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    「ショートショート」
    ミステリ

    殺人焼き芋屋

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    「いしやーきいもーやーきいもっ」

     寒風吹きすさぶ夜の街で、わたしは小腹が空くのを覚えた。

    「おじさん、一本、熱いのをくれないか」

     リヤカーを呼び止め、冴えない中年男の焼き芋屋から、一本、熱々ではあるが、貧相な、という言葉がよく似合う芋を受け取り、食欲のままにかぶりついた。

    「あっちっち。うまいね」

    「そうでしょう。なにしろ、血と汗でこしらえたものですからね」

     わたしたちは、世間話を始めた。当然のごとく、話は例の、連続強盗殺人事件へと移るのである。

    「誰がやっているのかなあ」

    「さてねえ。目撃者もいないし、完全に、物取り目的の犯行らしいから、被害者も、法則性を見つけられないみたいですよ」

    「愉快犯じゃないかと思うね、わたしは。金を取るのは二の次で、自分の歪んだ欲望のために、そう、ストレス発散にささやかな小遣いがつく、そういうものじゃないか、とね」

    「世の中の不景気はそんな、なまやさしいものじゃないですよ。生活、すべてはそのためです」

    「夢がないな」

    「希望もありませんや」

     焼き芋屋は、釜の温度を見ているようだった。

    「もう一本追加」

    「へい」

     焼き芋屋は振り返ると、わたしに、さっきよりはいくらかましな焼き芋を渡した。

    「例えばですがね、最近じゃ、ディスカウントストアなんかに行けば、焼き芋が、ケースに入っていくら、という値段で売っているわけですよ。格安で。うちみたいな零細は、太刀打ちできない。味で対抗、っていっても、限度がありますからね」

    「ふうん」

     ちょっと汗が出てきた。

    「それで、殺人犯の心も見当がつくと? 実は、殺人犯の正体は、きみだったりしてな」

     焼き芋屋は苦笑いした。

    「殺人焼き芋屋ですか。冴えないにも、ほどがあるってもんですよ」

     焼き芋屋は、意地の悪い目で、わたしを見た。

    「実は、旦那じゃないんですか? 懐には、焼き芋の代金を払うだけの金もなく、食い逃げ、ならぬ食い殺し」

     今度は、わたしが苦笑する番だった。

    「焼き芋を買う金くらい、あるよ」

     わたしは財布から、くしゃくしゃの千円札を出した。

     釣り銭を受け取り、立ち去るわたしの背後から、焼き芋屋の声がした。

    「旦那! 殺人犯には、気をつけてくださいよ!」

    「きみこそ、殺人焼き芋屋には気をつけるんだぜ!」

     わたしは角を曲がり、片手に握り締めたスパナが、汗で滑りそうになるのを押さえた。

     隙ひとつない男だった。音もなく殴り殺すどころか、無用な千円札まで使わされてしまった。

     そして、やつから放たれる恐ろしいまでの殺気。気を少しでも緩めれば、わたしは殺されていただろう。

     新聞に載る連続強盗殺人事件が、わたしの手によるものだけでない、とわかってはいたが……。

     まさかあんな焼き芋屋だったとは。

     この街ももう潮時だ。

     別の街へ行こう。焼き芋屋のいない、暖かな別の街へ……。
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    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    いえ、だからその、「ふたりともだった」というのが、手塚先生の某作品の展開とそっくりなところだったことに気づいたので、反省しているしだいで……説明不足すみません(汗)

    Re: ポールさん

    いえいえ、「二人ともだった」ところが「さらにひとひねり」した部分だと言いたかったのですよ。さすがだなあと。

    Re: limeさん

    そういう面白さを狙って書いたわりにはうまく処理しきれなかったので、このネタはしばらく寝かせようと思います。いつか使うぞ。たぶん、まったく違う話になっていると思いますが。

    平和な世間話がが、一触即発な空気に変わる感じが、面白いですね。
    2本目の焼き芋は、ちょっと鉄の味がしそうな感じです・・・。

    Re: 矢端想さん

    普通のよくある世間話、と思っていたのが、一変する瞬間が描けたらいいな、と書いてみたのですが、修行不足であったようです。

    あともうひとひねりしないとダメか、と反省忸怩。とほほ。

    これはどっちかが犯人か、って思ったら二人ともだったとは。
    作品には「さらにひとひねり」というのが大事ですね。

    焼き芋屋も同じ思いだったのかも知れません。
    そう思うと急に息詰まるサスペンスに思えてきます。

    Re: ダメ子さん

    あっ、ちくしょう、あれがあったか!

    書いていて、どこかで読んだような話だな、とは思っていましたが、つうこんのいちげきであります。

    手塚治虫のタクシー運転手と客の殺人犯の話を
    思い出しました
    芋の陰に肉も入ってるわけではないですよね…?

    Re: YUKAさん

    いちばん「殺人」と縁のなさそうな存在として「焼き芋屋」を思いついたときには、いける、と思ったんですが、焼き芋屋の魅力(?)を引き出すのにはあまりうまくいってないように思います。うーん、小説、難しいです。

    おはようございます^^

    2人ともだったとは!

    殺人犯を怖がらせる殺気。。。

    焼き芋屋の方が上手ですね~

    Re: LandMさん

    真面目なミステリを書こうとしていたら、よくわからない作品になってしまったでござるの巻(^_^;)

    最近、我ながらアイデアが空回り気味だなあ。少し休もうかなあ。

    シュールなのかシュールじゃないのか。
    いやはやこの辺がポールさんらしいものではありますが。。。
    うむむ。こんなに殺人芋屋がいるとたくさん人がお亡くなりに・・・。
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