「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)
エドさんと緑の森の家・8月19日
「便利屋さん、いらっしゃいますか?」
どこか聞き覚えのあるその声に、エドさんは目を覚まし、あくびをしながらベッドから起き上がりました。
「誰だろう、こんな夜遅く……」
ぶつぶついいながら玄関に出て行くと、エドさんは明かりをつけ、扉を開けました。
「はい。なんでしょう……あっ、お前は!」
エドさんの目が、ばっちりと覚めました。そこに立っていたのは、一見したところ、役人のような顔つきをした、思い出したくもないあいつだったのです。
「地獄の国税局!」
そうです。そいつは、かつてエドさんをきりきり舞いさせた、地獄から来た、本物の悪魔に間違いありませんでした。
「いえ、わたくしは同じ悪魔でも、兄たちと違って税金を払うほうでして」
悪魔はいけしゃあしゃあといい放つと、エドさんが閉めようとしたドアに、素早く足を突っ込みました。
「少しくらいわたくしのお話をお聞きになられても……」
「お前たちの話など二度と聞くもんか!」
とはいえ、足を突っ込まれていては扉が閉まらないのも事実です。エドさんは、緊張した面持ちでドアを開けました。
「話すだけ話したら帰ってくれ」
「もちろんですとも。今晩おうかがいしたのは、グレムリンのことなんですよ。ほら、あなたがグレンと呼んでいるあの小悪魔」
「グレンは小悪魔なんかじゃないぞ。素直で頭のいい、妖精だ。我が家の家族の一員だ」
悪魔はいやみたっぷりにいいました。
「妖精ならば、どうして、こうもりの翼なんかをつけているのですか?」
「こうもりの翼をつけていようが、とんぼの羽をつけていようが、蝶の羽をつけていようが、妖精は妖精だ。そもそも、翼を持っていない妖精もいる。決め手にはならないね」
悪魔は自分の額をぴしゃりと叩きました。
「なるほど、それは理屈だ。だが、あのグレムリンが、われわれの血族であることだけは事実です。あれをこのまま家に置いておくと、なにをしでかすかわかりませんよ」
「あの子はいたずらざかりのようだけれど、これまでに、なんの深刻な悪さもしていないぞ。せいぜい、わたしのシチューやスープを盗み飲みするくらいだ」
悪魔は、にたりと笑いました。
「だったらどうして、あの妖精は、聖なる教会に入っていけなかったんです?」
エドさんは、グレンが巣を作っていた、あのステンドグラスを思い出しました。
「誰にでも、苦手なものはあるさ」
「そりゃあ、ありますよ。例えば、わたしは人界のこの空気と光が嫌い。故郷の、真っ暗で、硫黄のにおいが立ち込めるあの世界が恋しいですなあ。そして、あのグレムリンも、そうなのですよ。心のどこかで、硫黄と熱と闇を好んでいるのです。それがわからぬ、あなたでもないでしょう、便利屋さん?」
「なんといわれようと、わたしの答えは変わらない。グレンにも、わたしにも、妻にも、この村で生きるひとりひとりにも、この地球に、いや、宇宙にあるすべての存在物にも、お前たちは手を出すな!」
「ひどいおっしゃりようですなあ。しばらく、おひとりで考えてみてはいかがでしょう? ほら、こうした闇の中で……」
悪魔が指を鳴らすと、家じゅうの明かりがふっと消えました。物音ひとつ聞こえない闇の中で、エドさんは叫び続けました。
「グレン、グレン、グレンっ!」
『……あなた、あなた、どうしたの!』
汗をびっしょりかいたエドさんがはっと目を覚ますと、ベッドの横で、クロエさんが心配そうに見つめていました。
「どうしたの、あなた?」
「ひどい夢を見たんだ……」
エドさんは、額をぬぐいました。
「疲れているのよ。何か飲みましょう」
ふたりは支え合うように、階下へと降りて行きました。
「あら? 電灯がつけっぱなし、扉も開けっぱなしだわ。戸締りをし忘れたのかしら」
エドさんは、背筋がぞおっとしました。
「グ、グレンは?」
「ほら、そこでクッキーを食べてるわ。まったく、行儀が悪いんだから」
エドさんは、平和そうな顔でクッキーをかじるグレンを見て、ほっと息をつきました。
「グレンは、悪い子なんかじゃないよな」
「こんないい子はいないわよ、あなた」
「そうだよな、はは、そうだよな!」
急にエドさんに抱き上げられて、グレンはきょとんとした表情をしていました。
どこか聞き覚えのあるその声に、エドさんは目を覚まし、あくびをしながらベッドから起き上がりました。
「誰だろう、こんな夜遅く……」
ぶつぶついいながら玄関に出て行くと、エドさんは明かりをつけ、扉を開けました。
「はい。なんでしょう……あっ、お前は!」
エドさんの目が、ばっちりと覚めました。そこに立っていたのは、一見したところ、役人のような顔つきをした、思い出したくもないあいつだったのです。
「地獄の国税局!」
