同時に、エドさんは、いったいこのいたずら者が誰なのか、見当がつきました。
「グレン」
エドさんは、屋根の下の醜い小妖精にささやきました。
「いいかい。この近くに、パチンコのようなものを持った子供が潜んでいるはずだ。見つけてきたら、その肩に止まって、わたしに教えてくれないか。とても大事なことなんだ。頼んだよ」
グレンは、エドさんの言葉を理解したらしく、日陰からぱたぱたと羽ばたいて、家の近くの茂みのほうへ向かっていきました。
グレンが見つけ出してきたのは、エドさんのにらんだとおりの人物でした。
「信じられん」
シャープさんは、口をへの字に結んで腕を組みました。
「いたずら者がわかったといったが……これは、うちの息子のケンじゃないか!」
「いってごらん。どうして、きみがこんないたずらを……いや、こんな諫言をしたのか」
「諫言?」
シャープさんは吐き捨てました。
「なんでわしが諫言なんか受けねば……」
「お父さんは人が変わっちゃったからだよ! いまのお父さんは、お父さんじゃないや!」
ケンくんはそう叫ぶと、パチンコを捨てて泣きながら走っていってしまいました。追いかけようとしたシャープさんに、エドさんは諭すようにいいました。
「シャープさん。あの太陽光発電パネルは、どれだけの発電量を基準に作られているんですか? 少なくとも、さっきあなたが挙げてくれた数字は、わたしが知っている、平均的な目標値より三割は上ですが」
「えっ……」
「ケンくんは話してくれましたよ。あなたが、この太陽電池が産み出す電気を、電力会社に売れることに気づいてから、毎日毎日、発電量の多寡に一喜一憂するようになってしまったって。それも最近は度を越して、一ワットでも多く……たぶんあなたは、『貪欲』に取り憑かれてしまったんでしょうね」
「わし……わしは……」
うなだれるシャープさんに、エドさんは、そっと飲み物を渡そうとした手を引っ込めました。いえ、貪欲からのことではなく、水筒の飲み口が、ストローだったからですが。
かんかん照りの太陽の下、屋根のうえに登ったエドさんは、汗水を垂らしながら、発電用の太陽電池パネルを磨いていました。
『しかも、そのパネルに、ペンキだかなんだか知らないが、染料の入ったカプセルをぶつけたやつはいったい誰なんだ。まあ、そのおかげで、わたしの仕事になるんだから、文句をいえた義理じゃないけど……』
シャープさんからの依頼は簡単なものでした。発電量が回復するまで、ひたすらパネルを磨くのです。屋根の上ともなると、命綱を結ぶ場所もありません。だいいち、命綱なんかを結んだら、かえって邪魔になって仕事ができません。落ちても命に別状ある高さではないな、と、エドさんはもと探偵としての経験から推測しました。命に別状はなくとも、骨折は覚悟したほうがいい高さでしたが。
しばらくの奮闘の後、よし、とエドさんは額の汗をぬぐいました。太陽電池パネルはぴかぴかです。これで仕事も終わり……と思ったら、下のほうから、依頼主のシャープさんの大声が響いてきました。
「便利屋! 仕事はやっているのか!」
「いま終わったところですが」
「終わった? 馬鹿なことをいうな! まだ、発電量は、もとの値に戻っていないぞ!」
シャープさんは、細かい数字をいちいち挙げては、エドさんの仕事にけちをつけるのでした。
依頼が果たせない、というのは、エドさんの沽券に関わることでした。よし、やってやろう。太陽電池パネルを、文句がひとつも出ないように磨いて磨いて磨きぬいてやろう。
エドさんは、さらに仕事を続けました。物好きにもついてきたグレンは、この陽光に耐えかねたのか、屋根の下にこうもりみたいにぶら下がって暑さをしのいでいました。
「妖精もこの暑さじゃなあ」
エドさんは苦笑いして、腰のストローつき水筒から飲み物を飲もうとしました。
その瞬間です。なにか、卵のようなものが飛んできて、せっかくエドさんが磨いた太陽電池に、びしゃっと緑色の染料をぶちまけたのでした。
「なんてことだ!」
エドさんは叫びました。と、同時に、エドさんは、いったいこのいたずら者が誰なのか、見当がつきました。
「グレン」
エドさんは、屋根の下の醜い小妖精にささやきました。
「いいかい。この近くに、パチンコのようなものを持った子供が潜んでいるはずだ。見つけてきたら、その肩に止まって、わたしに教えてくれないか。とても大事なことなんだ。頼んだよ」
