「弱肉雑食系(ラブコメ小説、不定期連載)」
弱肉雑食系・カット1「よくあるタイプじゃない出逢い」
20コマめ:舘冴子
「どこからそういうとんでもない話が」
ぼくは、ずきずきするこぶをさすりながら、テーブル代わりのこたつに置いてある座布団に座った。
「とんでもないって、誰でも思うわよね。この話を知っているのは、この近辺では、あたしと、カノジョと、カノジョが特別な時に飲みに行く、隠れ家バーというか、隠れ家飲み屋の女将さんくらいのものよ」
「ええ。その女将さんには会いました。だけども……」
叩き出されたことは伏せておこう。
「まあ、事情を知らなければ当然ね。あの娘は幼いころ、厳格すぎる母親から、虐待を受けて育ったのよ」
「母親?」
「知らない? スティーブン・キングの『キャリー』みたいなものだったみたい。そこでカノジョは、母親から『男』というものは恐ろしいものだ、ということを精神にしっかりと刻み込まれたのね」
ぼくは頭が混乱してきた。
「だって、それじゃ、カノジョが男たちをひとにらみで追い返せるほど強いわけが……ええっ?」
冴子はうなずいた。
「あれは別に強いわけでもなんでもないのよ。窮鼠なんとやら。男を見ると、怖くてたまらず、やたらと攻撃的になって、回避しようとするのよね」
「浮き名が流れていたって聞いてますが」
「だからって、実際に、カノジョが男を連れて歩いていたところを、見た人いるわけ? カノジョの男遊びは、すべて伝聞。賭けてもいいけど、カノジョ、まだ男を知らないわ」
「…………」
ぼくは、カノジョが、ぼくの布団を調べていたのを思い出した。あのときは、単に皮肉をいいたいためだと思っていたが、あの行為は、『布団が血で汚れていないことを確認する』ためだったのだ!
「講義のときとかはどうしているんですか。教授とか、講師とかには、男性も多いはずです」
「授業の内容に集中して、恐怖を克服しようとしているわ。周りの人から見れば、熱心な勉強家に見えるみたいだけれど、事情を知っているあたしからすれば、よくもまあ無理しちゃって、と思ったけど、それであの大学に入れたんでしょうね。たぶん、高校のころからああいう態度だったんだろうから」
ジグソーパズルのひとつひとつのピースが、まったく別な位置にはまっていく。
「それで、ええ……」
「冴子よ。技が冴えると書くほうの冴子」
「冴子さんは、どうしてカノジョについてそこまで詳しく?」
冴子は、懐中電灯を手から離さないで、肩をすくめた。
「高校のころは、あたし、刀の太刀から、太刀冴子と呼ばれていたのよ。今でも、三十センチ以上の長さの硬い棒を手にしていれば、たいていの男を全治三ヶ月くらいにはできるわ。カノジョ、あたしが路地裏で男を卒倒させるのを見て、この人なら、と思ったみたい。なにしろ思い込みの激しい娘だから」
ぼくは、ずきずきするこぶをさすりながら、テーブル代わりのこたつに置いてある座布団に座った。
「とんでもないって、誰でも思うわよね。この話を知っているのは、この近辺では、あたしと、カノジョと、カノジョが特別な時に飲みに行く、隠れ家バーというか、隠れ家飲み屋の女将さんくらいのものよ」
「ええ。その女将さんには会いました。だけども……」
叩き出されたことは伏せておこう。
「まあ、事情を知らなければ当然ね。あの娘は幼いころ、厳格すぎる母親から、虐待を受けて育ったのよ」
「母親?」
「知らない? スティーブン・キングの『キャリー』みたいなものだったみたい。そこでカノジョは、母親から『男』というものは恐ろしいものだ、ということを精神にしっかりと刻み込まれたのね」
ぼくは頭が混乱してきた。
「だって、それじゃ、カノジョが男たちをひとにらみで追い返せるほど強いわけが……ええっ?」
冴子はうなずいた。
「あれは別に強いわけでもなんでもないのよ。窮鼠なんとやら。男を見ると、怖くてたまらず、やたらと攻撃的になって、回避しようとするのよね」
「浮き名が流れていたって聞いてますが」
「だからって、実際に、カノジョが男を連れて歩いていたところを、見た人いるわけ? カノジョの男遊びは、すべて伝聞。賭けてもいいけど、カノジョ、まだ男を知らないわ」
「…………」
ぼくは、カノジョが、ぼくの布団を調べていたのを思い出した。あのときは、単に皮肉をいいたいためだと思っていたが、あの行為は、『布団が血で汚れていないことを確認する』ためだったのだ!
「講義のときとかはどうしているんですか。教授とか、講師とかには、男性も多いはずです」
「授業の内容に集中して、恐怖を克服しようとしているわ。周りの人から見れば、熱心な勉強家に見えるみたいだけれど、事情を知っているあたしからすれば、よくもまあ無理しちゃって、と思ったけど、それであの大学に入れたんでしょうね。たぶん、高校のころからああいう態度だったんだろうから」
ジグソーパズルのひとつひとつのピースが、まったく別な位置にはまっていく。
「それで、ええ……」
「冴子よ。技が冴えると書くほうの冴子」
「冴子さんは、どうしてカノジョについてそこまで詳しく?」
冴子は、懐中電灯を手から離さないで、肩をすくめた。
「高校のころは、あたし、刀の太刀から、太刀冴子と呼ばれていたのよ。今でも、三十センチ以上の長さの硬い棒を手にしていれば、たいていの男を全治三ヶ月くらいにはできるわ。カノジョ、あたしが路地裏で男を卒倒させるのを見て、この人なら、と思ったみたい。なにしろ思い込みの激しい娘だから」
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~ Comment ~
こんばんは!
同じようなシチュエーションで書き始めようとしていたところに、ポールさんの「弱肉雑食系」が始まり驚きました。
驚きましたけど、いやぁ!これとても面白いです。
山西はカノジョを追跡しています。
驚きましたけど、いやぁ!これとても面白いです。
山西はカノジョを追跡しています。
Re: YUKAさん
ハッピーエンドまでの道は、まだまだ遠いのであります。
導入部を書くだけで疲れきってしまったので、24コマめを終えたらこのシリーズ休みます。あしからず。
投票サンクス!
導入部を書くだけで疲れきってしまったので、24コマめを終えたらこのシリーズ休みます。あしからず。
投票サンクス!
おはようございます^^
読んでなかった分を読みましたよ~~
恐怖症かぁ。。。
面白くなってきましたぞ。
ハッピーエンドを願いつつ、続きを楽しみにします^^
それから、投票完了ですd(≧▽≦*)OK!!
恐怖症かぁ。。。
面白くなってきましたぞ。
ハッピーエンドを願いつつ、続きを楽しみにします^^
それから、投票完了ですd(≧▽≦*)OK!!
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Re: 山西 左紀さん
なにぶん、作者のわたしがこういうこととはまるで縁のなかった暗いオタク生活を送っていたもので……(^_^;)
とりあえず24コマで一休みですが、それまで楽しんでいただければ幸いです。