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    「弱肉雑食系(ラブコメ小説、不定期連載)」
    弱肉雑食系・カット2「よくあるタイプじゃない隣人たち」

    16コマめ・愚かなる者はむさぼり食われる

     ←15コマめ・餓狼どもの惨劇 →17コマめ・幕間
     モニタで見たところ、諏訪蓮太郎は、自負するに値する脳細胞の持ち主のようだった。大胆すぎるように見えるコマの動かしかたも、よく見るとリスクとリターンをきっちり計算した上でのことだし、相手にダブルをかけさせ、スコアを釣り上げていく腕もなかなかのものだ。下手をしたら、カノジョでも手こずる相手ではなかろうか。こいつ、卒業したら、鼻持ちならないエリート意識丸出しの国家公務員か、ベンチャー経営者になるに違いない。

     画面が変わった。馬場アンドレイが映った。あの男、きっと暴力にものをいわせて……と思っていたら、違った。諏訪蓮太郎のそれと、大差のない腕の持ち主だ。あんな、日本語もおぼつかないようなやつがなぜ、と考えたとき、ぼくは、はっと気がついた。あの男にとって、おぼつかないのは日本語だけなのだ。帰国子女か、海外留学生かは知らないが、正々堂々と入試を受けて他国の大学に入れた男が、悪い頭の持ち主であるはずがない。こんなやつに勝てるのか。

     またしても画面が変わった。一瞬、画面がおかしくなったのかと思った。燃えているかのように見えたのだ。錯覚だった。プレイしていたのは百合根美亜だったのだ。カノジョのそれとは次元の違う、地球上に生きる全男性に対しての鬼気迫るというもおろかなオーラを浴びて、たじたじにならない相手はいなかった。たぶんぼくでもたじたじになるだろう。音声こそ入っていないが、その口の動きから察するに、サイコロを振るごとに「お姉さま!」と叫んでいるのは明白だったからだ。

     こんなやつらを相手に、深刻な人間嫌いを除けばただの一般人にすぎないぼくが、どう戦えと。

     頭を抱え込みたくなるのをぐっとこらえて、ぼくはさらにモニタを見た。ちょうど画面が変わったところだった。

     十文字京が映った。その姿を見た瞬間、こいつは百合根美亜とは別の意味でやりづらい相手だ、ということがわかった。なにせ、サイコロを振る前には、必ずひざまずいて大地にキスをし、聖句なのか呪文なのかわけのわからない言葉をぶつぶつつぶやきながら、礼拝をするのだ。こんなやつとプレイしていたら、来るべきツキも来なくなってしまう。そして出目から見る限り、十文字京のサイコロ運は絶好調だった。神の奇跡だの加護だの啓示だのが実在するのかどうかは知らないが、これで負けたら信者のひとりになってしまいそうである。

     画面が変わった。佐分利原夫が、とろんとした目で相手プレイヤーを見つめていた。そういう趣味がない男には、そんな状況下でプレイするのはさぞ辛かろう。結局のところ、相手は戦局が少しでも不利になると、佐分利原夫のダブルを断って、降伏し、スコアを献上してしまうのだ。

     そして……。

     おおっ、という声が一部から聞こえてきた。モニタの映像が切り替わった。映っていたのは、清野甲一郎だった。相手の姿はよく見えない。盤上を見てみると、清野甲一郎が圧倒的に有利な体勢を作っていた。なんでそんなに騒いでいるのかと思えば、ダブリング・キューブを見ると、今、清野が六十四倍のダブルをかけたらしい。しかも、清野がすでに、上がりにかかっているのに、その相手はバーにコマを、要するに振り出しからやり直さねばならないコマを抱えている始末。どう考えても投了だ、と思ったら、相手はそのダブルを受けた。バカ、ここで降伏しておけば、相手に与えるスコアは三十二点で済むのに。

     清野甲一郎はサイコロを振り、さらにコマを進めた。

     名の知れぬ相手は、どうやらそこでダブルをかけたらしい。清野甲一郎は当然、受ける。「128」と書かれたカードが場に置かれた。相手はサイコロを振った。盤にコマを戻すことはできなかった。

     どうやら、清野甲一郎は、これまでの遊び人生活の中で、バックギャモンについてはかなりの腕前になっていたらしい。弱い相手を食い物にすることはお手のものだろう。清野はダブルをかけた。驚いたことに、相手は降伏せず、それも受けた。テーブルには「256」のカードが置かれた。清野甲一郎はサイコロを振った。その顔がしかめられた。いつでも上がれる体勢に入ったものの、清野のゴールエリアの「6」のマスに孤立コマを作ってしまったのだ。

     名も知れぬ相手プレイヤーは、サイコロを振った。清野の顔が蒼白になった。六のぞろ目。バーに置かれていたコマは、見事に孤立コマをヒットしてバーに送り込むと、そのまま猛スピードで盤上を走り、安全地帯へ逃げ込んだのである。

     清野甲一郎にとって、逆境は耐えるものではないらしかった。その後の清野の悲惨にもほどがあるサイコロ運(なにせ何回振ってもバーのコマを盤上に戻せないのだ)と、かたや正体不明の相手プレイヤーのほうは、目を見張るような六のぞろ目攻勢で、次々とコマを進め、進めただけではなく、次から次へとコマを上がりにしていく。

     清野のコマが盤上に戻ってきたときには手遅れだった。このゲーム中、何度となく振られた六のぞろ目により、その得体の知れないプレイヤーは、最後のコマ四個を上がりにした。

     最高の勝ち方、いわゆる「バックギャモン勝ち」だった。この勝ち方をすると、ゲームの基本点は三点になる。

     どよめきが伝わってきた。スコアは、3×256=768点。

     いったい誰だ、こんな異常な勝ち方をしたやつは!

    「……第一次予選終了です。一位、768点……」

     かたずを飲んで聞いていたぼくは、読み上げられた名前に、ひっくり返りそうになった。

    「葛西清志さんです!」

     モニタに映ったその顔は、まさしく健全交際活動委員会の、葛西委員長に間違いなかった。
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    Re: limeさん

    だって、ここでかっこいい男なんか出したら、読者の大半はカレくんよりそっち応援するでしょ(^_^;)

    劇的な勝ち方をしたのは誰だ。
    どんなイイ男だ! 初登場か?
    と思ったら、健全交際活動委員会!
    振り出しにもどったような、歯痒さですっ。
    でも、ほかのだれが勝っても、歯痒いのだった。
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