「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・10月21日

     ←調子悪いです →断片002「ルジェは賜った針を」
     町の駅で、エドさんは、七月に会って以来の顔を見て、手を振りました。

    「グィドさん、お待ちしておりました」

     グィド老人は頭を下げました。

    「伯爵閣下からの書簡です。閣下は、公務のため自分がここに来られないことを、深く嘆いてらっしゃいました」

    「そのことなんですが」

    「そちらからのEメールは読みました。わたくしに答えられることならば、いくらでもお答えいたします。その前に、アリントンさまは?」

    「入院中です。医者の話だと、基本的に面会お断りだそうです」

    「あの聡明でお美しかったかたが。なんということに」

    「代わりに、うちへいらしてください。あばら家みたいなものですが」

    「ありがとうございます」

     エドさんとグィド老人は、そろって車に乗り込みました。

    「アリントン夫人から、伯爵閣下は、宗教上のシンボル的存在だとうかがったのですが」

     助手席で、老人はうなずきました。後部座席に座ってください、というのを老人は固辞したのです。

    「そうです。伯爵家の祖先をたどると、古代ギリシア時代の神秘思想教団のひとつに行き当たります。とはいえ、基本的に穏健派でしたから、じきにキリスト教に飲み込まれてしまいましたが」

    「なるほど」

    「たしかに、まだいくらかの名残はあります。とはいえ、ミトラ教の冬至の祭りが、今に至ってクリスマスになった例と同じようなものですから、たいしたものではありません」

    「ということは、儀式などは?」

    「もうほとんど残っていません。もしも、伯爵閣下がほんものの魔術師だったら、異端審問で伯爵家は絶えておられるでしょう」

     エドさんは、ハンドルを握りながら考えていました。

    「ほとんど、とおっしゃいましたが、その名残は、どこらへんに残っているのですか?」

    「結婚式とか、葬式とかいったときに少々。それと、伯爵家の礼儀作法に……」

    「礼儀作法ですか。礼儀……えっ! 礼儀作法?」

    「そうですよ」

     エドさんは、顔をこわばらせました。

    「それは、どんな形で残っているのですか? 例えば、晩餐の席などでは?」

     グィド老人は、眉根を寄せました。

    「そうですね……伯爵領で、貴人を迎えるための正式な作法では、過去の儀式がかなり色濃く残っています」

    「……それだ!」

     エドさんの頭は、フル回転を始めました。

    「伯爵閣下は、まるでグレンを、あたかも高位の貴族のようにもてなしていましたね。あれにも、古代の神秘主義の儀式に似た作法が取り入れられていたのですか?」

    「なるほど、おっしゃりたいことはわかりました。伯爵閣下が戯れにした作法が、悪魔を呼んだのではないか、ということですね。わたくしの意見を率直に申しますと、それは、伯爵閣下と領民に対する、ひどい侮辱です。伯爵領でそんなことをいったら、たちまちのうちに追い出されてしまうでしょうな」

    「いや、わたしがいいたいのはそういうことではなくて、そうした儀式によって、あのグレンにかけられていた魔術が打ち破られたのではないか、ということです」

    「たしかに、あの礼法には、『清め』の儀式が形を変えて残っていますが……」

     エドさんは、ひとこと、ひとこと、かみしめるようにいいました。

    「伯爵閣下は、グレンとの会食時に、戯れで古代の儀式にのっとる礼法をした。それにより、グレンを悪魔の手から守っていた魔術まで、『清め』られてしまったんでしょう。結果、グレンは悪魔に目をつけられた」

    「……なるほど」

    「伯爵閣下の善意が、このような形で裏目に出るとは、誰も予測しようがありませんよ。それこそ、悪魔でさえも。この推測が当たっていたらの話ですが」

    「こんなことにさえならなければ、なんとしてでも伯爵領にお連れするのですが……何も力になれない自分が歯がゆいばかりです」

    「グィドさん、明日からはどうなさいますか? アリントン夫人が健康な身体に戻るまで、こちらに?」

     グィド老人は首を振りました。

    「明日いちばんの飛行機で帰ります。書庫を探してみましょう」

    「ありがとうございます」

     エドさんは、ハンドルを強く握りました。


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    Re: YUKAさん

    これから、反則ものの小技(なんじゃそりゃ)をバシバシ繰り出しますので、あと二か月ちょい、どうかお楽しみください。

    ぜったい満足させてみせます!

    こんにちは^^

    私はだいぶ復活しました。
    ポールさんは大丈夫でしょうか?

    そうか。
    善意の儀式が。。。
    全く、ポールさんは素敵なアイデアを次々と^^
    読んでいて楽しいです^^
    書く方は大変でしょうけど(笑)

    ではでは、お大事に^^

    Re: limeさん

    どっちもどっちですね。

    エドさんは、正座してパソコンの前で書かないと原稿ができませんが、幻想帝国のほうは、横になってスマホからでも更新ができる。ただし、書くことの難しさは、それとはまた違う問題です。

    エドさんは、ある種、きっちり型が決まっているので、書いていて、方向性さえ見えていれば書き切れるという安心感があるけれど、幻想帝国のほうは、「熱に浮かされたような」文章を、勢いを保ったままどう書くか、非常に悩みます。

    それを考えると、「アポロの彼方」を書いたバリー・マルツバーグ先生も、翻訳した故・黒間尚先生も、よくやるよまったく。

    寝ます。

    伯爵は、やっぱりちょっと余計なことをしたようですね。
    元に戻せるのか、エドさん。

    少し前に始まったSFファンタジーと、エドさん。
    同じ作者のものと思えないタッチの違い。
    ポールさん的には、どちらの方が書きやすいのでしょう。

    風邪は、どうですか?
    生姜湯、飲んでますか?

    Re: レルバルさん

    う、すまん。

    寝る。

    これがほんとの「ウスマン・ネルコ」といって(←頭に熱が回ってきたらしい)

    風邪はもう治ったんですか?
    ポールさん、無理は駄目ですよ。
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