「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)
エドさんと緑の森の家・11月11日
あの会議の席に悪魔が姿を現してから、村の様子は一変しました。
「署長さん、うちの娘にそっくりなやつが」
「女房そっくりな女に、頭から石炭袋を」
「お父さんにひどく頭をぶたれたけど、お父さん、おれはそんなことやっていないっていうんだよお。ええん、ええん」
のんきだった緑の森の村の警察署は、まるで駆け込み訴えの相談所みたいになっていたのでした。
「悪魔野郎のせいで、うちの村は大混乱だ。よく知っているはずの知人とすれ違うにしても、どっちのやつも身構えて、西部劇みたいに、背中を見せずに、こわばった顔で、円を描くようにして動くんだ。たまったもんじゃない。近くの村の衆は、うちの村のことをなんていっているか知ってるか。『悪魔の森の村』だとさ。去年までなら、そんなことをいうやつには、村の酒場で一杯やりながらたっぷりと意見してやれたんだが、今は、ある意味、図星なものだから、われわれとしてもどうしようもない。困ったものだ」
署長さんの愚痴を聞かされていたエドさんは、頭を下げるしかありませんでした。
「すみません……」
「便利屋さん、あなたが謝ることはない。むしろ、謝るのは、なんの対策も打てないわれわれのほうだ。しかも、この間は、あなたがたご夫妻を犯人扱いしてしまったし」
「それで、この警察署に、わたしを呼んだ理由というのは?」
エドさんは尋ねました。署長さんは、ぶしょうひげをいじりながら、いいました。
「もう、なにに化けているかわからない悪魔野郎だが、ひとつだけ化けていないものがある。もしかしたら、わたしが気がついていないだけかもしれないが、便利屋さん、あなたももと探偵なら、わたしのいわんとすることもわかるだろう」
エドさんはうなずきました。
「うちのグレンのことですね」
「そのとおりだ。ほかのなんにでも化けることのできる悪魔なのに、グレンにだけは化けていない。これはどういうことなんだ?」
「そのいいかたには、ちょっとひっかかるところがありますね。いっときますが、うちのグレンを悪魔の一族扱いしたら、さっさとここから帰らせてもらいますからね」
「誰がそんなことをいった。わたしがいいたいのは、『悪魔野郎には、グレンがどんな姿をしているのか見えていないのではないか』ということだよ」
エドさんは、ちょっと、考えかたの隙間を突かれたかのように思いました。しばらく考えてから、それでも首を振りました。
「それはないでしょうね、署長さん。わたしの前で、あの地獄の国税局は、グレンにコウモリの羽が生えていることを指摘したことがあります。グレンが見えていなければ、いえるせりふじゃありません」
署長さんは苦笑いしました。
「やっぱり、私立探偵といっても、廃業してから一年近くも経てば、勘も鈍るか。あなたもやっただろう、誰かにものをたずねるときに、『かまをかける』というやつをさ。グレムリンが生やしている翼なんて、ふつうはコウモリ以外に考えつかないからな」
「かまを……じゃあ、署長さんは、あいつの言葉を、はったりだと?」
「少なくとも一部はそうだ。やつはやつで、ある種のルールに縛られているに違いない。われわれが考えている以上に、やつもやつで、切羽つまったところがあるのさ」
「ルールですか。そのルールか制約かに従って、やつは目的を達しようとしている。だが、わたしたちには、ルールも制約も、やつの最終目的もわからない」
「最終目的は、半分はわかっているんじゃないかな? グレンだ。グレンをどうにかする、それがやつの最終目的だろう。どうするのかがわかれば、対策を取れるかもしれない」
署長さんは、親指で自分の頭をこつんと叩きました。
「せっかく、神様が与えてくださった脳みそだ、使わなくちゃ、ばちが当たる」
そのとき、がちゃっと扉を開けて、巡査がひとり、どたどたと入ってきました。
「報告します! 村内の建物のひとつで、馬鹿がふたり、考えても仕方のないことで無駄に時間をつぶしているもよう! ひひひ!」
巡査は、煙とともにこうもりに姿を変えると、窓から姿を消しました。それを見て、ふたりは、笑顔を見せました。
「やつめ、かなり追い詰められていますね」
「意見が一致したな。一杯……と行きたいところだが、あいにく勤務時間中なのでな」
エドさんは、どこか、希望を抱いて帰宅の途へつきました。今度はこちらの番です!
