「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)
エドさんと緑の森の家・11月4日
「とにかく」
ジム署長がいいました。
「この村に、何者だかわからんが、いたずら者がのさばっていることには、皆さん異論はありませんな」
テーブルを囲んだほかの四人はうなずきました。
「それでは、これより、第一回いたずら者ひっとらえ作戦の会議を始めます」
エドさんは、首筋の汗をぬぐいました。最近の事件のせいで、何をどう信じたらいいのかすらよくわからなくなっていたからです。
「まず、第一の事例。アガサちゃんをいじめていたボブくんを見つけた『ボブくん』が、当人主張するところのその偽物を追いかけていったところ、アガサちゃんの母親であるロラック夫人と鉢合わせし、無実の罪で説教を食らった、と主張」
「いっときますけどね、あたくしは見たんですからね、うちのアガサをあの子がいじめていたのを、垣根越しに」
ロラック夫人はきいきい声でいいました。
「落ち着いてください、夫人。さて、次の事例。便利屋のマクファースンさんの家に、司祭さまがやってこられて、二十分ほど話された、そう、夫妻は主張しておられます。間違いないですか、マクファースン夫人?」
マクファースン夫人、すなわちクロエさんは、硬い表情でうなずきました。
「はい。おっしゃられる通りです」
「そう。そして、司祭さまがおっしゃられるには、エド・マクファースンさんが教会に携帯で連絡したのを聞いた司祭さまご本人が、二十分後にエドさんの家にたどりついた、これで間違いはありませんね」
「はい」
司祭さまもうなずきました。
「そして、三番目の事例。それによれば、落し物の財布を拾ったと主張する数人の小学生……彼らが、それを警察署でわたし本人に渡したと主張している。だが、わたしは、そんなものを受け取った覚えはない」
署長さんは、そこでいったん言葉を切りました。それからおもむろに一同を見渡すと、エドさんを指差しました。
「わたしの推理をいいましょう。まず、第一の事例では、ボブもアガサも、マクファースン氏の行っているチェス教室に通っている。第三の事例でも、わたしに財布を届けに来たと主張している子供たちは、みな、マクファースン氏のチェス教室の教え子たちだ。さらには、司祭さまの偽物が家に来たと主張しているものは、マクファースン夫妻の証言しかない。……エド・マクファースンさん。なにかいいたいことは?」
エドさんはこうなることを恐れていたのでした。
「それなのですが、わたしは、署長さんのお考えになっているようなことは、一切やっていないのです。これに関しては、悪魔のしわざとしか……」
「悪魔のしわざもいいですけれども、わたしは論理的な推理をしたつもりです。ですから、論理的な抗弁をお聞きしたいものですな」
署長さんは、そういった後で、ふいに、頭を抱えました。
「しかし、わたしには、どうも信じられないのですよ。あの、銀行強盗事件のとき、わたしを、部下を、キャサリンを助けてくれたのは、あなたのところのグレンくんですからな。わたしの論理に欠陥があるか、もしくは他の理由によって……」
部屋のドアが開きました。
現れたのは、エドさんでした。
「……失礼、失礼。遅くなりまして。と思ったら、あれ、わたし、来てますね? これは失礼」
みんなが、あっけに取られたように、ドアのそばに立つエドさんと、テーブルについているエドさんを見比べました。双子でしょうか。いや、双子以上にそっくりです。まるで鏡に映したような……そうです! 戸口に現れたのは、エドさんの、鏡に映った姿ではありませんか!
「こちらのほうがいいですかね」
戸口のエドさんは、ぱちんと指を鳴らしました。次にそこに立っていたのは、なんと、警察官としての正装に身を固めた、署長さん本人でした。もう誰の目にも正体が明らかである悪魔は、驚いて身動きもできない五人の前で、その場のひとりひとりを写すように次から次へと姿を変えていき、最後に一条の煙と笑い声を残して姿を消してしまいました。
最初に我に返ったのは、署長さんでした。
「今起こった、事例その四ですが……誰か、いい知恵が浮かんだかたはいませんか?」
いい知恵が浮かんだものは誰もいませんでした。
ジム署長がいいました。
「この村に、何者だかわからんが、いたずら者がのさばっていることには、皆さん異論はありませんな」
テーブルを囲んだほかの四人はうなずきました。
「それでは、これより、第一回いたずら者ひっとらえ作戦の会議を始めます」
エドさんは、首筋の汗をぬぐいました。最近の事件のせいで、何をどう信じたらいいのかすらよくわからなくなっていたからです。
「まず、第一の事例。アガサちゃんをいじめていたボブくんを見つけた『ボブくん』が、当人主張するところのその偽物を追いかけていったところ、アガサちゃんの母親であるロラック夫人と鉢合わせし、無実の罪で説教を食らった、と主張」
「いっときますけどね、あたくしは見たんですからね、うちのアガサをあの子がいじめていたのを、垣根越しに」
ロラック夫人はきいきい声でいいました。
「落ち着いてください、夫人。さて、次の事例。便利屋のマクファースンさんの家に、司祭さまがやってこられて、二十分ほど話された、そう、夫妻は主張しておられます。間違いないですか、マクファースン夫人?」
マクファースン夫人、すなわちクロエさんは、硬い表情でうなずきました。
「はい。おっしゃられる通りです」
「そう。そして、司祭さまがおっしゃられるには、エド・マクファースンさんが教会に携帯で連絡したのを聞いた司祭さまご本人が、二十分後にエドさんの家にたどりついた、これで間違いはありませんね」
「はい」
司祭さまもうなずきました。
