「ショートショート」
    ユーモア

    怪しさ大爆発

     ←控除率 →エドさんと緑の森の家・8月26日
     密室殺人事件、と聞いて、ぼくは乗り気ではなかった。

    「編集長、どう考えても、怪しさ大爆発な事件ですよ。週刊誌や新聞が取材に行くならわかりますが、どうしてごく普通の科学雑誌であるうちが、取材に行かなくちゃいけないんですか」

     編集長の答えは明確だった。

    「つべこべいうな! 行け!」

     そういわれたら行くしかない。ぼくは、バスに乗ることにした。地図だと、路線バスの停留所が近くにあるのだ。

     あれがバスか……と、停まっている車をひと目見たぼくは、のけぞった。

     つやつやの黒い車体に、白墨、じゃなくて白ペンキかなにかで墨痕鮮やかに髑髏のマーク。もちろん下にはぶっちがいの大腿骨が。

    「怪しい……怪しすぎる。怪しさ大爆発だっ!」

     それでも乗らなくては取材にならない。ぼくはいつでも逃げ出せるように、扉のいちばん近くの椅子に座った。

     ぼくの後から、背丈二メートルはある、僧服を着たもじゃもじゃ頭の陰気な面の男と、きちんとセットされた白髪の、白衣を着た小男がバスに乗って来た。

    『怪しい……怪しさ大爆発だ』

     扉が閉まり、バスは走り出した。

     ぼくはそっと聞き耳を立てた。

    「……博士。あの『愚狼館』の事件ですが」

    「君もよく知っているだろう? 犯罪捜査に予断は禁物じゃよ」

     どうやら、捜査のために招かれた、探偵か捜査官らしい。それにしても、怪しさ大爆発なふたりである。

     やがて、地図にあったバス停でぼくたち三人はバスを降りた。

     目的地である愚狼館はここからでもよく見えた。それは、雑多な様式を集めて建造された建築物だった。ゴシックからロマネスクから、ありとあらゆる様式の、悪趣味なところだけを取り出して濃縮したような屋敷なのだ。

    「怪しい……怪しすぎる。怪しさ大爆発だ! 誰がこんなもの建てたんだ」

    「リンタロー・オグリという建築家じゃよ、きみ」

     小男が口を開いた。

    「は……はあ……ええと、ぼくは『科学と宇宙』という雑誌で記者をやっているものですが……失礼ながら、あなたがたは?」

    「わしらは、俗にいう、素人探偵というものじゃ。わしは、神秘学が専門のミステリオ博士。こっちのでかいのは、スペインの修道会から来た異端審問官の、ネロじゃ」

     あ、怪しい。怪しさ大爆発だ。

     それよりも取材である。ミステリオ博士は、「グノーシス」がどうしたこうした、「アルビジョワ派の三重冠」がどうしたこうした、と、歴史的事実なのかでたらめなのかさっぱりわからないことばかりぶつぶついうし、異端審問官のネロときたらぼくが加わってからは、牡蠣のように口を閉じてしまっている。

     怪しさ大爆発だ……。

     ぼくたちは、屋敷の、一分の隙もない執事姿がかえって怪しさ大爆発な執事たちに案内され、事件のあった部屋へ足を踏み入れた。

    「おお! これはヘリオガバルスの楯! ロンギヌスの槍と聖杯の間に立ちはだかる、腰布を意味する楯ではないか」

    「ヘリオガバルスって、ローマの皇帝じゃありませんでしたっけ」

     ぼくは泣きそうになりながら、死体こそかたづけられていたものの大爆発するような怪しさを残したままの部屋を写真に撮った。

     ネロが口を開いた。

    「ヘリオガバルスと巨石信仰には大きなつながりがある……一説では、ヘリオガバルスという音韻そのものが、この楯の名前からとられたものともいわれている……」

     怪しい! 怪しい! 怪しさ大爆発だ!

     そのとき、『怪しさ』自体が域値を超えた。

     大爆発が起こった。



    『……これこそが、俗にいう「ビッグバン」である。われわれの住む宇宙に、汲めども尽きぬ謎と神秘があるのは、実に、この宇宙の構成要素が「怪しさ」であるからにほかならない。われわれは、そのきっかけとなってくれた記者氏に……あれみんなどこへいくの?』(バカ田大学におけるポール・ブリッツ博士の講演記録より抜粋)
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    Re: レバニラさん

    人口増加の末に破綻をきたすでしょうなその宇宙(笑)

    リア充が域値を超えて起こったビッグバン後の新宇宙が楽しみです

    Re: 矢端想さん

    そもそもこの言葉、誰がいい出したんだろう、と思ってぐぐってみたら、かなり昔のファンロードの「魁!!宝竜黒蓮珠」 http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/2627/pohron1.html にまでさかのぼるようですね。それ以前は知りませんけれど。

    ちなみに「怪しさ大爆発」でググったら27000ヒットを超えてしまいました(^^;)

    笑い転げました。
    最後の講演で怪しさ大爆発。

    「怪しさ大爆発」・・・流行らそうとしてます?

    Re: 山西 左紀さん

    整合性だとか、歴史的事実とかは一切無視して、ひたすら「怪しい話」を書けばいいんだから楽だ、と思ったらけっこうこれはこれでたいへんでした(^^)

    「ムー」とかに寄稿しているライターの苦労がわかったような気がしました。

    こんばんは、

    楽しんでいますね!!!
    怪しさ大爆発……です。

    Re: ダメ子さん

    ああ、ここで書いてあるペダントリーは、小栗先生の「黒死館殺人事件」とは違って、全部適当なデタラメですから信じないように。こんな内容、オカルティストの前で語ったらバカにされるであります。

    Re: ゆういちさん

    実際にまじめな人だったらしいです。なにせトキワ荘で売れない少女漫画を描いていたブレイク前には、努力家の美青年で通っていたそうですから。「あいつがあんなギャグ漫画を描くとはだれも思っていなかった」と、藤子A先生のエッセイで読んだ覚えがあります。

    赤塚先生監修の子供向け漫画入門書も小学生のころ読みましたが、基本と、ひたすらな模写を重視する、非常にまじめな内容でした。マンガやイラストが描けたらいいな、という小学生らしい甘い思いを木っ端みじんに吹き飛ばした本でもあります(^^;)

    私も頭が爆発しそう

    こんばんはー


     同人誌届いたよウホホーイ!

     せっかく貰ったものなので即読させていただきます。
     読み応えがあってよかったぜよ(by竜馬)
     表紙もカラー絵でナイスですv-291

     本当に、ありがとうございました。
     私も色々と見習わねばと思いました~



     赤塚先生ってギャグ漫画家だけど、かなり真面目すぎるくらい真面目な人の様な気がしてならない私です。

     
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