FC2ブログ

    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・9月23日

     ←12コマめ・とことんまで変な勘違い男(?)たちの襲来 →13コマめ・基本ルール
    「やっぱりだめだわ」

     クロエさんは、木炭を置いてつぶやきました。視線の先では、グレンがパンのかけらを、両手で抱えてもぐもぐやっています。

    「グレンの絵が描けないのかい」

     横で見ていたエドさんは、妻の肩にそっと手を置きました。

    「そうなのよ。なにをやってもだめ。なにか、いいアイデアはないかしら」

     エドさんは、しばらく考え込みました。

    「そうだなあ……グレンの気分を変えてみるのはどうだろう?」

    「気分って?」

     エドさんは、窓のほうを指差しました。

    「学校さ。わたしがチェスを教えている学校で、子供たちといっしょに遊んでいる時間なら、もしかしたら絵が描けるかもしれない」

     クロエさんは、目をぱちぱちさせてから、肩に置かれたエドさんの手を両手で握り締めました。

    「それはいい考えね! わたしも、あなたがどんな顔をして子供たちにチェスを教えているのか、気になっていたのよ」

    「じゃあ、今日の午後、さっそく行ってみないか。校長先生、起きているかなあ」

     エドさんは携帯電話を取り出しました。

    「それはいいけど、今日は、マッキネンさんのところで、物置の掃除じゃなかった?」

     エドさんは、壁の時計を見ました。

    「あっ! 急いで行ってくる!」



     マッキネンさんの物置は、山のようなほこりとがらくたで埋め尽くされていましたが、エドさんはもっとすごい、市のごみの集積所で探し物をしたこともありました。それを思えば、まだましです。それでも、掃除には、午前中いっぱいかかってしまいましたが。

     校長先生に電話をかけると、ちょうどお昼を食べ終えた後で、話はすらすらと進みました。クロエさんのような有名な芸術家が来られるのなら、願ってもないとのことでした。

    「わたし、そうとう気難しいと思われていたのかしら。ちょっとショックだわ」

    「気にすることないさ。誰だって、思い込みというものはあるよ」

     いつもの自転車ではなく、青い自動車でやってきたエドさんを、登校してきた子供たちが、別人を見るような目で見ていました。

    「先生の車、かっこいい!」

    「乗せて、乗せて!」

    「この人、先生の奥さんですか? 思っていたより、すごく優しそうです!」

    「今日はなんの絵を描きに来たんですか?」

     わいわいがやがや。グレンは、エドさんの肩から、その様子を面白そうに眺めていましたが、こらえ切れなかったのでしょうか、子供たちの輪に飛び込んで、遊び始めました。

    「はい。遊ぶのは、チェスの授業が終わってからね。みんな、教室に行こう!」

     エドさんたちは、教室に入り、いつものようにチェスの授業を始めました。みんな、めきめきと腕を上げていました。エドさんも驚くような、難しい手を打つ子供までいます。

    「どこで覚えたんだい?」

    「インターネットのチェスのサイトです、先生。いろいろな手を教えてくれるんです」

    「うん。でも、その手は、あまりいい手じゃないな。たしかに効果的だけれど、その手は、『はめ手』といって……」

     エドさんは、はっとしました。

    「きみ、そのサイトの名前は!」

    「『地獄の国税局』って……」

     エドさんは頭を抱えました。ひととおり勝負が終わると、エドさんは黒板に、大きく「はめ手」と書きました。

    「みんな、チェスには、簡単に強くなったように錯覚する方法がある。『はめ手』といって、相手をだまして罠にかけるというものだ。だけど、この方法には欠点がある。相手が、そのはめ手を知っていたら、逆を突かれて簡単に負けてしまうんだ。そうしたはめ手をたくさん知っているよりは、正々堂々とした指しかたの基礎を覚えたほうが、何百倍も役に立つ。チェスに限ったことじゃない。普通の勉強でも、手っ取り早い丸暗記でAを取るよりも、Bでもいいから、基礎から、なぜそうなるかをしっかりと学ぶほうが、何百倍も役に立つ。やがてわかることだがね」

     子供たちは、しんとしました。思い当たることがあったのでしょう。



     帰りの車内で、クロエさんはいいました。

    「かっこよかったわよ、あなた」

    「そうかなあ? で、絵は描けたかい?」

     クロエさんは首を振りました。

    「どうしても、だめだったわ」

     黙りこむ二人と、あくびするグレンを乗せて、車は走っていきました。


    関連記事
    スポンサーサイト






     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    もくじ  3kaku_s_L.png X氏の日常
    もくじ  3kaku_s_L.png 読書日記
    【12コマめ・とことんまで変な勘違い男(?)たちの襲来】へ  【13コマめ・基本ルール】へ

    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    悪魔のすることには、必ず狡猾な企みがあります。

    エドさん最大の敵かもしれません、地獄の国税局。

    勝てるのかエドさん?

    Re: 有村司さん

    まあ、途中から読めば誰でも誤解するわな(^_^;)

    これから事態はさらに混乱の度を……って、明日のブログの更新が真っ白だ!

    どうしよう(^_^;)

    エドさん^^

    正々堂々^^

    しかし悪魔もあの手この手を考えますね~~

    ま、それが悪魔ですが^^;

    それは失礼しました!!

    てっきり、お子さんがお生まれになったものと…^^;

    闇は千の目をもつ…の読破は取りあえずおいておいて、しばらくエドさん詣でを続けますね^^;;

    Re: 有村司さん

    子供はまだです。グレンは、いたずら盛りの醜い小妖精、グレムリンです。チョイ役のつもりで出したらいつの間にか居ついてしまって、今やシリーズの縦糸に(^^;)

    人生はわからないもんですなあ。(^^;)

    ちなみにそこらへんの経緯をお知りになりたければ、1月15日、5月6日、5月13日の更新をご覧ください。

    エドさ~ん!!

    久しぶりのエドさん詣で、楽しく読ませて戴きました!!

    しかしエドさん…私がブログを休止している間に、お子さんが生まれてたんですねえ。感慨深いものがあります。

    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【12コマめ・とことんまで変な勘違い男(?)たちの襲来】へ
    • 【13コマめ・基本ルール】へ