「そして、三番目の事例。それによれば、落し物の財布を拾ったと主張する数人の小学生……彼らが、それを警察署でわたし本人に渡したと主張している。だが、わたしは、そんなものを受け取った覚えはない」
署長さんは、そこでいったん言葉を切りました。それからおもむろに一同を見渡すと、エドさんを指差しました。
「わたしの推理をいいましょう。まず、第一の事例では、ボブもアガサも、マクファースン氏の行っているチェス教室に通っている。第三の事例でも、わたしに財布を届けに来たと主張している子供たちは、みな、マクファースン氏のチェス教室の教え子たちだ。さらには、司祭さまの偽物が家に来たと主張しているものは、マクファースン夫妻の証言しかない。……エド・マクファースンさん。なにかいいたいことは?」
エドさんはこうなることを恐れていたのでした。
「それなのですが、わたしは、署長さんのお考えになっているようなことは、一切やっていないのです。これに関しては、悪魔のしわざとしか……」
「悪魔のしわざもいいですけれども、わたしは論理的な推理をしたつもりです。ですから、論理的な抗弁をお聞きしたいものですな」
署長さんは、そういった後で、ふいに、頭を抱えました。
「しかし、わたしには、どうも信じられないのですよ。あの、銀行強盗事件のとき、わたしを、部下を、キャサリンを助けてくれたのは、あなたのところのグレンくんですからな。わたしの論理に欠陥があるか、もしくは他の理由によって……」
部屋のドアが開きました。
現れたのは、エドさんでした。
「……失礼、失礼。遅くなりまして。と思ったら、あれ、わたし、来てますね? これは失礼」
みんなが、あっけに取られたように、ドアのそばに立つエドさんと、テーブルについているエドさんを見比べました。双子でしょうか。いや、双子以上にそっくりです。まるで鏡に映したような……そうです! 戸口に現れたのは、エドさんの、鏡に映った姿ではありませんか!
「こちらのほうがいいですかね」
戸口のエドさんは、ぱちんと指を鳴らしました。次にそこに立っていたのは、なんと、警察官としての正装に身を固めた、署長さん本人でした。もう誰の目にも正体が明らかである悪魔は、驚いて身動きもできない五人の前で、その場のひとりひとりを写すように次から次へと姿を変えていき、最後に一条の煙と笑い声を残して姿を消してしまいました。
最初に我に返ったのは、署長さんでした。
「今起こった、事例その四ですが……誰か、いい知恵が浮かんだかたはいませんか?」
いい知恵が浮かんだものは誰もいませんでした。
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~ Comment ~
Re: らすさん
このシリーズは、「ひとを信じるとはどういうことか」というテーマで書き始めましたが、中盤で、そのテーマに挑戦してくる好敵手が出てきました。
悪意のかたまりに対し、理性と常識は、どこまで戦えるでしょうか、という、作者も思っていなかった展開であります。
先が読めないように書いたつもりですので、どうかお楽しみください。(^_^)
悪意のかたまりに対し、理性と常識は、どこまで戦えるでしょうか、という、作者も思っていなかった展開であります。
先が読めないように書いたつもりですので、どうかお楽しみください。(^_^)
Re: ステラさん
はじめまして。ブログのほうは楽しく拝読させていただいております。ステルラにも参加しようか迷ったのですが、自分の小説さえ詰まっている状態でそちらに参加するのも、わたしのブログを読んでくださるかたに失礼だろう、と判断したもので……。
これからは攻守ところを変えた頭脳ゲームが始まります。逆転再逆転の激しいバトルを狙っています。児童読み物なりに、ですが。
来月末の大団円まで、どうかごゆるりとお楽しみください。
これからは攻守ところを変えた頭脳ゲームが始まります。逆転再逆転の激しいバトルを狙っています。児童読み物なりに、ですが。
来月末の大団円まで、どうかごゆるりとお楽しみください。
Re: YUKAさん
しゃべるわけにはいきませんが、これから二カ月の間、知力の限りを尽くした攻防戦が繰り広げられます。
エドさんはグレンを守りきれるでしょうか? お楽しみに(^_^)
エドさんはグレンを守りきれるでしょうか? お楽しみに(^_^)
こんばんはo(^▽^)o
先日はコメントありがとうございました!
面白い小説ですね。
人間が悪魔を負かすことなんてできるのでしょうか。
自分も小説とか書いてみたいんですけど、
文才がないのでなかなか・・・
悔しいのうギギギ・・・
先日はコメントありがとうございました!
面白い小説ですね。
人間が悪魔を負かすことなんてできるのでしょうか。
自分も小説とか書いてみたいんですけど、
文才がないのでなかなか・・・
悔しいのうギギギ・・・
はじめまして、こんばんは。
いつも楽しみにしています。
エドさんのキャラが好きです^^
いたずら者ひっとらえ作戦(笑)
エドさんが今後、どういう風に出ていくのか楽しみです。
いつも楽しみにしています。
エドさんのキャラが好きです^^
いたずら者ひっとらえ作戦(笑)
エドさんが今後、どういう風に出ていくのか楽しみです。
おはようございます^^
いたずら者ひっとらえ作戦
そんな軽いレベルではどうにもなりませんね。
というか、普通では無理ですね^^;;
悪魔も段々とその存在を誇示し始めました。
どう対抗していくのでしょう~~
実はグレンが鍵だったりして^^
楽しみです!^^
そんな軽いレベルではどうにもなりませんね。
というか、普通では無理ですね^^;;
悪魔も段々とその存在を誇示し始めました。
どう対抗していくのでしょう~~
実はグレンが鍵だったりして^^
楽しみです!^^
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