「弱肉雑食系(ラブコメ小説、不定期連載)」
弱肉雑食系・カット2「よくあるタイプじゃない隣人たち」
4コマめ・第一回作戦会議
「どうしよう」
ぼくは頭を抱えていた。
カノジョは、目はぎらぎらさせていたが、ぼくにはすでにそれが虚勢であることがわかっていた。それが証拠に、顔色はどこか青ざめているし、コーヒーに砂糖を入れる手はかすかに震えている。
「…………」
カノジョは無言でコーヒーをひと口飲み、目を閉じた。自分が、とんでもない状況になってしまったことを噛みしめているのだ。
「冴子は、わたしだったらどうする?」
ぼくたちが臨時の作戦本部にしたのは、舘冴子のアパートだった。自然と、舘冴子には作戦参謀の役があてがわれることになった。穏健派というよりは、確実に過激派、いやそれを通り越して武断派の『太刀冴子』は、ガソリンでいっぱいの火炎瓶みたいなセリフをぽんと吐いた。
「カレくん、あなたがカノジョを守るのね。それ以外に事態を打開する方法はないわ」
ぼくは口に含んだ熱いコーヒーを吹きだすかと思った。破滅的な事態になる前に、理性が働いてなんとか飲み下すことには成功したが、溶けた鉄の塊みたいな熱さが、舌を伝って喉をくだり、食道にイヤな痛みを残しながら胃袋に収まるまでの身もだえするような苦しみを味わった。比熱が高い、熱いものは、固体でも液体でも、一気に飲むのはやめたほうがいい。忠告だ。
「ぼ……ぼくが、カノジョを守る?」
「ほかにカノジョの味方になれるような男が、この街のどこにいるのよ」
舘冴子の言葉は、確かにその通りだったが。
「カノジョを守るにはどうすればいいというんですか?」
「ふむ、カレくん、カノジョを守る気はありありだと。きみの騎士道精神をほめてつかわす」
「冗談言っている場合じゃないでしょ、冴子。その顔つきだと、なにか妙案があるみたいね」
カノジョは優雅にコーヒーカップを受け皿に置いた。
「妙案を聞かせてもらうわ」
舘冴子は笑った。
「なに、簡単なことよ。カレくんが騎士道精神の持ち主だとわかった以上、これしかないわ。馬上槍試合」
「馬上槍試合?」
ぼくはその言葉の意味を三秒間考えて、はじき出されたおそるべき計算結果に身震いした。
「ぼくに、バックギャモンで、カノジョにいいよる男たちをことごとくやっつけろ、っていうんですか?」
「悪い頭はしていないわね。あの大学にいるのは惜しいことねえ」
「わたしが賞品で、男たちがそれを賭けるの?」
「不服?」
カノジョは、貧血かなにかでくらっとしたように目を一瞬閉じたが、気つけにするかのようにコーヒーを飲んだ。
「不服に決まってるでしょう!」
「じゃ、カノジョ、あなた、血……じゃなくてなにか別のものに飢えた獣のような男たちを敵に回して、平常心でバックギャモンができる?」
「なにもバックギャモンをしなくても。そうしないですむ道を探るためにぼくたちはここに」
ぼくは抗弁したが、舘冴子は人差し指を振った。
「ここまで噂が広がった以上は、実際にバックギャモンをしないとみんなあきらめないわよ。それに、実際にバックギャモンでなんとかすれば、単純なこの大学近辺の男たちは、ほんとうにあきらめる公算が高いわ」
「そうかなあ……」
ぼくは半信半疑だった。だが、現在の状況を考えれば、舘冴子の策に乗るしかなさそうだ。
「とにかく、カノジョになんとか五分五分に戦えるようになるまでは、腕を磨いておいた方がいいわね。そうでないと、守るどころじゃないからね」
「うー」
ぼくは何枚の日本国紙幣が財布から羽根を生やして飛んでいくかを考えて、別の意味でくらっとしそうになった。
ぼくは頭を抱えていた。
カノジョは、目はぎらぎらさせていたが、ぼくにはすでにそれが虚勢であることがわかっていた。それが証拠に、顔色はどこか青ざめているし、コーヒーに砂糖を入れる手はかすかに震えている。
