「弱肉雑食系(ラブコメ小説、不定期連載)」
弱肉雑食系・カット2「よくあるタイプじゃない隣人たち」
19コマめ・これをバックギャモンといえるのか
第二次予選第二回戦。
葛西委員長が、鼻息も荒く、バックギャモンのテーブルに上がってきた。
百合根美亜が、冷徹な顔でその前に座る。
互いにサイコロをひとつカップに入れ、盤の上に振り出した。5の2。委員長の先攻。悪くない目である。コマを漸進させつつも、安全地帯に送れるからだ。
葛西委員長の鼻息は荒い。
百合根美亜は口での攻撃に出た。
「あなたの噂は聞いているわよ。もてな……」
「うおおおおおおお!」
葛西委員長は涙を流していた。
「聞いたか、同志諸君! おれは、おれは、女の子とゲームをやっているぞおおおおおおお!」
ぼくは、地面が四十五度傾いたかのような錯覚を覚えた。たぶん、健全交際活動委員会のメンバー以外の全員が、そうだったと思う。
「あのね。あたしがいってるのは……まあいいわ」
委員長のムーブを見てから、百合根美亜はダイスカップを取った。優美な手つきでサイコロをカップに入れて、振り出した。
1と2。最低だ。百合根美亜はかすかに眉をひそめた。
「見なさいよ。もてな……」
「同志諸君んんんんんんん! 見たか、おれは、おれは、女の子と会話しているぞおおおおおおおおお!」
みんな呆れ果てて失笑すら起こらない。そんな中で、泣いている人間たちがいた。むろん、健全交際活動委員会の面々である。
「委員長……」
「あの委員長が……」
「おれたちもいつか……」
「あの人についてきてよかった……」
葛西委員長についていくのが正解かどうかは知らないが、それが百合根美亜に与えた心理的圧迫感はかなりのものだったらしい。
「やあねえ、もて……」
「おれはもう涙で前が見えないいいいいいいいい!」
「だから、そうじゃ……」
「同志諸君! 絶対矛盾的自己同一の真理により、革命の、全世界総革命の日は近いぞ! 夢は現世となり、現世は夢となるのだ!」
「う、あの、え……」
「あ、そのコマ、ヒット」
「……………………」
気がついたときには、虚脱状態の百合根美亜の前で、コマをすべて上がりにした葛西委員長が、万歳三唱をしていた。むろん、ともに万歳するのは、健全交際活動委員会のメンバーたちのみである。
「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! ……百合根さん、後でまた一度、ゲームどうですか」
「お断りよ……」
涙と汗とでぐちゃぐちゃな顔をした委員長の前から、百合根美亜は、口元を押さえつつ退散した。人ごみが、モーセが紅海を割るかのように、さあっと二つに割れた。行き先を問うものはいなかったが、十中八九トイレだろう。
ぼくの片頭痛はひどくなる一方だった。
でも、次の試合は見どころがありそうだった。この大会の中で、最も理性的なムーブをしていた、諏訪蓮太郎と馬場アンドレイの試合である。
「あなたとは第二次予選の決勝で当たると思ってました」
「おれも、そうだ」
「楽しいゲームになりそうですね」
パスタ郎はその細長い顔に不敵な笑みを浮かべた。
小山のようなごつい身体をした馬場アンドレイもうなずいた。
「お前、いい戦士。戦士に対しては、おれの村、とるべき作法がある」
ぐっと拳が握られ、丸太のような両腕が風を巻いて動くと、ふたつの拳は額の先でばちっと音を立てて合わされた。
「おれの村での戦士への礼」
馬場アンドレイは、そういうと拳を開き、つまらなそうにいった。
「スタッフ」
手のひらには、それぞれ真っ二つに割れた、二個のサイコロが乗っていた。
「すまない。備品、壊してしまった。代わり、頼む」
代わりのサイコロが運んでこられ、馬場アンドレイはひとつをカップに入れた。
「さあ、やれ、戦士よ」
パスタ郎の腕は、なぜかがくがくと震えていた。武者震いでないことだけはぼくにもよくわかった。
勝負の展開と結末は、ここに書くまでもないだろう。馬場アンドレイのワンサイドゲームによる勝利。
ぼくはゲームをする前から疲れきった。
誰かまともにプレイをするやつはいないのか。
葛西委員長が、鼻息も荒く、バックギャモンのテーブルに上がってきた。
百合根美亜が、冷徹な顔でその前に座る。
互いにサイコロをひとつカップに入れ、盤の上に振り出した。5の2。委員長の先攻。悪くない目である。コマを漸進させつつも、安全地帯に送れるからだ。
葛西委員長の鼻息は荒い。
百合根美亜は口での攻撃に出た。
「あなたの噂は聞いているわよ。もてな……」
「うおおおおおおお!」
葛西委員長は涙を流していた。
「聞いたか、同志諸君! おれは、おれは、女の子とゲームをやっているぞおおおおおおお!」
ぼくは、地面が四十五度傾いたかのような錯覚を覚えた。たぶん、健全交際活動委員会のメンバー以外の全員が、そうだったと思う。
「あのね。あたしがいってるのは……まあいいわ」
委員長のムーブを見てから、百合根美亜はダイスカップを取った。優美な手つきでサイコロをカップに入れて、振り出した。
1と2。最低だ。百合根美亜はかすかに眉をひそめた。
