「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・10月14日

     ←西幻響子さんイラスト! →殺人焼き芋屋
     村に一軒しかない病院の前には、緑の森の村人たちが心配そうな顔をして集まっていました。エドさんとクロエさん、それにグレンも、もちろんその中に含まれていました。気難しいがみがみおばあさんでしたが、みんな、アリントン夫人のことが心配でたまらなかったのです。

     この病院の跡継ぎである、大学を出て五年目の若い医師が、村人たちの前に姿を現しました。

    「アリントンさんの脳梗塞ですが、病状はいい方向に向かっています。発見が早かったのがよかったんです。あと十分、発見が遅れていたら、病状はより深刻になっていたでしょう」

     エドさんはそのときのことを思い出して、顔色が青くなりました。もし、家を出て車に向かうまでの間に、急にトイレに駆け込みたくならなかったら……。

    「じゃ、おばあさんはすぐに元気になるんだね!」

     ラインスターくんがそう叫び、みんなは、ほっと、息をつきました。

     医師は首を振りました。

    「わたしが、いい方向に向かっているといったのは、あくまでも、最悪の事態と比べてのことです。アリントン夫人には、これから、とてもたいへんなリハビリテーション、身体機能回復の訓練を行ってもらわなければなりません」

    「……どんな後遺症が出てきたんですか?」

     エドさんの質問に、医師は感情を抑えた声で答えました。

    「運動機能の低下はいろいろありますが、いちばん深刻なものは、失語症です。しゃべったり書いたりすることはおろか、頭の中で『言葉』をまとめること自体が難しくなっています。投薬と手術で、できることはすべてやりましたが、言語機能、つまり、普通にしゃべったり書いたりできるようになるまでは、もっとも楽観的な見通しでも、数か月はかかるでしょう。数週間以内、ということは、まずありません」

     村人の誰かがいいました。

    「悪魔だ! ……悪魔がやったことに違いない! おれは前からあのよそ者が……」

     エドさんは、後悔の念に、身体を火であぶられるかのようでした。もし、自分が、アリントン夫人をこの問題に巻き込みさえしなければ、夫人は……。

    「今しゃべった人間は悔い改めなさい!」

     医師がなにかいおうとするまえに、鋭い声がしました。司祭さまです。司祭さまは、ぶるぶる震えていました。それが恐怖からではなく、怒りからのものであることは、すぐにわかりました。

    「わたしは、神に仕えるものとして、どこを探せば悪魔がいるのかを知っています。悪魔がもっとも好んで住み着くのは、ほかでもない、わたしたちの心の中です。恐怖と、暴力をぶつけるためのいけにえ探しをしようとする心、それがすなわち悪魔そのものなのです。わたしたちの先祖は、それを理解していなかったために、いいように悪魔に操られ、恐るべき災いをこの世にもたらしてしまいました。悪魔に憑かれた人間たちは、神の名のもとに、友人たちを、仲間たちを殺していきました。それを、『狂信』といい、『魔女狩り』といいます。わたしたちの教会は、それを深く反省し、『寛容』、すなわち、相手の行動の理由を考え、許し、暴力を使うことの誘惑にはぎりぎりまで耐える、そのような生き方を正しいものであるとしたのです」

     そこまで一気にしゃべった司祭さまは、肩で息をつきました。

    「……さて、わたしたちには、悪いことはなんでもかんでも悪魔のせいにするよりも、もっとやるべきことがあるはずです。それは、冷静に、医師の話を聞くことです」

     医師は額の汗をぬぐいました。

    「医学的な目から見れば、アリントン夫人を襲った脳梗塞は、悪魔とはなんの関係もありません。夫人には前から、TIA、すなわち前兆となる発作や諸症状がありました。視野が狭くなったりとか……」

     エドさんは、アリントン夫人が、一月、あの雪の庭で、足元に落ちた眼鏡に気がつかなかったことを思い出しました。

    「これまでにも何度となく、検診を受けるよう勧めましたが、頑として病院には来たがらなかったのです。今にして思えば、首に縄をつけてでも引っ張ってくるべきでした」

     小声でクロエさんがいいました。

    「……あなた、これからどうするの?」

     エドさんは答えました。

    「あの人に来てもらおう。アリントン夫人がなにに気がついたのかは、伯爵閣下に直接聞くしか、知る方法がないからね」


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    Re: YUKAさん

    伯爵閣下は公人ですから、そう簡単には自由になれないのです。

    代わりに別な人が来ますのでよろしく(^^)

    こんにちは^^

    どうなる事かと思いましたが
    アリントン夫人、助かってよかった。

    何があったかは伯爵が語る――でしょうか?^^

    もう、楽しみで^^
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