「…………」
カノジョは無言でコーヒーをひと口飲み、目を閉じた。自分が、とんでもない状況になってしまったことを噛みしめているのだ。
「冴子は、わたしだったらどうする?」
ぼくたちが臨時の作戦本部にしたのは、舘冴子のアパートだった。自然と、舘冴子には作戦参謀の役があてがわれることになった。穏健派というよりは、確実に過激派、いやそれを通り越して武断派の『太刀冴子』は、ガソリンでいっぱいの火炎瓶みたいなセリフをぽんと吐いた。
「カレくん、あなたがカノジョを守るのね。それ以外に事態を打開する方法はないわ」
ぼくは口に含んだ熱いコーヒーを吹きだすかと思った。破滅的な事態になる前に、理性が働いてなんとか飲み下すことには成功したが、溶けた鉄の塊みたいな熱さが、舌を伝って喉をくだり、食道にイヤな痛みを残しながら胃袋に収まるまでの身もだえするような苦しみを味わった。比熱が高い、熱いものは、固体でも液体でも、一気に飲むのはやめたほうがいい。忠告だ。
「ぼ……ぼくが、カノジョを守る?」
「ほかにカノジョの味方になれるような男が、この街のどこにいるのよ」
舘冴子の言葉は、確かにその通りだったが。
「カノジョを守るにはどうすればいいというんですか?」
「ふむ、カレくん、カノジョを守る気はありありだと。きみの騎士道精神をほめてつかわす」
「冗談言っている場合じゃないでしょ、冴子。その顔つきだと、なにか妙案があるみたいね」
カノジョは優雅にコーヒーカップを受け皿に置いた。
「妙案を聞かせてもらうわ」
舘冴子は笑った。
「なに、簡単なことよ。カレくんが騎士道精神の持ち主だとわかった以上、これしかないわ。馬上槍試合」
「馬上槍試合?」
ぼくはその言葉の意味を三秒間考えて、はじき出されたおそるべき計算結果に身震いした。
「ぼくに、バックギャモンで、カノジョにいいよる男たちをことごとくやっつけろ、っていうんですか?」
「悪い頭はしていないわね。あの大学にいるのは惜しいことねえ」
「わたしが賞品で、男たちがそれを賭けるの?」
「不服?」
カノジョは、貧血かなにかでくらっとしたように目を一瞬閉じたが、気つけにするかのようにコーヒーを飲んだ。
「不服に決まってるでしょう!」
「じゃ、カノジョ、あなた、血……じゃなくてなにか別のものに飢えた獣のような男たちを敵に回して、平常心でバックギャモンができる?」
「なにもバックギャモンをしなくても。そうしないですむ道を探るためにぼくたちはここに」
ぼくは抗弁したが、舘冴子は人差し指を振った。
「ここまで噂が広がった以上は、実際にバックギャモンをしないとみんなあきらめないわよ。それに、実際にバックギャモンでなんとかすれば、単純なこの大学近辺の男たちは、ほんとうにあきらめる公算が高いわ」
「そうかなあ……」
ぼくは半信半疑だった。だが、現在の状況を考えれば、舘冴子の策に乗るしかなさそうだ。
「とにかく、カノジョになんとか五分五分に戦えるようになるまでは、腕を磨いておいた方がいいわね。そうでないと、守るどころじゃないからね」
「うー」
ぼくは何枚の日本国紙幣が財布から羽根を生やして飛んでいくかを考えて、別の意味でくらっとしそうになった。
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Re: ヒロハルさん
もともとかギャンブルゲームですから。
もちろんよい子はまねしてはいけません(笑)
もちろんよい子はまねしてはいけません(笑)
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Re: 鍵コメさん