そうです。そいつは、かつてエドさんをきりきり舞いさせた、地獄から来た、本物の悪魔に間違いありませんでした。
「いえ、わたくしは同じ悪魔でも、兄たちと違って税金を払うほうでして」
悪魔はいけしゃあしゃあといい放つと、エドさんが閉めようとしたドアに、素早く足を突っ込みました。
「少しくらいわたくしのお話をお聞きになられても……」
「お前たちの話など二度と聞くもんか!」
とはいえ、足を突っ込まれていては扉が閉まらないのも事実です。エドさんは、緊張した面持ちでドアを開けました。
「話すだけ話したら帰ってくれ」
「もちろんですとも。今晩おうかがいしたのは、グレムリンのことなんですよ。ほら、あなたがグレンと呼んでいるあの小悪魔」
「グレンは小悪魔なんかじゃないぞ。素直で頭のいい、妖精だ。我が家の家族の一員だ」
悪魔はいやみたっぷりにいいました。
「妖精ならば、どうして、こうもりの翼なんかをつけているのですか?」
「こうもりの翼をつけていようが、とんぼの羽をつけていようが、蝶の羽をつけていようが、妖精は妖精だ。そもそも、翼を持っていない妖精もいる。決め手にはならないね」
悪魔は自分の額をぴしゃりと叩きました。
「なるほど、それは理屈だ。だが、あのグレムリンが、われわれの血族であることだけは事実です。あれをこのまま家に置いておくと、なにをしでかすかわかりませんよ」
「あの子はいたずらざかりのようだけれど、これまでに、なんの深刻な悪さもしていないぞ。せいぜい、わたしのシチューやスープを盗み飲みするくらいだ」
悪魔は、にたりと笑いました。
「だったらどうして、あの妖精は、聖なる教会に入っていけなかったんです?」
エドさんは、グレンが巣を作っていた、あのステンドグラスを思い出しました。
「誰にでも、苦手なものはあるさ」
「そりゃあ、ありますよ。例えば、わたしは人界のこの空気と光が嫌い。故郷の、真っ暗で、硫黄のにおいが立ち込めるあの世界が恋しいですなあ。そして、あのグレムリンも、そうなのですよ。心のどこかで、硫黄と熱と闇を好んでいるのです。それがわからぬ、あなたでもないでしょう、便利屋さん?」
「なんといわれようと、わたしの答えは変わらない。グレンにも、わたしにも、妻にも、この村で生きるひとりひとりにも、この地球に、いや、宇宙にあるすべての存在物にも、お前たちは手を出すな!」
「ひどいおっしゃりようですなあ。しばらく、おひとりで考えてみてはいかがでしょう? ほら、こうした闇の中で……」
悪魔が指を鳴らすと、家じゅうの明かりがふっと消えました。物音ひとつ聞こえない闇の中で、エドさんは叫び続けました。
「グレン、グレン、グレンっ!」
『……あなた、あなた、どうしたの!』
汗をびっしょりかいたエドさんがはっと目を覚ますと、ベッドの横で、クロエさんが心配そうに見つめていました。
「どうしたの、あなた?」
「ひどい夢を見たんだ……」
エドさんは、額をぬぐいました。
「疲れているのよ。何か飲みましょう」
ふたりは支え合うように、階下へと降りて行きました。
「あら? 電灯がつけっぱなし、扉も開けっぱなしだわ。戸締りをし忘れたのかしら」
エドさんは、背筋がぞおっとしました。
「グ、グレンは?」
「ほら、そこでクッキーを食べてるわ。まったく、行儀が悪いんだから」
エドさんは、平和そうな顔でクッキーをかじるグレンを見て、ほっと息をつきました。
「グレンは、悪い子なんかじゃないよな」
「こんないい子はいないわよ、あなた」
「そうだよな、はは、そうだよな!」
急にエドさんに抱き上げられて、グレンはきょとんとした表情をしていました。
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~ Comment ~
こんばんは^^
あわわ^^;;
グレンは悪魔の血族だったのですか~~
そういえば、悪戯するし、機械は壊れるし。。。
どうなるのか、楽しみです^^
グレンは悪魔の血族だったのですか~~
そういえば、悪戯するし、機械は壊れるし。。。
どうなるのか、楽しみです^^
Re: 山西 左紀さん
いつの間にか、グレンはこの小説の最重要人物……じゃなかった、最重要妖精になってしまいまして。物語の終わり、12月には、きちんと収まる場所に収めますので、どうかお楽しみに。
どう動くんでしょう?
気になります。
少し意地悪なポール・ブリッツさん?
失礼しました。
このシリーズまた覗きにきます。
気になります。
少し意地悪なポール・ブリッツさん?
失礼しました。
このシリーズまた覗きにきます。
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Re: YUKAさん
「悪魔のささやきに耳を貸さない」
ご了解いただけましたかYUKAさん(^_^;)