「ショートショート」
    ホラー

    バックアップ

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     バックアップはまめにしないといけない。とはよくいわれるが、忘れやすいものである。ブログの今日の記事を書き終えたわたしは、昨今の嫌煙権運動で、おちおち吸えなくなった煙草を口にして、マウスをクリックした。バックアップを、外付けハードディスクに記憶させるのだ。

     パソコンから離れて、ライターで火をつけ一服し、明日書くはずのネタを考えた。バックアップをネタに、なにかひとつ書けないかな……?

     アイデアはまとまらなかった。わたしは吸殻を灰皿に押し付けて火を消すと、パソコンのモニタを見た。

     なんだ、これは?

     転送データの量がぐんぐん、うなぎのぼりのように上がっていく。ここ三年の活動で10メガバイトくらいしか書いていないはずなのに、20メガ……40メガ……200メガ……400メガ……1ギガ……30ギガ……60ギガ……120ギガ……。

     最終的に、データはハードディスク容量いっぱいの、1テラバイトにまで膨れ上がった。

     わたしは、いったいどんなウイルスにやられたんだ、と、画面を戻した。

     目を疑った。

     作品リストには、二十年先まで、わたしが見たこともない、しかしわたしが書きそうなタイトルの小説ばかりが並んでいたのだ。

     ショートショートを選んでひとつ読んでみた。まだ読んだことはないが、わたしが書いているのに間違いない内容のものだった。

     ハードディスクをまざまざと凝視し、わたしは、なにが起こったのかを悟った。

     この中には、わたしがこれから書くであろう小説や文章が、全部、ひとつ残らず入っているのだ。

     わたしは乾いた声で笑い出した。

     もう、このブログで、いや、この文筆活動でわたしができることは、なにもないのだ。



     わたしはライターを見つめている。ハードディスクを見つめている。パソコン本体を見つめている。

     優柔不断なせいか、いくら考えても答えは出ない。

     このまま焼身自殺をするか、この読むのに何年かかるかわからないようなハードディスクを打ち壊すべきなのか、すでにサーバーに送られてしまっただろうデータをすべて抹消するか。

     かわりに漏れてくるのは、わたしの乾いた笑い声だけだ。

     自分の笑い声を聴いていると、おかしな想像がこみあげてくる。

     これはすべて、わたしの妄想ではないのだろうか。わたしは、空白の画面と、空っぽに近いハードディスクの前で、妄想に陥って、ひとりくつくつ笑っているだけではないのだろうか。

     試してみようか。

     ライターに手を伸ばし、火をつけてみる。

     炎はゆらゆらとゆれている。わたしは笑いながら炎の上に手をかざす……。

     最悪の場合でも、たいしたことにはならないだろう。

     わたしのバックアップは、ほら、この部屋の隅で、頭から血を流し、気を失って倒れているんだから。どっちがオリジナルかは忘れたが、どっちも同じデータなのだ。そうさ、たいしたことじゃない。

     たいしたことじゃないんだよ。
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    ~ Comment ~

    Re: limeさん

    わたしの書くホラーでは、スーパーナチュラルなことはなにも起こっていないことが多いです。

    もちろんこれも、超自然やSFの世界とはなんの関係もない話であります。登場人物は二人。ブログ作家と、そのバックアップ関係にあると信じ込んでいる人物。それに小道具としてパソコン一台。

    わかりづらかったかなあ?

    時間を超越したバックアップの話か・・・と思ったら、ホラーなのですね。
    自分のバックアップかあ・・・。

    いらないなあ><
    ポイッて、捨てちゃいたい。

    でも、自分がこれから書くであろう物語は、読んでみたいです。

    ところで、FC2のバックアップって、どうやってとるんでしょ。
    簡単ですか?
    ・・・あ書いてあった。読んでみます。

    Re: いもかるびさん

    よく考えると元に戻るわけがないのに、一晩寝ると事態が好転しているかもしれない、と思ってしまうのは人間の業ですかねえ(^^)

    一晩寝れば、という信仰みたいなものがあるのも、われわれ日本人の島国根性ゆえでしょうかねえ(^^;)

    動画製作中にマシンが負荷に耐え切れなくなってクラッシュした悪夢を思い出します。
    データは外受けに退避させてものとクラッシュしたPCもハードディスクの中身が運良く吸い出せたので助かったんですが。

    そういえば壊れた時って自分では相当とりみだすだろうなーって思っていたんですが妙に仙人モードだったのも覚えてます。

    「とりあえず今日は寝るか・・・明日治ってるかもしれないし・・・・。」

    Re: 矢端想さん

    サイコホラーを書いたはずだったのにもしかしたら誰もサイコホラーと思ってくれなかったオチ?(^^;)

    Re: レルバルさん

    レルバルさんもお気をつけを。うっかりしていると、ある日これまで書き貯めた「怪盗な季節」が全部……(^^;)

    老博士が意識をロボットに移植して生きながらえるという話を、子供の頃光瀬さんだか眉村さんだかのSFで読みました。SFではこういうコピーやクローンの話がたまに出てくるんではないかと思いますが、「心」とか「パーソナリティ」の定義の問題というのはSFの永遠のテーマですね。


    あっ・・・これ「ホラー」だった!!

    バックアップって大事ですよね。
    本当にこまめにしなくては。

    こまめが小説家の命を救うのですね。
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