「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさんと緑の森の家・11月18日

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     さて、今度はこちらの番だ、と意気込んでみたものの、悪魔はあの日から、ぷっつりと姿を見せなくなってしまいました。

     だからといって、すべてがめでたしめでたしで終わったわけではありません。村のみんなに取り憑いた、『疑心暗鬼』という名の怪物は、日ごとにその恐ろしさを増していったのです。

     前にいる人間が、いつ、姿を変じて襲ってくるかわからない、それも、これまでは単なるいたずらですんでいましたが、いつ、それは……。

     真剣に考えはじめると、恐ろしくて、夜も眠れません。

     別な意味で、夜も眠れない人間が、三人ばかり、雁首をそろえていました。もと探偵で、便利屋のエドさん。若くして司祭職を務めることを許されるまでに頭のいい司祭さま。そして、村の治安を一手に引き受ける、ジム署長さんです。

    「……やつが姿を地下に潜らせたのは、なんでだと思う?」

     署長さんの問いに、司祭さまはちょっと考え、いいました。

    「わたしたちの不意を打つつもりなんじゃないのか、とわたしたちに考えさせて、別なところで不意を打つつもりなんじゃありませんかね」

    「頭のいい人の考えることはよくわからん。便利屋さん、通訳してくれ」

     悪魔騒ぎでチェス教室どころではなくなった、いや、本業のほうも危うくなったエドさんは答えました。肩にはグレンがちょこんと乗っています。

    「つまり、わたしたちが、こうして知恵を絞って議論して、悪魔がやってくるのはこのときだ、という結論に達したのを見計らって、その結論の逆手を打って来るんじゃないか、ということですね。チェスでいえば、相手にキングを詰めにかかるぞ、と思わせて、キングを囲わせる無駄な手を打たせてから、真の目的のクイーンをいただく、というような」

    「チェスなら、相手がクイーンを取っている間に、先にキングにチェックメイトをかけちまえ、ということもできるが、うちの村の人間は、誰一人として犠牲にするなどということは絶対にできないからな。悪魔はそれを知っているんだ。ええい、いまいましい」

    「チェスでいえば、わたしにもひとつ意見があります。あまりにも悲観的な見かたにすぎるかもしれませんが」

    「神に仕えるかたにまで、悲観的、だなどといわれては困るんだが、司祭さま、意見をどうぞ」

    「ありがとうございます。わたしが危惧しているのは、相手はもう、『詰めろ』の段階に入っているのではないか、というものです」

    「……つまり?」

     エドさんは、苦々しい思いでいいました。

    「つまり、司祭さまがおっしゃるのは、悪魔はすでにやることをやりつくしており、後はもう、『やることがない』から地下に潜った、ということでしょう」

    「最悪の結論ではそうなります」

     署長さんはコーヒーを飲みました。

    「うちの兄嫁のいとこのガキに、チェスの問題を作るのが好きなやつがいてな」

    「チェスの問題っていうと、あの、盤の上に駒がいくつか並べられていて、何手で詰ませろ、ってやつですか? 新聞の日曜版なんかによく載っている」

    「そう。そいつが自信満々に作ってきた問題に、作者が思いもかけなかった解答を示して、泣かせて帰らせたことがあったが、われわれも、そうした妙手を見つけなくてはならん。だが、困ったことに、われわれには、盤の全てが見えないんだ」

    「もし、やつがそこまで事態を読みきっていたら、われわれの知らない、なにか重要な動きが、どこかで……」

     エドさんがつぶやいたとき、携帯が鳴りました。メールが来たランプが点いています。

    「失礼。誰からだろう? グィドさんだ!」

     書庫で何か見つけたのでしょうか。三人は、そろって携帯の画面を覗き込みました。

    『古文書のひとつから、参考になりそうな文章を発見。要約すれば「悪魔との取引は、悪魔の提示した条件でなんらかの契約が執り行われなければ、年の終わりとともに、悪魔の消滅をもって終了となる」ということだが、これ以外のことは不明。なおも調査中』

     三人は顔を見合わせました。

    「少なくとも、やつもそうとう、追い詰められているということだけははっきりしたな」

     署長さんがつぶやきました。

     エドさんは、メールの続きを読みました。

    『伯爵閣下は、ご多忙につき、年内のご訪問は不可能……』


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    ~ Comment ~

    Re: らすさん

    今連載中のSF小説は、「エドさん」を書き終わってから書きはじめたものです。とはいえ、これもぐちゃぐちゃな構造の作品ですので、頭がウニになりそうです。 

    エドさんは、12月に入ると、怒涛の展開が待っていますよ~。

    こんばんは(´∀`)

    複数の小説が同時進行しているんですね。
    ヽ〔゚Д゚〕丿スゴイですね~
    自分が同じことをやると登場人物がゴッチャになりそうです。


    悪魔もこのまま戻ってこなかったら無事に終わるんでしょうけど、
    これからまた物語が大きく動くのでしょうか。

    Re: YUKAさん

    もとから伯爵は忙しい人であります。

    小さくても独立国の元首でありますから、その人を呼ぶ、というのは、

    「すみませんエリザベス2世女王陛下、国に何の貢献もしていない、外国人の一般人を見舞いにきてくださいませんか? ええ私的に」

    というのも同様であります。

    これでほいほい外国へやってきたら国が滅びます(^_^;) ただでさえ後継者にいろいろ教えることがあって忙しさも倍増なのに(^_^;)

    Re: limeさん

    ふっふっふっ話はそう簡単ではないのだよlimeくん。

    この情報が正しいとして、契約成立の条件が「何の契約も結ばれないこと」だったらどうするのかね?

    そういうことでは悪魔から魂を守るのは難しいですぞ(イヤらしい笑い(笑))

    こんばんは^^

    ただ年末まで何もしない。。。というわけにはいきませんね。

    実は伯爵が悪魔で、忙しいってことは。。。

    考え過ぎですかね^^;;

    これはもしや、ほったらかしにしていればいいと?
    そういうことになりますか?
    (おお、ぜんぶひらがな・・)
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