「ショートショート」
ホラー
きみは、なぜに、ぼくを……
その少女が、ぼくの前に現れたときから、運命は変わった。
美しい、というところまではいかなかったが、ボーイッシュで、活動的で、かわいい、ぼくの好みにぴったりの女の子だった。
ぼくは彼女を追いかけた。だが、彼女は、ぼくをあざ笑うかのように、ちらり、ちらりと姿を見せると、どこかへ消えてしまうのだった。
手紙を書こうにも、電話をかけようにも、名前すらわからないのだから、どうしようもない。ぼくはいらいらし、他の誰とも会わずに、部屋でぼんやりとしていることが多くなった。
彼女の面影は、そんなぼくの頭の中に、ちらついては消えるのだった。
ふさぎ込んでいると、友人が、部屋に訪ねてきた。最近、大学の授業に出てこなくなったぼくを心配してのことだった。
ぼくは、そいつに、ぼくの抱えている悩みのことを話した。困ったときの友こそ真の友だ。ぼくの話を、そいつは真剣に聞いてくれた。
「ノイローゼだな。恋わずらいというやつだ。お医者さんでも、草津の湯でも、っていうくらいだからな」
どうしたらいいだろう、と、ぼくは尋ねた。
「まかせておけ。おれの先輩に、こうしたことへの大ベテランがいる。相談したらいいんじゃないか。ついて行ってやるから」
連れて行かれた先は、ちょっとした病院の軽食コーナーだった。現れたのは、一見したところさえないインテリのなりそこないみたいな男だったが、こういうやつが意外と恋愛沙汰に長けていたりするから油断はならない。
先輩とやらは、ぼくの話をうなずきながら聞いていたが、やがて、「なるほど」といって、運ばれてきたケーキを大きくほおばった。
「クリームがつきましたよ」
友人の声に、先輩氏は慌てて鏡を出し、口を拭き、ぼくにひとこといった。
「その少女は……こういう顔では?」
突き出された鏡を見て、ぼくは喜びの涙を流した。なんだ……こんなところにいたのか! 離さない。もう離さないぞ!
隣りでは、友人が、暗い表情で、先輩氏にいった。
「先生……秋乃は、もとに戻ってくれるでしょうか?」
「入院してもどうなるか……」
そうか、きみ、秋乃ちゃんっていうのか。かわいそうに、あいつ、男のくせに涙なんか流して。そうか、あいつ、この娘に惚れてたな。
でも、この娘の心は、ぼくのものだ!
ぼくは笑い出した。笑って笑って笑った。ぼくの笑い声は、『精神病棟』と書かれた廊下を連れられていくときも、まだ続いていた。
美しい、というところまではいかなかったが、ボーイッシュで、活動的で、かわいい、ぼくの好みにぴったりの女の子だった。
ぼくは彼女を追いかけた。だが、彼女は、ぼくをあざ笑うかのように、ちらり、ちらりと姿を見せると、どこかへ消えてしまうのだった。
手紙を書こうにも、電話をかけようにも、名前すらわからないのだから、どうしようもない。ぼくはいらいらし、他の誰とも会わずに、部屋でぼんやりとしていることが多くなった。
彼女の面影は、そんなぼくの頭の中に、ちらついては消えるのだった。
ふさぎ込んでいると、友人が、部屋に訪ねてきた。最近、大学の授業に出てこなくなったぼくを心配してのことだった。
ぼくは、そいつに、ぼくの抱えている悩みのことを話した。困ったときの友こそ真の友だ。ぼくの話を、そいつは真剣に聞いてくれた。
「ノイローゼだな。恋わずらいというやつだ。お医者さんでも、草津の湯でも、っていうくらいだからな」
どうしたらいいだろう、と、ぼくは尋ねた。
「まかせておけ。おれの先輩に、こうしたことへの大ベテランがいる。相談したらいいんじゃないか。ついて行ってやるから」
連れて行かれた先は、ちょっとした病院の軽食コーナーだった。現れたのは、一見したところさえないインテリのなりそこないみたいな男だったが、こういうやつが意外と恋愛沙汰に長けていたりするから油断はならない。
先輩とやらは、ぼくの話をうなずきながら聞いていたが、やがて、「なるほど」といって、運ばれてきたケーキを大きくほおばった。
「クリームがつきましたよ」
友人の声に、先輩氏は慌てて鏡を出し、口を拭き、ぼくにひとこといった。
「その少女は……こういう顔では?」
突き出された鏡を見て、ぼくは喜びの涙を流した。なんだ……こんなところにいたのか! 離さない。もう離さないぞ!
隣りでは、友人が、暗い表情で、先輩氏にいった。
「先生……秋乃は、もとに戻ってくれるでしょうか?」
「入院してもどうなるか……」
そうか、きみ、秋乃ちゃんっていうのか。かわいそうに、あいつ、男のくせに涙なんか流して。そうか、あいつ、この娘に惚れてたな。
でも、この娘の心は、ぼくのものだ!
ぼくは笑い出した。笑って笑って笑った。ぼくの笑い声は、『精神病棟』と書かれた廊下を連れられていくときも、まだ続いていた。
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Re: しのぶもじずりさん
ちなみにこれはナルというよりは……。