「ショートショート」
    ユーモア

    作詞家の苦悩

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     彼は悩んでいた。スランプのど真ん中だった。

     自分の作る歌詞が、時代遅れのものとは思いたくなかった。だが、今の若いやつらときたら、彼のセンスからすれば考えられないような言葉のつなげかたをするのだった。

     どこのシュルレアリストが、「助詞」と「助動詞」の羅列だけからなる歌詞なんか思いつくんだ!

     このところ、ヒット作に縁のない彼には、貧困と失業の未来がありありと眼前に浮かんで来るのだった。

     しかし、歌詞の響きだけで勝負するにも、もうそれも限界に達していた。英語にとどまらず独仏西露韓ウルドゥタガログ語と、使える言語という言語は使ってしまっている。それに、聞こうと思えばいつでもどこでも、ネットの動画投稿サイトで現地のミュージシャンによる現地の歌が聞ける現在、単純によそから意味不明の単語の響きを持ってきても誰も驚きも感動もしないのだ。

     ……そうだ。

     彼はひらめいた。歌詞に、なにか意味を持たせようとしていたのが、少なくともその音韻には意味を持たせようと考えていた自分が間違っていたのだ。

     彼はペンを取り、心のおもむくままに、自分の内側からあふれ出てくる音を書き留めていった。



     担当は、彼が熱意を込め、推敲に推敲を重ね、シンプルでありながら、響きの点では美しさでも歌いやすさでも優れている力作を読み、溜息をついた。

    「どうでしょう?」

    「先生、書けなくなったからって、盗作をするのはどうかと思います。これって、『夜明けのスキャット』の丸写しじゃありませんか」

    「えっ……」



     彼はこめかみをぎりぎり押しながら悩んでいた。CD会社から、絶縁状を叩きつけられてしまったのである。

     明日の生活費……それを思い、彼は今日何度目になるかわからぬ叫び声を上げた。うるさい、とでも文句をつけに来たのだろうか、マンションの扉が、がんがんと叩かれた。



     そして今、彼は新進ロックバンドのボーカルとしてマイクの前に立っていた。たまたま知人の家に遊びに来ていた バンドのリーダーが、 彼の悲鳴に見事なまでのシャウトを感じ取り、その足で即スカウトに来たのだ。

     曲は彼の最高のヒット作より売れている。

     捨てる神あればなんとやら。すべて世はこともなし。
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    ~ Comment ~

    Re: レルバルさん

    まったくでありますな。

    わたしを拾ってくれる神はおらんのかのう。

    いやはやなんというか、なんというか。
    捨てる神あれば拾う神ありですね……。
    本当に、そう思います。

    Re: limeさん

    ほんとうにお好きですね『真夜中の相棒』。お勧めして良かったです。

    しかし、高村先生の作品にも、救いがないのはけっこうあったような気がするのですが。「リヴィエラを撃て」とか。

    今の時代、本当に何がヒットするかわかりませんからね。
    (でもやっぱり小説は正統なものが受けるんでしょうね・・・)

    うん、やっぱり救いがあってこその、物語です。
    救いがないのに大好きな作品は・・・「真夜中の相棒」くらいです^^;

    Re: YUKAさん

    最初は、声がかからなくなって、「どうしよう」というオチだったのですが、それじゃ面白くないと思い、変えました。

    やっぱり救いがあったほうがいいですものね(^_^)

    こんばんは^^

    思わぬ形で救われた~~^^
    人事を尽くして天命を……ってことで
    報われたのでしょうか^^

    私も拾ってもらおう!(笑)

    ……その前に人事を尽くさねばっ><。
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