「ショートショート」
    SF

    訴訟社会

     ←食通たちの耐えざる努力 →アルファポリス絵本童話大賞への応援ありがとうございました
     おれは怒り心頭に発していた。目の前の相手もそうらしい。

    「よよよくもそんなことを。訴えてやる。訴えてやるぞ」

     売り言葉には買い言葉、おれも携帯の端末に手を伸ばした。

    「けっこうだ。いくらでも訴えやがれ。おれには法律がついているんだからな!」

     おれと相手……いや、原告か。とは、同時に端末のボタンを押した。

     『公認簡易裁判所サイト』の見慣れた画面が出てきた。

     半分コンピュータに依存しているので、審判がくだるのが早い、というのがこのシステムの最大の売りだ。

    「当裁判所は、民法D77の項a89追補5に基づき、被告人の無罪を言い渡すものである」

     結果を見て、おれは笑った。

    「そうら見ろ。裁判所は、おれを支持したようだぜ」

    「ふん。そんなセリフは、これを見てからいうんだな」

     おれは相手の端末を見た。なんてことだ。

    「刑法U63附則y84により、被告人に罰金1000クレジットの支払いを命ずる」

    「相互控訴でいいか?」

    「かまわん」

     おれたちは互いに端末をリンクさせ、さらなる審判を求めた。

     五秒で審判は下った。

    「被告人は原告に和解金として100クレジット払い、和解すべきであると裁判所は考えるものである」

    「妥当か?」

    「粘っても仕方ないだろ」

     おれは相手に百クレジット硬貨を投げた。

    「それでビールでも買え」

     憤然として歩き去ろうとしたとき、おれと相手の端末が鳴った。

    「裁判らしい。あんたはどの事件?」

    「くだらないことだ。リオデジャネイロで、犬のクソで靴を汚した汚さないでもめているらしい」

    「おれの事件は、ノルウェーの寒村での夫婦喧嘩らしいな。どうだ? そこで飯でも食いながら考えてみないか?」

    「いいだろう。せっかくビールがあるんだからな」

     時代は進歩した。証拠集めも、調査も、法律や判例についてのデータ集めも、コンピュータとコンパクト捜査ロボットがたちどころに調べ上げてしまう。おかげであちこちで訴訟だらけ。

     本来ならばコンピュータが判決を下すべきなのだろうが、コンピュータにもできないことがあった。「良心に基づいて」判決を下すことだ。

     そうしたわけで、専門の弁護士や検事が駆り出されない事件は、「微罪裁判」として、市民の中で手の空いているものが務めることとなった。

     今や、地球上の全人類が裁判官なのだ。

     どうせ、考えられる妥当な判決案については、コンピュータが四択くらいにまで絞ってくれるのだ、これで良心に従った判決が下せなければウソだ。

     裁判官同士でかち合ったら、和解案を選べばいい。簡単なことだ。

     なんとなく、コンピュータに操られているような気もするが、気のせいだろう。

     どうせ、縁もゆかりもない人間だし、ヒマつぶしにはぴったりだ。

     おれたち微罪裁判官ふたりは、レストランに入って行った。どの判決を下すか、にやにやしながら端末を眺めているうち、おれたちの間で訴訟にまで発展した、足を踏んだ踏まないのいい争いは、すでにどこかへ消え去っていた。

     人類は進歩した。……よな?
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    Re: 面白半分さん

    微罪の裁判ですから、お金を払うもらうといっても微々たるものです。

    それだけコンピュータと各種ロボットの維持費が安い世界。

    ある意味ユートピアかもしれん(そうか?(^^;))

    人の微罪裁判を数件受け持てば
    自分の訴訟費用がタダになりそうですね。

    Re: 山西 左紀さん

    民主制の原点にまで退化したのかも。

    アテナイでは公職まで、誰にも不公平がないようにくじ引きだったそうですし。

    あはは!
    これ、とっても面白いです。
    手の空いている市民で裁判って
    すごい発想ですね。
    本当に進歩したのかも。
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