「ショートショート」
ファンタジー
薄味の国
旅の途中で出会った、いろいろな国について語れ、とおっしゃりますか陛下。おまかせください。この臣めの見聞が、陛下のお疲れを癒す一助になれば、これ以上の誉れはございませぬ。
まずはどの国より申し上げるべきやら。そうそう、臣めが「薄味国」を訪れたときのことを申し上げましょう。
いやしかし、驚くべき国でありました。そこでは、食するものと身分とが、分かちがたく結ばれていたのでございます。
まず、身分の低い、肉体労働につく者は、濃い味の食事をせねばなりませぬ。そして、身分の上がるとともに、もっとわかりやすく申さば、仕事において肉体よりも頭脳を使う割合の増えるに従って、食するものも薄味になっていくのでございます。
いや、この帝都でこしらえられた贅を尽くした、こってりとした濃厚な味の料理など、あの国においては下賤の極み、奴隷の食するもの、とみなされてしまうでしょうなあ。
臣めも、親書を渡して陛下のお言葉を伝え、国交を結ばんと、薄味国の都へ赴いたのでございますが、都では、なんと、皆が皆、水か、水のごとく薄い酒のみから滋養を取っておるのです!
かようなところでは、臣めも立って歩いていられませなんだ。臣めは、餓えて倒れてしまったのでございます。
どこの国にも、親切なかたというものはいるもので、臣めは田舎の平民の家で手厚い看護を受け、なんとか命を取り留めましたが、これでは陛下の親書どころではございませぬ。落胆する臣めに、その家の主は、それこそ驚くべきことを話してくれたのでございます。
なんと、この薄味国の上級貴族は、空気のみを食べて滋養を得ているのだそうで。それだけでも驚くべきことなのですが、王族は、「真空」を食べ、国王に至っては「空間」を食べているそうなのでございます。
主は、「真空エネルギー」だの「空間それ自体のゆらぎ」などについて、数学を使って説明してくれましたが、臣めにはなにがなんだかわかり申せませなんだ。
それでも、臣めは問うことを忘れませなんだ。いったい、王宮に厠はあるのか、そこではいったいなにがひりだされるのか、と。
主は、宇宙の卵、と申しました。臣めは、かつがれているのか、魔術にかかっているのかわかりませなんだが、自分が今ここにいるこの世界も、あの薄味国の国王がひりだした宇宙の卵から生まれたのではないか、と、ときおり奇妙な考えにとらわれるのでございます。
まずはどの国より申し上げるべきやら。そうそう、臣めが「薄味国」を訪れたときのことを申し上げましょう。
いやしかし、驚くべき国でありました。そこでは、食するものと身分とが、分かちがたく結ばれていたのでございます。
まず、身分の低い、肉体労働につく者は、濃い味の食事をせねばなりませぬ。そして、身分の上がるとともに、もっとわかりやすく申さば、仕事において肉体よりも頭脳を使う割合の増えるに従って、食するものも薄味になっていくのでございます。
いや、この帝都でこしらえられた贅を尽くした、こってりとした濃厚な味の料理など、あの国においては下賤の極み、奴隷の食するもの、とみなされてしまうでしょうなあ。
臣めも、親書を渡して陛下のお言葉を伝え、国交を結ばんと、薄味国の都へ赴いたのでございますが、都では、なんと、皆が皆、水か、水のごとく薄い酒のみから滋養を取っておるのです!
かようなところでは、臣めも立って歩いていられませなんだ。臣めは、餓えて倒れてしまったのでございます。
どこの国にも、親切なかたというものはいるもので、臣めは田舎の平民の家で手厚い看護を受け、なんとか命を取り留めましたが、これでは陛下の親書どころではございませぬ。落胆する臣めに、その家の主は、それこそ驚くべきことを話してくれたのでございます。
なんと、この薄味国の上級貴族は、空気のみを食べて滋養を得ているのだそうで。それだけでも驚くべきことなのですが、王族は、「真空」を食べ、国王に至っては「空間」を食べているそうなのでございます。
主は、「真空エネルギー」だの「空間それ自体のゆらぎ」などについて、数学を使って説明してくれましたが、臣めにはなにがなんだかわかり申せませなんだ。
それでも、臣めは問うことを忘れませなんだ。いったい、王宮に厠はあるのか、そこではいったいなにがひりだされるのか、と。
主は、宇宙の卵、と申しました。臣めは、かつがれているのか、魔術にかかっているのかわかりませなんだが、自分が今ここにいるこの世界も、あの薄味国の国王がひりだした宇宙の卵から生まれたのではないか、と、ときおり奇妙な考えにとらわれるのでございます。
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~ Comment ~
「空気を食べる」まではまだリアルな世界ですが、「真空を食べる」となるともはや観念の世界ですね(あるいはニュートリノなどを食べているとか)。すると、このリアルと観念の境界はどこにあるのかといった疑問が起こってきます。現実の歴史と神話との境界はどこなのか、「色」と「空」の境界はどこなのか、形而上と形而下との間に連続性というものはないのかなど、さまざまなことを考えさせられる大変深いお話だと思いました。
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Re: 矢端想さん
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC
「空間」については、ええと、たしかニャロメのおもしろ宇宙論で読んだことによると……(ウィキペディアをあっちこっちチェック)……いかん。頭が痛くなってきた(^^;) これだけはいえることとして、「空間」ないし「時空」を食べるシステムがわかれば、宇宙創成時に何が起こったかも……わからんなやっぱり。