「見なさいよ。もてな……」
「同志諸君んんんんんんん! 見たか、おれは、おれは、女の子と会話しているぞおおおおおおおおお!」
みんな呆れ果てて失笑すら起こらない。そんな中で、泣いている人間たちがいた。むろん、健全交際活動委員会の面々である。
「委員長……」
「あの委員長が……」
「おれたちもいつか……」
「あの人についてきてよかった……」
葛西委員長についていくのが正解かどうかは知らないが、それが百合根美亜に与えた心理的圧迫感はかなりのものだったらしい。
「やあねえ、もて……」
「おれはもう涙で前が見えないいいいいいいいい!」
「だから、そうじゃ……」
「同志諸君! 絶対矛盾的自己同一の真理により、革命の、全世界総革命の日は近いぞ! 夢は現世となり、現世は夢となるのだ!」
「う、あの、え……」
「あ、そのコマ、ヒット」
「……………………」
気がついたときには、虚脱状態の百合根美亜の前で、コマをすべて上がりにした葛西委員長が、万歳三唱をしていた。むろん、ともに万歳するのは、健全交際活動委員会のメンバーたちのみである。
「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! ……百合根さん、後でまた一度、ゲームどうですか」
「お断りよ……」
涙と汗とでぐちゃぐちゃな顔をした委員長の前から、百合根美亜は、口元を押さえつつ退散した。人ごみが、モーセが紅海を割るかのように、さあっと二つに割れた。行き先を問うものはいなかったが、十中八九トイレだろう。
ぼくの片頭痛はひどくなる一方だった。
でも、次の試合は見どころがありそうだった。この大会の中で、最も理性的なムーブをしていた、諏訪蓮太郎と馬場アンドレイの試合である。
「あなたとは第二次予選の決勝で当たると思ってました」
「おれも、そうだ」
「楽しいゲームになりそうですね」
パスタ郎はその細長い顔に不敵な笑みを浮かべた。
小山のようなごつい身体をした馬場アンドレイもうなずいた。
「お前、いい戦士。戦士に対しては、おれの村、とるべき作法がある」
ぐっと拳が握られ、丸太のような両腕が風を巻いて動くと、ふたつの拳は額の先でばちっと音を立てて合わされた。
「おれの村での戦士への礼」
馬場アンドレイは、そういうと拳を開き、つまらなそうにいった。
「スタッフ」
手のひらには、それぞれ真っ二つに割れた、二個のサイコロが乗っていた。
「すまない。備品、壊してしまった。代わり、頼む」
代わりのサイコロが運んでこられ、馬場アンドレイはひとつをカップに入れた。
「さあ、やれ、戦士よ」
パスタ郎の腕は、なぜかがくがくと震えていた。武者震いでないことだけはぼくにもよくわかった。
勝負の展開と結末は、ここに書くまでもないだろう。馬場アンドレイのワンサイドゲームによる勝利。
ぼくはゲームをする前から疲れきった。
誰かまともにプレイをするやつはいないのか。
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Re: YUKAさん
もしかしたら、わたしはとんでもないパンドラの箱を開けてしまったのではないかと、ふと。
エドさんのほうはどんどんシリアスになっていくのに(^_^;)
まあ今週末にも大会は終わりますので、どうかおつきあいください。
エドさんのほうはどんどんシリアスになっていくのに(^_^;)
まあ今週末にも大会は終わりますので、どうかおつきあいください。
まともな。。。
無理ですね(笑)
らぶは勝者に与えられるはずなので
今はコメディー一色ですね(笑)
疲れる気持ちはわかる気がしますが^^
キャラが濃くっておかしいです^^
無理ですね(笑)
らぶは勝者に与えられるはずなので
今はコメディー一色ですね(笑)
疲れる気持ちはわかる気がしますが^^
キャラが濃くっておかしいです^^
Re: limeさん
初期に比べて、後期は完全にラムとあたるの話になってしまいましたからねえ。
ラムがセーラー服を着たころからでしょうか、ターニングポイントは。
異論は認めます。
ラムがセーラー服を着たころからでしょうか、ターニングポイントは。
異論は認めます。
そっか!「うる星」って、ラブコメだったのですね!
(そうか、私はラブコメの何たるかをわかってなかったんだ)軽くショック。
でも、らんまはラブコメだって、わかる^^
(そうか、私はラブコメの何たるかをわかってなかったんだ)軽くショック。
でも、らんまはラブコメだって、わかる^^
Re: limeさん
えっらぶこめって、こういうおはなしのことじゃないんですか(棒読みのうえに、完全にどこか間違っている(笑))
「うる星やつら」を見ているようなテンションになってきました。(古)
いや、これはきっと緻密な心理戦なのですね。
いや、これはきっと緻密な心理戦なのですね。
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Re: レルバルさん
諏訪蓮太郎くん、意外と存在感あるな。(そうか?)