グレンは、エドさんの言葉を理解したらしく、日陰からぱたぱたと羽ばたいて、家の近くの茂みのほうへ向かっていきました。
グレンが見つけ出してきたのは、エドさんのにらんだとおりの人物でした。
「信じられん」
シャープさんは、口をへの字に結んで腕を組みました。
「いたずら者がわかったといったが……これは、うちの息子のケンじゃないか!」
「いってごらん。どうして、きみがこんないたずらを……いや、こんな諫言をしたのか」
「諫言?」
シャープさんは吐き捨てました。
「なんでわしが諫言なんか受けねば……」
「お父さんは人が変わっちゃったからだよ! いまのお父さんは、お父さんじゃないや!」
ケンくんはそう叫ぶと、パチンコを捨てて泣きながら走っていってしまいました。追いかけようとしたシャープさんに、エドさんは諭すようにいいました。
「シャープさん。あの太陽光発電パネルは、どれだけの発電量を基準に作られているんですか? 少なくとも、さっきあなたが挙げてくれた数字は、わたしが知っている、平均的な目標値より三割は上ですが」
「えっ……」
「ケンくんは話してくれましたよ。あなたが、この太陽電池が産み出す電気を、電力会社に売れることに気づいてから、毎日毎日、発電量の多寡に一喜一憂するようになってしまったって。それも最近は度を越して、一ワットでも多く……たぶんあなたは、『貪欲』に取り憑かれてしまったんでしょうね」
「わし……わしは……」
うなだれるシャープさんに、エドさんは、そっと飲み物を渡そうとした手を引っ込めました。いえ、貪欲からのことではなく、水筒の飲み口が、ストローだったからですが。
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~ Comment ~
こんにちは^^
度が過ぎると、なんでも良くないですからね。
エコの名のもとに、息子には不自由で憂鬱なことが増えたのでしょう。
シャープさんの気持ちもわからなくはないですが^^
仲直りできるといいなぁ。
エコの名のもとに、息子には不自由で憂鬱なことが増えたのでしょう。
シャープさんの気持ちもわからなくはないですが^^
仲直りできるといいなぁ。
Re: limeさん
英語の名前でカタカナ四文字とか五文字とかで収まる名前を毎週考えていたら、あっという間にネタ切れになって……(^^;)
これは、早川書房の海洋冒険小説「炎の英雄シャープ」の主人公の名前から取りました。
某国産メーカーとはなんの関係もありません(^^;)
貪欲が取りついた、一ワットでも多くの電力を売る生活、というのがどういうものか、わかりませんか?
多くの電力を売るため、自分の家の電化製品は一切使わず、ひたすら、発電した電気が電力会社に売れていくのを、銀行口座を眺めながらにやにやするんです(^^;)
息子でなくともなにかしらのレジスタンスはしたくなります。
でもそこまで書くと、児童文学としては殺伐としてしまうので……。
これは、早川書房の海洋冒険小説「炎の英雄シャープ」の主人公の名前から取りました。
某国産メーカーとはなんの関係もありません(^^;)
貪欲が取りついた、一ワットでも多くの電力を売る生活、というのがどういうものか、わかりませんか?
多くの電力を売るため、自分の家の電化製品は一切使わず、ひたすら、発電した電気が電力会社に売れていくのを、銀行口座を眺めながらにやにやするんです(^^;)
息子でなくともなにかしらのレジスタンスはしたくなります。
でもそこまで書くと、児童文学としては殺伐としてしまうので……。
シャープさんと言う名前に、なにかあるのかなあと、ずっと気になっていました。なにかある?
自然の力がお金に変わるのだから、気持ちはわかります。悪いことじゃないし。
でも息子的にはそれが気に入らないのでしょうねえ。
汗水流して働いてもらいたいんでしょう。
自然の力がお金に変わるのだから、気持ちはわかります。悪いことじゃないし。
でも息子的にはそれが気に入らないのでしょうねえ。
汗水流して働いてもらいたいんでしょう。
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Re: YUKAさん
この家族は大丈夫でしょう。シャープさんはなにかに気づきましたから。(^_^)