「署長さん、うちの娘にそっくりなやつが」
「女房そっくりな女に、頭から石炭袋を」
「お父さんにひどく頭をぶたれたけど、お父さん、おれはそんなことやっていないっていうんだよお。ええん、ええん」
のんきだった緑の森の村の警察署は、まるで駆け込み訴えの相談所みたいになっていたのでした。
「悪魔野郎のせいで、うちの村は大混乱だ。よく知っているはずの知人とすれ違うにしても、どっちのやつも身構えて、西部劇みたいに、背中を見せずに、こわばった顔で、円を描くようにして動くんだ。たまったもんじゃない。近くの村の衆は、うちの村のことをなんていっているか知ってるか。『悪魔の森の村』だとさ。去年までなら、そんなことをいうやつには、村の酒場で一杯やりながらたっぷりと意見してやれたんだが、今は、ある意味、図星なものだから、われわれとしてもどうしようもない。困ったものだ」
署長さんの愚痴を聞かされていたエドさんは、頭を下げるしかありませんでした。
「すみません……」
「便利屋さん、あなたが謝ることはない。むしろ、謝るのは、なんの対策も打てないわれわれのほうだ。しかも、この間は、あなたがたご夫妻を犯人扱いしてしまったし」
「それで、この警察署に、わたしを呼んだ理由というのは?」
エドさんは尋ねました。署長さんは、ぶしょうひげをいじりながら、いいました。
「もう、なにに化けているかわからない悪魔野郎だが、ひとつだけ化けていないものがある。もしかしたら、わたしが気がついていないだけかもしれないが、便利屋さん、あなたももと探偵なら、わたしのいわんとすることもわかるだろう」
エドさんはうなずきました。
「うちのグレンのことですね」
「そのとおりだ。ほかのなんにでも化けることのできる悪魔なのに、グレンにだけは化けていない。これはどういうことなんだ?」
「そのいいかたには、ちょっとひっかかるところがありますね。いっときますが、うちのグレンを悪魔の一族扱いしたら、さっさとここから帰らせてもらいますからね」
「誰がそんなことをいった。わたしがいいたいのは、『悪魔野郎には、グレンがどんな姿をしているのか見えていないのではないか』ということだよ」
エドさんは、ちょっと、考えかたの隙間を突かれたかのように思いました。しばらく考えてから、それでも首を振りました。
「それはないでしょうね、署長さん。わたしの前で、あの地獄の国税局は、グレンにコウモリの羽が生えていることを指摘したことがあります。グレンが見えていなければ、いえるせりふじゃありません」
署長さんは苦笑いしました。
「やっぱり、私立探偵といっても、廃業してから一年近くも経てば、勘も鈍るか。あなたもやっただろう、誰かにものをたずねるときに、『かまをかける』というやつをさ。グレムリンが生やしている翼なんて、ふつうはコウモリ以外に考えつかないからな」
「かまを……じゃあ、署長さんは、あいつの言葉を、はったりだと?」
「少なくとも一部はそうだ。やつはやつで、ある種のルールに縛られているに違いない。われわれが考えている以上に、やつもやつで、切羽つまったところがあるのさ」
「ルールですか。そのルールか制約かに従って、やつは目的を達しようとしている。だが、わたしたちには、ルールも制約も、やつの最終目的もわからない」
「最終目的は、半分はわかっているんじゃないかな? グレンだ。グレンをどうにかする、それがやつの最終目的だろう。どうするのかがわかれば、対策を取れるかもしれない」
署長さんは、親指で自分の頭をこつんと叩きました。
「せっかく、神様が与えてくださった脳みそだ、使わなくちゃ、ばちが当たる」
そのとき、がちゃっと扉を開けて、巡査がひとり、どたどたと入ってきました。
「報告します! 村内の建物のひとつで、馬鹿がふたり、考えても仕方のないことで無駄に時間をつぶしているもよう! ひひひ!」
巡査は、煙とともにこうもりに姿を変えると、窓から姿を消しました。それを見て、ふたりは、笑顔を見せました。
「やつめ、かなり追い詰められていますね」
「意見が一致したな。一杯……と行きたいところだが、あいにく勤務時間中なのでな」
エドさんは、どこか、希望を抱いて帰宅の途へつきました。今度はこちらの番です!
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~ Comment ~
これから反撃開始ですね。でも
煙になって消えちゃうような奴だから物理的に捕まえられる訳はないし。
精神的に参ったさせるという事だと思うけども
どうやってやり込めるんだろう、むむむ。
煙になって消えちゃうような奴だから物理的に捕まえられる訳はないし。
精神的に参ったさせるという事だと思うけども
どうやってやり込めるんだろう、むむむ。
- #9414 いもかるび
- URL
- 2012.11/12 01:05
- ▲EntryTop
Re: YUKAさん
だてに村の治安をあずかっているわけじゃないですからねえ。
この後、事態はさらに二転三転します。お楽しみに~♪
この後、事態はさらに二転三転します。お楽しみに~♪
こんばんは^^
おお!
署長さん、だてに署長じゃないですね!
なんか希望が^^
そしてこっちの番ですね!
楽しみ~~♪
署長さん、だてに署長じゃないですね!
なんか希望が^^
そしてこっちの番ですね!
楽しみ~~♪
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Re: いもかるびさん
だがしかし、世の中には「反則技」というものがあるのです。(^_^)
どんな凶器攻撃で、どんな場外乱闘が行われるか、お楽しみに(^_^)